7章 得た情報は確信へ
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倉山 紅那(くらやま くれな)
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「そんな勝手な理由で沖矢さんを、皆を危険に晒さないで!!」
この世界に来て、ここまで大きな声を感情的に出したのはこの時が初めてだった。
私の態度も気に入らなかった彼女は「貴方がいなければよかったのよ!!」と更に怒りを露わにして私の前まで来ると、片手を振り上げた。
この時私はひっぱたかれるのを覚悟してたけど、小川さんは私と沖矢さんの目の前で消えてしまった。
何が起きたのかわからず混乱していると「先にお風呂に入ってきてください。詳しい話は明日の夜、阿笠邸で」と沖矢さんに言われ、全く理解できずにいた私はその言葉に従うしかなかった。
目の前で起きた事は一体何だったのか、小川さんは何処へ消えてしまったのか。
沖矢さんの落ち着きと言葉からして何か知っているのは間違いなさそうだ。
私はその夜、言葉では言い表せない感覚の中ベッドに横になるが、直ぐに寝付くことはできなかった。
明日わかることを考えるのはやめようと鞄からスマホを取り出すと、怖くて見ていなかった沖矢さんからのメールを開いて読んだ。
内容は、何があったのかとか、今はどこにいるのかなど。
こんなに心配をかけてしまっていたんだと反省していると、ある一文に私は笑みを浮かべた。
その言葉は「俺は信じている」という赤井さんらしい一言。
昨日読んでおくんだったなと後悔してしまう。
安室さんにはまた迷惑をかけてしまったけど、沖矢さんと仲直りしたことと、お世話になったお礼を明日伝えようと考えながら眠りにつく。
翌日。
ポアロに出勤すると、私は直ぐに安室さんに伝えた。
仲直りして工藤邸にまたいられるようになったことを話したとき「それはよかったですね」と安室さんは言ってくれたけど、その表情はどこか元気がないように見えて尋ねたら「倉山さんとあのまま一緒にいたかったなと思っただけですよ」なんて言われて顔が熱くなる。
安室さんはただでさえイケメンさんだから、そんなこと言われたら世の女性は絶対落ちてしまうに違いない。
こういうことをサラリと言うから、冗談でも恥ずかしくなってしまう。
安室さんと一緒の布団で眠ったことなどが思い出されて、これ以上意識しないように話を戻し洋服代だけでも支払いたいと言ったんだけど断られてしまった。
それじゃあ申し訳ないと伝えたら、次のポアロの定休日に一緒に出掛けてほしいと言われたので了承する。
流石にお出かけに付き合うだけではお礼にはならない気がするから、出かけ先で何かお礼ができたらと考えた。
その日のポアロの帰り、お迎えに来てくれた沖矢さんの車で向かった先は阿笠邸。
そこにはコナン君の姿が有り、昨日の不思議な現象の説明をされた。
トリップした人が他にも今までにいたということはこの前阿笠邸で聞いたけど、それは小川さんが現れた事で確かなものとなった。
だがそれにはまだ続きがあり、昨日彼女が消えたことでその不確かだった情報は事実であると証明された。
「僕達が掴んだもう一つの情報は、この世界からの排除だよ」
小川さんが消えた理由、それはこの世界から排除されて元の世界に戻ったということ。
排除理由はいくら探しても見つからず、唯一見つけた情報によると、トリップしてきた者の大半は突然元の世界に戻されるというもの。
だけど注目するのは、この世界に残り続けているトリップ者もいるということ。
書かれていた文によると、排除理由は二つあげられていた。
一つは、この世界に不要だと判断された。
もう一つは、特定の人物を中心としているから。
「特定の人物?」
「理由はわかりませんが、その人物を中心とし、その人物に害をなす者を排除したということでしょう」
「そして特定の人物は、この世界に残り続けるんだと思う」
それはつまり、私がこの世界から除外されれば元の世界に帰れるということ。
