また皆で笑いたい
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「あの表情が頭から離れへんのや。彼女の絶望した表情かおが……っ。何度も何度も」
苦しむ先輩に声をかけようとした瞬間聞こえた言葉に、私は耳を疑った。
そんなのおかしい。
私の知ってる先輩じゃない。
「せん、ぱい……?」
「不思議やったんよ。周りが失望の表情で僕を見る度に、僕の胸はきゅっとした」
先輩は何を言ってるのか、理解してるのにしたくない。
今の先輩の表情は上気していて、それは興奮と言っていいものだ。
「彼女のおかげでこの感情が何か気づいた。あの時の絶望する彼女の表情を見て、僕はめちゃめちゃ興奮した」
私の体は先輩によって床へと押し倒された。
勢い良くぶつかる背がジンッと痛み、現実だと私に伝える。
今になってはっきりと自覚した。
ここは魔界で私は人間。
そして彼は悪魔だ。
「おっと、話の続きしよか」
先輩は私の上から退くと、今回のことに繋がる過去の話を語り始める。
きっかけは過去の師団披露。
キリヲ先輩が兄さんと呼ぶ、先輩との魔具研での出会い。
今より幼かったキリヲ先輩は、悪名高きバビルスの魔具研究師団の噂をきき、師団披露なら学校を開放してるからと潜り込んだ。
そこで出会ったのが兄さんと呼ぶ先輩。
キリヲ先輩は同類を探しに来たと話、包帯が巻かれた自分の左の頭に手を添える。
自分のせいで大事な物を失くした子がいて、ツノがキレイだと言ってくれた事があったから片方あげたんだと話す。
「彼女……すごぉく嫌な顔してた。絶望の表情に興奮するなんて異常なことやてわかってます。僕は壊れてるんや。せやけど——」
「待て。それのどこがおかしいんだ」
その先輩は、キリヲ先輩のそれが元祖返りだと言う。
昔の悪魔は皆そうだった。
キリヲ先輩はその血をより濃く継いだだけだと。
「だが、気持ちはわかるぜ。俺もなぁ、今の魔界が生きにくくてしょうがねーのよ」
魔具研の同類と一緒に、この魔界を元の混沌カオスに戻す。
それが先輩の野望だと教えられ、キリヲ先輩はそれを受け入れた。
それから先輩は、たまに会っては沢山の物や知識を与え、キリヲ先輩がバビルスに入学してしばらく経った頃に言った。
「魔界の秩序である位階を消すぞキリヲ」
それを聞いて先輩はゾクゾクした。
位階なんて階段があるから、みんな目上の者に従ってしまう。
でも、階段を崖にしてしまえば、まさしく混沌。
「で、まずは、位階魔界の象徴バビルスを潰すってなったんやけど、花火の爆発なら派手やしキレイやわ」
つまりキリヲ先輩は、皆で作った花火を使って学校を壊そうとしているということ。
私がこの場所へ来るのを阻まなかったのは、断絶の箱に入れて絶望する様子を見るため。
入間くんやクララちゃん、アズくん。
私の大切な皆が壊れて失くなっていく様子を見せるため。
先輩は嬉しそうに話してる。
私の絶望する表情に期待してる。
でも私は、そんな表情を見せるつもりなんてない。
「よし、決めた」
「ちょちょっちょお待って! これだけのこと突きつけられて、なんで絶望せぇへんの!?」
私は花火が設置された機械の前にその辺にある木箱を積み上げる。
このくらいあれば私の身長でも花火に届く。
「絶望したって、いいことないじゃないですか」
ニコリと笑みを浮かべた私は木箱に乗り、上に置かれていた花火を両手で掴む。
熱で掌が焼けそうに痛むけど、そんなの気にしてる場合じゃない。
キリヲ先輩が悪だとしても、過ごした日々は楽しいものでそれだけは事実。
何より間違った道に進もうとしてる先輩を私は止めたい。
私が知ってる先輩は、凄く優しい悪魔。
それが偽りだとしても、この気持ちだけは本物。
「私は先輩が好きで、今も気持ちに変わりはありません」
「なにゆうてるん……。ムリや、返し」
確かに、魔力がない私には何も出来ないかもしれない。
それでも、今動けるのは私しかいないから。
「先輩、退いてください」
「ちょお待て、そっちは外——。まさか、阿呆なっ」
私は人間で魔力何てない。
同じ人間の入間くんは、悪食の指輪にサリバン理事長の魔力が溜め込まれていて、その力で何とか魔界でやっていけてる。
何もない私を入間くんがいつも守ってくれるから私も何とか魔界でも暮らせてこれた。
そんな私にも一つだけ、サリバン理事長から貰ったお守りがある。
万が一の時に使うように言われた、サリバン理事長の魔力が込められた指輪。
入間くんのとは違い一回使えば壊れてしまう物だけど、今がその使う時。
落下する中、サリバン理事長に言われた言葉を思い出し「パンドルーラ」と叫び花火を投げる。
学校を覆っていた断絶を砕き、花火は夜空に花を咲かせた。
この後の自分の事など考えているはずもなく、私の意識は途切れる。
目を覚したときには全てが終わっていた。
私は隠し部屋の床に倒れていて、そこには入間くんとサリバン理事長もいる。
あれからどうなったのか尋ねれば、キリヲ先輩は魔界警備局に連行されたそうだ。
生徒達にも被害はなく、花火は成功に終わった。
火の粉が凄かったみたいだけど、それはサリバン理事長が何とかしてくれたそうだ。
ホッとしたのも束の間。
私は理事長に肩車されてしまう。
「騒ぎは騒ぎ、おとし前はきっちりつけないとね」
怒られると思ったとき、聞こえてきたのは歓声。
下を見れば、中央広場に集まった皆の視線が私へと注がれている。
「もーみんな大興奮だよ。感動したんだって、君達の花火に」
この歓声は花火を提案した入間くんが浴びるべき何じゃないかと後ろを振り返ると、入間くんはニコリと笑う。
理事長は私を肩車したまま地面へと降り、皆から質問攻めに合う。
「君達はなに師団なの?」
「わ、私達は魔具研究師団です。作ったのは一年、アスモデウス……とウァラク・クララと、鈴木 入間と私。それと三年、アミィ・キリヲの五人です」
先輩と、皆と作った花火は成功。
だけどこの場に先輩はいない。
あなたが恐ろしい悪魔だったとしても、私はあなたがこの場所に帰ってくるのを待つ。
まだ告白の返事だって聞けていないから。
いつかまた、魔具研の皆で笑い合える未来を信じて。