8章 デート
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倉山 紅那(くらやま くれな)
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「何を考えていらっしゃるんですか?」
「この世界で生きていく覚悟のようなものを少し」
工藤邸につくと、私は自室へ行き鞄を置く。
着替えとタオルを手にお風呂に入りその後は夕食。
向かい合ってのいつもの食事でも私の心臓は落ち着いている。
それに沖矢さんも普段通りで、昨日のことなど最初からなかったかのように思えてくる。
夕食を済ませたあとは自室へ戻り、明日着るドレスの準備をする。
箱に入れて紙袋にしまっていると、ノックする音に返事をしてドアを開ける。
そこには沖矢さんがいて、ドレスを受け取りに来たと話された。
仕事終わりに行くということは、このドレスをポアロに持っていかなくてはならない。
それだと荷物になるからと、ドレスは迎えに来るときに一緒に沖矢さんが持ってきてくれるというのでお願いした。
これで明日の準備は完了。
私はベッドに横になると瞼を閉じた。
翌日、ポアロでの仕事中。
お客さんが落ち着いてきた頃、梓さんに「昨日とは違って今日は嬉しそうだけど何かあったの?」と聞かれ、仕事終わりに沖矢さんとレストランに行くことを話した。
「デートなんて羨ましい」
「いえ、デートとは違うというか」
「恋人と二人でレストランなんてデート以外ないじゃない」
恋人という設定をすっかり忘れてしまっていて、私は慌てて「そうですよね」と返事をする。
沖矢さんは、前回の食事のやり直しといった感じで誘ってくれたと思うから、デートなんて甘いものではないのが現実なんだけど。
それでもやっぱり楽しみなことに変わりはなくて、今夜のことを考え浮かれてしまう。
安室さんとお出かけしたばかりなのに、今度は沖矢さんとディナーなんて幸せすぎる。
いくら名探偵コナンの世界だといっても、二回もレストランに強盗が入るなんてことないだろうから今夜は前回の分まで楽しむつもりだ。
そんな幸せ気分の中仕事は終わり、沖矢さんの待つ場所へ向かおうとしたとき、夜に溶け込む一人の人物が姿を現した。
「俺のことは覚えてるな」
「はい、その節は失礼しました。でも、何故ここに?」
黒の組織の幹部、ジン。
彼が私の前に現れたということは、何かを疑っているのだとわかる。
だからといって動揺を見せてはいけない。
「お前とバーボンの関係が気になってな」
「バーボン?お酒ですか?」
わかりやすい私に演技なんて出来ないことはわかってる。
それでも、私の事、そして赤井さん達の事を知られるわけにはいかない。
「お前の事を調べさせた。不思議なことに、出生、両親、その他不明な事ばかりだとわかった」
この言葉に出来る返答がない。
適当なことを言ってこの状況から切り抜けることはできるけど、それが嘘だということはすぐに知られてしまう。
もしそうなれば、一緒に暮らしている沖矢さんや家主である工藤邸の人達の事も調べるに違いない。
「何故そのようなことを調べたのか、どうやって調べたのかはわかりませんが、私にお酒の知り合いはいません」
これで素直に引いてくれるとは思えない。
調べて何の情報もないなんて、普通の人ならありえない事だ。
不安で怖い気持ちをぐっと胸に押し込める。
するとジンは鼻で笑い「どうやら思い過ごしだったみてーだな」と言い残しその場を去った。
何だかよくわからないけど引いてくれたみたい。
でも、あんなあっさり引き下がるなんて逆に怖い。
私はその後、レストランへ向かう車の中で、ジンが現れた事を話した。
それを聞いた沖矢さんもやはり私と同じで、怪しい人間をそのままにはしないだろうという考え。
取り敢えずこの件は沖矢さんからコナン君にも話してくれることになり、それから対策を考えようということになった。
「今はこの件を忘れてディナーを楽しみましょう」
沖矢さんの言う通り。
今考えたってどうしようもないんだから、前回楽しめなかった分も楽しもうと気持ちを切り替える。
しばらくしてレストランに着くと、早速沖矢さんが持ってきてくれた真っ赤なドレスに着替えて二人向かい合い座る。
前回はゆっくり見られなかったけど、やっぱり沖矢さんはスーツ姿も素敵だなと見惚れてしまう。
こんなイケメンさんに告白されたんだと意識していたとき、ウエイターがワインを持ってきた。
