見える者
名前変更
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【デフォルト名】
笹枝 立花(ささえだ りつ)
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それは突然、というよりも、偶然の出来事だった。
学校の帰り道、突然横の木々から飛び出してきた男は立花に気づくと、驚かしてごめんとだけ言い残し、そのまま走り去ってしまう。
すると、突然突風が通り過ぎ、走り去った男を何かが追って行くのが見え、気になりその後を追いかけるが見失ってしまい引き返そうとした時、視界に神社が映り込む。
戻ろうとしていた足が神社へと歩みを進めるとそこには、地面に座り込み息を切らした先程の男の姿がある。
「大丈夫?」
「うわあっ!?」
急に声をかけたせいか驚かせてしまい謝ると、男は、何でもないんだ、気にしないでくれ、と言いその場を去ってしまう。
その男の背を見詰め、立花は一つの考えが頭に浮かんでいた。
もしかしたらあの男は、自分と同じなんじゃないかと。
「あの制服、私と同じ学校……」
翌日、その男のことを探すと、どうやら立花のクラスの隣で、夏目 貴志という男らしいのだが、色々と家庭に事情があるようだ。
気になり隣の教室を覗いてみると、窓の外を眺めているため顔はよく見えないが、間違いなく昨日の男だとわかる。
何故ならその男は、ただ窓を眺めているのではなく、窓の外の妖怪に視線を向けているからだ。
普通の人なら見ることのできないそれをあの男は見ることができる。
立花は近くにいた生徒に声をかけると、貴志に人気のない階段に来るように伝えてもらうよう頼み、先にその階段へと向かった。
しばらくして貴志が現れると、なんとも言えないものを感じてしまう。
その表情がまるで、仮面を被っているように見えたからだ。
「僕を呼んだのって」
「ええ、私よ」
昨日会ったとはいえあの一瞬だけ、覚えていないのも無理はないが、立花はしっかりと覚えている。
そして立花は告げた。
貴方には、人には見えないものが見えてるのではないかと。
すると、さっきまで被っていた仮面にヒビが入ったかのように表情が変わった。
視線を逸らし、青ざめた表情で誤魔化そうとする貴志の腕を掴むと、耳元で囁くように口にする。
「私も貴方と同じなの」
立花の言葉に返事はなく、密着してしまいそうなこの状態からでは様子が伺えず、一度離れ視線を向けると、その表情は驚きに包まれていた。
だが無理もない。
自分だってまさか、同じ様に見える人物がいるなんて思いもしなかったのだから。
それもこんな身近にいたのだ。
最初は見間違いだとも思ったが、教室にいる貴志を見て確信した。
その視線は間違いなく妖怪に向けられていたからだ。
まだ話したいことはあるものの、予鈴がなってしまう。
「突然こんな話されても驚くわよね。帰りに夏目くんの教室に行くから、一緒に帰りましょ。じゃあ、またあとで」
一旦別れると、何時もと変わらない学校での生活が始まる。
でも、今日はそんな毎日とは少し違う。
仲良くなれるだろうかと考えながら、立花は放課後を楽しみにしていた。
それから時間は過ぎ、ようやく下校時間となると、立花は真っ先に貴志の教室へと向かう。
扉からひょっこり顔を覗かせると、どうやら友達と話しているようだ。
話が終わるのを待っていようとしたとき貴志と目が合い、突然貴志が自分に近付いて来ると、腕掴み歩き出してしまう。
しばらく歩き、学校から少し遠ざかったところで足が止まると、立花の腕から手が放され、貴志は立花へと向き直る。
その表情は真剣で、何か話さなければと考えていると、貴志の静かな声が耳に届く。
「誰にも、言わないでほしい」
「え?」
「僕は、自分が見えているもののことを誰にも話していないんだ」
どうやら、立花が話してしまうんじゃないかと不安だったらしく、立花は安心させるように、絶対に誰にも話さないから安心してと言葉をかけると、貴志はほっとしたのか体の力が抜けたようだ。
そもそもこんな話、話したところで信じてもらえないことくらい立花も知っている。
何故ならそれを経験したことがあるからだ。
その時の事が思い出され、立花の顔に影が差すと、どうかしたのかと、貴志が心配そうに尋ねてくる。
「うん、ちょっとね。でも、大丈夫だから気にしないで」
笑みを浮かべながら言うと、そんな立花に貴志は躊躇いながらも、おれでよかったら話を聞かせてほしいと言う。
そんな言葉を言われたことなどなかった立花は一瞬驚いたが、帰路を歩きながらあの時のことを話す。
それは数年前のことで、立花が小学生の頃の話だ。
その頃初めて見たそれは、誰に話しても信じてもらえず、次第にそんな話をする自分を皆は気味悪がるようになった。
小学生といっても低学年だったため、見えているものが自分にしか見えていないものだとわかっていなかったのだ。
それから年齢が上がるにつれ、これは普通の人には見えないものなのだとわかり、小学生高学年になった頃には、もうその話は誰にもしなくなった。
両親も、小さい頃だったからそんなことを言って気を引きたかったのだろうと思ってくれたらしく、その後は普通の暮らしをおくった。
だが、それは周りにとっての普通の暮らしであり、立花にはまだ妖怪達の姿は見えている。
息苦しい生活だったが、周りに合わせようと頑張り中学生になった頃、あの出来事が起きた。
それは、立花の後をつけてくる妖怪が現れたのだ。
だが気にしないように、目を合わさないようにとし、その妖怪は数日で姿を消した。
そしてそのことに安堵していたのだが、家に帰り夕食を食べていたとき、その妖怪は家の中に入り込んでおり、目が合ってしまったのだ。
ニィッと不気味に笑った妖怪を、必死に無視しようとした。
でも駄目だった。
突然顔を覗き込まれ、立花は叫んでしまったのだ。
来るな、あっちへ行けと。
ハッとしたときにはもう遅かった。
不気味なものでも見るかのような両親の目は、今でも立花の頭から離れない。
そして高校生になった立花は、そんな家族と一緒にいることに耐えかね、この町で一人暮らしをし、学校に通うことにした。
「一人暮らしをするって伝えたとき、両親は反対もなにもせず、安堵の表情を浮かべていたことに私は気づいてた」
自然と視線が地面へと向いてしまうと、貴志は静かに自分のことを話始めた。