盗みの目的
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♡─ス・キ・魔─♡
一年塔で問題児クラスを探すが、何故か見つからない。
本当にここにあるのかと思っていたら、同じ様にキョロキョロと歩き回る女の子に目が止まる。
最初に来たときも見たからこれで二回目。
あの子も自分のクラスが見つからないんだろうかと思い声をかけてみようとしたが、初対面の相手に掛ける言葉も見つからないんでもう一度教室を探す。
軽く往復したんじゃないか。
本当に一年塔にあるのか疑問に思っていたとき、またあの子の姿。
他に連れもいないみたいで困ってるみたいだし、今度こそ声をかけようと近づくが躊躇ってしまい、横を通り過ぎる自分に、何情けねーことやってんだと嘲笑う。
その時、自分がまた何かを盗んでいたことに気づく。
金になりそうな物にはとくに手が出るのが悪い癖だ。
握っていた手を開くと、そこには一本のピン。
何でこんなもん取ったんだと首を傾げたとき「うわ、あの悪魔なにしてんだ」という声に視線を向ければ、さっきの女の子が通路にしゃがみ込んでいた。
長い髪を垂らして、顔が床につくんじゃないかって距離で何かを探している様子を見て、自分が盗んだピンが彼女の物だと気づく。
周りの悪魔からあんな事言われて嫌な思いさせて、きっと怒るだろうけど無視もできない。
前髪が垂れて視界が悪くなってるんだろう。
気づいてもらえるようにピンを乗せた掌をその子の目の前に差し出せば、両手で手ごと握られドキッとする。
どうやら俺に気づいていなかったらしく、その子が謝罪しながら慌てて手を放したんで「謝んなきゃいけねーのは俺の方だから」と言って、その子の手を掴み掌にピンを乗せた。
「癖で取ったみたいでさ。そんな恥ずかしい事までさせて悪い」
「大丈夫です。でも、取られたことに全く気づきませんでした。凄いですね」
立ち上がったその子は怒るでもなく『凄いですね』と褒めてくれた。
長い髪の隙間から見えた笑みに、またも俺の心臓は高鳴る。
盗まれてあんなめにあたってのに、何でそんな顔ができるのか不思議だった。
勝手に盗んだら怒るのが当然で、少なくても取られてそれを褒めるヤツは今までに見たことがない。
「それじゃあ、失礼します」
一礼して去っていく彼女の背に声をかけようとしたものの言葉が見つからず、その背は見えなくなった。
一年塔にいたなら、またいつか会えると信じて再び教室を探す。
それが、俺とリタちゃんの出会い。
いつかまた会えたらとは思ってたけど、まさか同じ問題児クラスだとは思わなかった。
正直凄く嬉しくてさり気なく挨拶をしたけど「よろしくね」と返事をされるだけで会話は終了。
あの時のリタちゃんは長い髪で視界を遮られていたから、俺の顔なんて見えてなくて当然。
俺は一年塔で教室を探してた時に何回か見かけてたから知ってたけど、リタちゃんにとって俺はピンを盗んだ奴ってだけの存在。
一体何を期待してたんだか。
それから数回程話したりしたものの、リタちゃんはイルマくん達とおトモダチってやつみたいで、いつも四人でいる。
俺だってリタちゃんのおトモダチってやつになりてえのに、声すらかけられねーじゃん。
でも考えてみれば、先にリタちゃんと話したのは俺のはず。
なら、思い出してもらえばいいんじゃないかと思い、兎に角話す切っ掛けを考えて思いついたのが盗みだ。
丁度何か考え事をしてるらしい今がチャンスだと思い素早くピンを盗む。
リタちゃんが顔を伏せた時、前髪がサラリと垂れる。
あの時みたいに髪は長くないが、床に視線を向けてピンを探すリタちゃんの目の前にピンを乗せた手を差し出す。
最初に出会ったときと同じ展開。
これで思い出してくれたらいいんだけどな。
「あ、私の!」
「わりいわりい、つい癖で」
頭の後ろに片手を添えながら言うが、反応からして思い出さなかったみたいだ。
ピンを返せば視線がこちらに向けれたんで、ヘラヘラとした笑みを浮かべてみせる。
「ジャズくんの能力や技術は凄いと思うけど、人の物を取るのはダメだよ」
「次から気をつけるわ」
あの時のことを思い出してはもらえなかったけど、変わらず『凄い』と言ってくれるその言葉が純粋に嬉しかった。
俺の家系は完全実力主義。
取った方より取られた方が悪い。
いつも俺の物を簡単に取る兄貴に何も言い返せないのは、兄貴の方が実力が上だから。
そんな悔しい気持ちを、リタちゃんはその一言で軽くしてくれる。
流石に取るのをダメだと言われてもこれが俺の家系だし、いつか兄貴を超えたいと思ってるからやめることはできない。
「リタち、食堂行こー」
イルマくん達にお昼を食べに呼ばれてリタちゃんが教室を出ていったあと、少しして俺も食堂へ向かう。
食堂についてフと気づけば、手には自分の物じゃない財布。
また他の悪魔の物を取っていたらしく、財布の持ち主であろう悪魔が騒いでいる。
いつもの事だし気にせず通り過ぎようとしたら、まだ食堂にしたリタちゃんに声をかけられた。
怒っているように見えるけど、やめるように言われたばかりでこれじゃあ無理もない。
「やっぱ癖は直んねーよな」
開き直って言うと、持っていた財布はリタちゃんに取られて持ち主に返された。
相手の悪魔の様子からして、俺が取った事は話さないでくれたみたいだ。
戻ってきたリタちゃんは「ジャズくん、ちょっと来て」と俺の腕を掴み人気がないところまで連れて行く。
こういうのって告白とかだよな。
もしかして、出会ったときのことを思い出して俺に惚れたとか。
あるわけ無いと思いつつも落ち着かない。
俺の腕を掴んでいた手を放し振り返ったリタちゃんが言った言葉は、告白なんて甘ったるいもんじゃなかった。
朝も言われた無意識な盗みをやめること。
なんでそこまで気にするのかわからないけど、こうして気にかけてもらえるのは嬉しくもあったりする。
「直すっつてもなー」
「先ずは意識が大切だと思うの、って、言ったそばから」
話している途中でリタちゃんのピンを取れば、ムッとした表情が向けられた。
染み付いた癖はそう簡単に直るもんじゃない。
これで諦めるかと思ったら、彼女は予想外の提案をした。
毎日リタちゃんの物を俺が一つ盗み、その日のうちにリタちゃんが取り返すというもの。
確かに面白そうではあるけど、俺と違い彼女は素人、そんな事出来ないだろと言えば、ポケットから取り出したのは認識阻害グラス。
それを見た瞬間俺はニヤリと笑い「その話乗った」と勝負を受けた。
これで少しは勝負らしくなりそうだが、更に面白くするために内容変更を提案する。
先ず俺がリタちゃんから一つの物を盗むというのは変わらないが、期間は三日。
三日の間に盗めなければ俺の負け。
もし盗めたら、日数はそのままで残った期間内に取り返せれば彼女の勝ち。
リタちゃんが勝ったら今後無闇に盗みはしない。
但し期間内に取り返せなかったときは、リタちゃんから一つだけ何かを貰うという内容。
その条件は受け入れられ、早速明日からゲーム開始。