「ワインを頼んでおいたのですが、大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫です」
沖矢さんに尋ねられ咄嗟に大丈夫なんて言ってしまったけど、本当は好んでは飲まないし、直ぐに酔ってしまうから普段お酒類は飲まないんだけど、変に意識してしまったせいで顔が熱くなるのを誤魔化すためにグラスを手に取ると口につけ傾ける。
沖矢さんは帰りの運転があるから帰ったら家にあるバーボンを飲むと言っているけど、何だか頭がふわふわとして言葉が上手く聞き取れない。
そして意識がハッキリしたときには、私はベッドの上にいた。
ワインを飲んでいたところまでは覚えてるけど、そこから先の記憶がない。
どうやら工藤邸の自室みたい。
この状況を考えると、ワインを飲み過ぎて酔った私を沖矢さんが工藤邸まで運んでくれたんだろうけど、服がドレスではなくなっている。
これってつまり、沖矢さんが着替えさせたということになるんだろうけど、まさかFBIともあろう人がそんなことはしないだろうと考えを振り払う。
部屋は暗いからまだ夜中だろうか。
取り敢えず水を飲んで酔を覚まそうと、ふらつく足で手すりを掴みながら下へ降りていくと、そこにはグラス片手に沖矢さんの姿があった。
「かなり酔われてましたが、もう大丈夫ですか?」
「はい、まだ少しフラつきますがお水を飲めば、っ」
言葉の途中でフラついた私の体が傾くと、沖矢さんが抱きとめてくれた。
逞しい胸板とお酒の香りに頭までクラクラしだす。
そんな私の体がふわりと宙に浮いたかと思うとソファに座らされ「今水をお持ちしますね」と沖矢さんの声が聞こえた。
意識がふわふわしてハッキリしない。
やっぱりお酒なんて飲むべきじゃなかった。
沖矢さんが持ってきてくれた水を受け取ると、手にひんやりとした冷たさを感じて気持ちがいい。
水を飲むと、火照った体温が下がって少し楽になるのがわかる。
こんなに酔ったのはいつぶりだろう。
元の世界にいた頃も全くお酒は飲まなかったし、意識がなくなるなんてことも今までになかった。
「赤井さんのせいですよ……。赤井さんが恋愛感情として好いてるなんて言うから」
「それで意識したのか」
「しますよ!するに決まってるじゃないですか」
告白、それも好きなキャラからなんて意識しない方が無理だ。
フッたのに意識して、どうしたらいいのか自分でもわからない。
考えないようにってしてても、あの言葉が脳裏で思い出されて鼓動を高鳴らせてしまう。
赤井さんは普段通りで、私よりも大人な余裕があって。
「ズルいです。私に意識させて、赤井さんは何事もなかったみたいに平気で」
「俺が平気だと本当に思うか」
その声に顔を上げると、ソファに座る私を赤井さんは抱き締めた。
耳に聞こえる赤井さんの鼓動は早く、今の私と同じくらいに思える。
「俺は諦めるつもりはないと言ったはずだ。だが、好いてる女を前に感情は隠せても、鼓動の早さまでは抑えることはできんからな」
私ばかりが意識させられてると思ってた。
赤井さんに告白されて私はフッたのに、赤井さんは平然としていた。
もしかしたら、あの言葉自体冗談だったんじゃないかとさえ思えた。
でも、この鼓動を聞いてわかった。
赤井さんの気持ちは本物で、フラレて平気な人なんていないって。
「私、どうしたらいいんですか?」
「お前はお前のまま普段通りにしていればいい」
赤井さんの言うとおりだ。
今は告白されて混乱してるだけ。
私は赤井さんを好きだけど、それはキャラとして。
赤井さんの思いに応えることは出来ないのに、私は自分だけが意識しているという気持ちに混乱して、どうしたらいいかなんて聞いてしまった。
フラレて傷付いてるのは赤井さんの方なのに。
「ごめんなさい。私……」
「気にするな。お前を諦めないと決めたのは俺自身だからな」
好きなキャラにこんな言葉を言わせてしまうくらい好かれた私は、一体赤井さんに何をしたんだろうか。
その後私は部屋に戻ると再びベッドに横になる。
さっきは酔っていた勢いでフッた相手にあんなこと聞いちゃったけど、赤井さんのお陰でなんだかスッキリすることができた。
告白されて意識するのは当然で、それも次第に落ち着くはず。
私は告白をされてフッた。
それが事実で私の答え。
瞼を閉じた私は、明日からは意識せず普段通りに過ごせそうだと感じながら眠りについた。