1章 トリップしたらすること
名前変更
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倉山 紅那(くらやま くれな)
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「僕も知りたいですね」
「そうだね。お姉さん、何だかさっきから落ち着かないみたいだし」
探偵二人が興味を示している。
それは私にとって有り難いことが、今は話せる状況ではない。
流石にお店の前で立ち止まっていただけで何かを疑われるということはないと思うけど、私の言葉を待つ子供達の視線がある以上、理由を言わないというわけにもいかなそうだ。
一度落ち着くためにオレンジジュースを飲み、その少ない数秒で応えを考える。
コナン君や安室さん、哀ちゃんには嘘だと思われて構わない。
他の子供達相手に通じる言い訳を考えればいいんだから、コナン君達に嘘をつくより遥かに簡単だ。
「さっき安室さんが言ってた通りの理由だよ。素敵なお店だったから入ろうか悩んでたんだ」
これは我ながら良い返しなんじゃないだろうか。
子供達も納得したみたいだし、焦り過ぎて存在を忘れていた梓さんにも「是非これからご贔屓にしてくださいね」なんて言ってもらえた。
なのに、安室さんとコナン君は納得してないみたい。
口には出さないけど、二人の顔には私の言葉が嘘だと書いてある。
哀ちゃんもコナン君の表情を見て察したみたい。
取り敢えず今はこの場を凌げれば問題ない。
早く子供達が解散しないかなと思いながらスマホで時間を確認すると、時刻は17時30分。
ガラスから見える空も少しずつ茜色に染まり始めている。
「もう空の色が変わってきちゃった。歩美そろそろ帰らないと」
「そうですね」
「んじゃな、姉ちゃん」
三人が店から出ていくと「じゃあ、私もそろそろ帰るわ」と哀ちゃんも帰ってしまう。
これは話す絶好の機会だが、梓さんがいるから話せない。
コナン君は何故か帰ろうとしないけど、多分私がお店の外で立ち止まっていた本当の理由を聞き出したいんだろう。
私だって話したいが今はまだ話せない。
これは今日、野宿決定だろうかと思ったと同時にオレンジジュースを飲み終えてしまう。
諦めてお会計をと立ち上がろうとしたとき、梓さんが突然声を上げた。
「あ! レタスがきれていたの忘れてました。他の物もついでに買ってきますので、安室さんここお願いできますか」
「はい、大丈夫ですよ」
梓さんがお店を出て行き、野宿をせずに済むかもしれない状況がようやくやってきた。
これで話せると思ったとき、私より先に口を開いたのはコナン君だった。
「さっきの話だけど、嘘だよね。お店に入る前にお姉さんはボクと安室さんを見てた。その後に、元太達や梓さんに視線が向けられた」
「そして、お店に入ったアナタは何故か落ち着かない様子でした。子供達や梓さんを気にされているようでしたね」
「それにお姉さん、なんで安室さんの名前知ってるの? 誰も口にしてなかったのに」
コナン君に言われるまで自然に言ってたから気付かなかった。
取り敢えず他の人に変に思われずに済んだからよしとしよう。
私が求めていた状況は無事作り出せた。
なら、今度は私が話す番。
二人が知りたがってる答えを教えてあげようじゃないか。
「率直に言うと、トリップしたみたいなんです」
二人は予想していなかった言葉に本気で驚いているのと同時に、トリップなんてあるわけないという疑いを持っているようだ。
無理もない。
ここで鞄から、名探偵コナンの漫画を出せば完璧。
私は鞄に手を入れると本を取り出し「これが証拠です」とテーブルに置く。
二人の視線が本に向けられ、ハモった言葉は「仮面ヤイバー」。
私も自分が置いた本に視線を向けると、そこには何故か仮面ヤイバーの本。
公園で読んでいたのは名探偵コナンだったのに、何故か私が持っていたのはこの世界で子供達に人気の仮面ヤイバーの本。
これではトリップの証拠にはならない。
しっかり確認しなかった私が悪いのだが、まさか読んでいた本が変わっているなど思うはずがない。
愕然としている私の様子を見て「取り敢えずお話しをお聞かせいただけますか」と安室さんに言われ、私は自分が知る全てを二人に話した。
この世界は私にとって本の中の話であり、公園で本を読んでいたらこの世界に来たということ。
黒の組織の幹部のコードネームや安室さんの本名、公安警察のことなど全てを話し終えたあとも私の表情は暗い。
自分達の世界が漫画の中の世界で、その上、トリップしてきたなんて言われて信じられるはずがない。
一体私はこれからこの世界でどうしたらいいのか。
そもそも主人公だから助けになってくれると勝手に思っていたのが間違いだったのかもしれない。
「お姉さんは行くところがないんだよね」
かけられた言葉にコクリと頷くと、コナン君はお店の外へ行ってしまう。
こんな嘘のような話を聞かされて帰ってしまったんだろうか。
「アナタは俺の事を知っているから隠さないが、倉山さんさえ良ければ、俺の——」
安室さんの言葉を遮る形でコナン君が戻ってくると「行くところがないならボクの知り合いのお兄ちゃん家においでよ。今確認とったから」と言われ、私は驚きのあまりに声を漏らす。
話を信じてくれたのかはわからないけど、どちらにしても今の私には有り難い。
「ありがとう! お陰で野宿しなくて済むよ」
「じゃあ早速行こうか」
コナン君が立ち上がり私も立ち上がると、先ずはお会計をする。
鞄から財布を取り出し、このお金が使えることを確認して支払いを終えると、安室さんに呼び止められた。
時間は18時。
こんな時間に女性と子供二人だけでは危ないからと、梓さんが戻ってきてから安室さんが送ってくれることになった。
話を聞いて工藤邸であることを確認した安室さんは、そこなら場所もわかるからということで、コナン君には家に帰るように言う。
確かに、いくら中身が高校生とはいえ今は子供。
こんな時間に連れ回すわけにはいかない。
「工藤邸ということは、先程の電話は彼にですか?」
「うん、そうだけど……」
「なら問題なさそうですね」
関係性などを知ってるから、なんとなくコナン君の心情がわかってしまう。
きっと、安室さんと沖矢さんを会わせたくないんだろう。
安室さんはただの親切心なのかはよくわからないけど、今日のところはコナン君も安室さんの言葉に甘えるようだ。
そんな話をしていると、丁度梓さんが戻ってきて、安室さんが着替えるために奥へ行ったので「なるべく安室さんと沖矢さんを近づけないようにするから安心して」とコナン君にこそっと伝える。