だけどそれは叶わないことを、この場にいる三人が理解している。
小川さんが他のトリップ者と関わりがなかったことを考えれば、あのタイミングで消えた原因は明白。
もしかしたら、なんて期待は持てないほど、状況が全てを表している。
「私はもう、元の世界には帰れないんですね……」
「そんな顔をするな。俺が責任を持ってこの世界での安全を保証する」
赤井さんは確信がない期待を私には与えない。
だからこそ、元の世界に帰れないという最悪の状況を考えて言ってくれているのはわかるのに、生まれ育った世界には、二度と帰れないんだと思うと辛くて、私は先に工藤邸に帰ることを伝え阿笠邸を出た。
兎に角今は一人になりたくて、何も考えたくなくて、帰って直ぐに部屋に行くとベッドに倒れ込む。
夕食、お風呂、済ませなくてはいけないことがあるのに動く気になれず、瞼を閉じると無の世界に溶けていく。
いつの間にか眠っていた私が目を覚したのは朝4時。
昨日お風呂に入らなかったから今済ませて、朝食を作ろうとキッチンに行くと料理とメモ書きが置かれていた。
書かれていたのは「朝食は食べてから仕事に向かうように」という一言。
どうやら沖矢さんが作っておいてくれたみたい。
私の口元は自然と緩む。
朝食を済ませ後片付けをすると、私はポアロへ向かう。
昨日あんな話がされたのに、私の心は不思議と落ち着いている。
元いた世界に帰れないのはやっぱり悲しい。
でも、この世界も私にとって今は大切な場所。
帰れないとわかった今、私がするべき事は悲しむことなんかじゃなく、この世界で生きていくという決心をすること。
現実から目を背けるんじゃなくて、私は現実と向き合っていかなくちゃいけない。
ポアロに着いた私はすでに日常となっている仕事をこなす。
今日は安室さんがお休みだから、一応私が元の世界に帰れないということを休憩中メールで伝える。
どうやってそんな情報を調べたかとか聞かれないか心配だったけど、返ってきた返事には「何かあればいつでも連絡ください。力になります」と書かれていた。
沖矢さんも安室さんも、私の事を考えてくれてる。
この先どうなるかはわからないけど、私の側にはこんな頼もしい人達がいるんだからきっと大丈夫。
その日のポアロの帰り。
車内で私は沖矢さんにお礼を伝えた。
今日の朝食も勿論だけど、あまり接触したくないであろう安室さんと会うのを覚悟で私を連れ戻しに来てくれた事への感謝を。
沖矢さんに迷惑をかけてしまったけど、そんな危険を侵してまで迎えに来てくれたことが嬉しかった。
こんな私の事を信じてそこまでしてくれたことが。
少しして工藤邸についたとき、停車した車内でシートベルトを外した沖矢さんに、私は鞄から取り出した小さな紙袋を手渡した。
「気に入っていただけるかわかりませんが、どうぞ」
ようやく渡すことが出来たプレゼント。
安室さんにしたときと同じ様に説明をすると、沖矢さんは私にお礼を伝えてくれた。
正直沖矢さんの感情は少し読み取りにくくて喜んでもらえたのかわからなかったけど、お風呂から出た私の目に、沖矢さんのスマホに銃のチャームが光って見えて、付けてくれたんだと笑みが浮かぶ。
「夕食の準備ができましたので食べましょうか」
いつものように沖矢さんの作ってくれた夕食を食べているとき、明後日の定休日の話になりお出かけに誘われた。
勿論頷こうとしたけど、私は安室さんとの約束を思い出す。
次の定休日は安室さんにお礼をする日。
「すみません。その日は出かける約束をしていて」
「そうですか。では、楽しみは次の機会に取っておくとしましょうか。その時のディナーの際は、またあのドレスを着てくださいね」
前は強盗が現れたりで楽しめるような感じではなくなってしまったから、この前の海での約束通り、ドレスを着て今度は楽しい食事にしたい。
でも先ずは安室さん。
今回のお出かけはお礼ではあるけど、一緒に出かけられるなんて私にとっては嬉しいこと。
二人のイケメンさんとのお出掛けを楽しみにしながら、今日という日は終わっていく。