5章 女心と洋服
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倉山 紅那(くらやま くれな)
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翌朝、目を覚した私は机の上に置いていた紙袋がないことに気付く。
沖矢さんから貰ったドレスだから大切に袋に入れてクリーニングに持っていくはずだったのに、机の下にも落ちていない。
そもそもあんな大きな紙袋、落ちていたらすぐにわかる。
この家にいるのは沖矢さんと私だけ。
もしかしたら沖矢さんが持っていったのかもと思い下に降りていくと、見覚えのある人物二人が沖矢さんと話していた。
「おはよう。君が紅那君だね」
「初めまして。私は工藤 有希子。こっちが主人の優作よ」
「初めまして、 倉山 紅那です。住む場所をお借りさせていただきありがとうございます」
まさかの新一くんご両親登場。
漫画やアニメでは見てたけど、実物の優作さんは思っていた以上のイケメン紳士。
有希子さんも高校生の子供がいるとは思えない若さ。
周りがおばさん呼ばわりしてたけど、二人とも三十代には見えない。
有希子さんに関してはお姉さんとも呼べてしまうくらいの美人さんだ。
「そんなに緊張しなくて大丈夫よ! 事情は新ちゃんから聞いてるから」
「トリップしてきた女性なんて実に興味深いね」
二人の視線に恥ずかしくて顔を逸らしたくなるけど、家主に対してそんな失礼なことできるはずもない。
すると突然有希子さんに腕を掴まれ「紅那ちゃんにはプレゼントがあるのよ」と、私が使わせてもらっている部屋へと引っぱっていかれる。
扉を閉めた有希子さんは、手に持った紙袋から沢山の洋服を取り出しベッドに並べていく。
「じゃーん! 女性がトリップしてきたって聞いて、つい買いすぎちゃったわ」
「こんなに沢山の洋服を私にですか?」
住まわせてもらってるうえに洋服までプレゼントされるなんて申し訳ない。
こんな素性の知れない人間を置いてくれているだけでも有り難いのに。
困り顔の私をよそに、有希子さんはベッドに並べた洋服を手に、私と合わせて一番合うコーデを選んでくれた。
「うん、この組み合わせが一番合うわね。早速着て見せてちょうだい」
その勢いに負けた私が選んでもらった洋服に着替えると、有希子さんは大満足といった感じに絶賛してくれる。
「折角だから二人にも見てもらいましょうよ」
「え?」
再び腕を掴まれ下に降りていくと、有希子さんに背後から肩を掴まれ二人の前に押し出された。
「どう? 彼女とっても可愛いでしょ」
「うん、良く似合ってるね。昴くんもそう思うだろう」
恥ずかしくて顔を伏せているから沖矢さんの表情がわからない。
何も言ってくれないということはやっぱり私にこんな素敵な洋服は似合わなかったんだろうか。
段々この沈黙が恥ずかしくなって、私の頭の中は今すぐ着替えたい気持ちで一杯になる。
有希子さんが選んでくれた洋服だから似合ってないなんて言いにくいのはわかるけど、沈黙が続けば続くほど私が恥ずかしさで耐えられない。
「とても良くお似合いですね」
沖矢さんから発せられた言葉。
嬉しい言葉の筈なのに、私の視界は涙で歪む。
似合ってないって言われるのも辛いけど、嘘で褒められるのも辛い。
このまま顔を伏せていたら涙が零れ落ちてしまう。
だからといって顔を上げたら泣いてるのを見られてしまうから、私は二人にサッと背を向け有希子さんの方を向く。
きっと驚かれてしまったかもしれないけど、二人に涙を見られるより有希子さん一人に見られた方がいい。
歪んだ視界では有希子さんの表情はわからないけど、その方が今の私には良かった。
「折角頂いた洋服ですから、汚さない様に着替えてきますね」
涙ぐんだ声にならないように言葉を声にすると、私は部屋に戻る。
その後を追ってきた有希子さんには折角選んでもらったのに失礼な態度をとってしまったことを謝罪した。
落ち込む私に有希子さんは「紅那さんちゃん違うのよ」とフォローしてくれたけど、それは私を更に辛くさせるだけだった。
その時、扉をノックする音が聞こえて慌てて涙を手で拭い返事をすると、部屋に入ってきたのは沖矢さんだった。
まだ着替えてないから見られたくないのに。
「折角ですから、着替えてしまう前に一緒にお出掛けでもと思ったのですが、いかがでしょうか?」
「勿論いいに決まってるわよ!二人とも行ってらっしゃーい」
私が返事をするより先に、有希子さんが了承してしまい出掛けることになってしまった。
どこに向かうのかも知らない車に揺られながら、私はずっと顔を伏せて考える。
なんで沖矢さんは私を外に連れ出したのか。
「どうかされましたか?」
「沖矢さんがわからなくて……」
意味がわからないといった表情の沖矢さん。
何故こんなにも彼は女心に鈍いんだろう。
そんな彼も私は好きだったはずなのに、その鈍さが自分に向けられると辛い。
いっその事、似合っていないとハッキリ言われた方が楽に思える。
今は工藤夫妻もいないから沖矢さんも言えるはず。
私が泣いたりなんてしたら気にされてしまうから、泣かないようにだけ気をつけないと。
「似合ってないならハッキリ言ってください」
「洋服の事でしたら先程もお伝えした通り、とても良くお似合いだと思いますよ」
私が聞きたいのは上辺の言葉ではないのに、どう言えば伝わるのかわからない。
暗い表情のまま顔を伏せていると、沖矢さんから思いもしない言葉が聞こえた。
「君の白い肌には黒がよく似合う。すまないが、俺にはこれくらいしか言葉が思い付かない。ただ、似合っているという言葉は本心だ」
今私の横にいるのは、沖矢さんではなく赤井さんだ。
口調も彼でぎこちないながらに伝えようとしてくれているのがわかる。
表情を一切変えずに言うのが赤井さんらしい。
自分の顔が熱くなるのを感じ、さっきまでとは別の意味で顔を伏せると「ありがとうございます」とお礼を口にした。
上辺だけの言葉だと思っていたのにそれが本音だと知り、傷付く心の準備は出来ていたけど高鳴る心の準備なんて出来てるはずもなく今すぐ冷水で顔を洗いたい気分だ。
赤井さんは普通に思ったことをそのまま伝えてくれただけなのに、好きなキャラからそんな風に言われたら黒しか着れなくなりそう。
流石にそれはあれだから黒以外も着るけれど、それくらい嬉しくて同じくらい恥ずかしい。
顔の熱を下げたいのに下がるどころか上がっていて、一体私は何をどうしてこんな自体になっているのか。
「着きましたよ」
沖矢さんの声にハッとすると、車がいつの間にか停車していることに気づき顔を上げる。
窓から見えたのは砂浜と海。
時刻は13時。
肌寒くなり始めた今の季節、浜辺に人はいない。
日差しで輝く海が眩しくて目を細めていると、名前を呼ばれて振り返る。