盗みの目的
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リタ
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悪魔学校には、問題児のみが集められたクラス、問題児クラスが存在する。
人間である私が悪魔に正体を知られればパクリと食べられてしまう。
危険な状況下にいる私が目指すのは、何の問題も騒ぎも起こさず平穏な毎日を過ごすことだったのに、このクラスに入れられた時点でそれは叶わなくなった。
同じクラスには、イルマくんという悪魔らしくない悪魔がいて、彼と一緒にいるといろんな事件に遭遇することがある。
それでも私が彼と関わり続けるのはきっと、この関係が心地良いから。
人間世界では友達なんていなかったのに、魔界に来てからは、イルマくん、アズくん、クララちゃん、三人の友達ができた。
悪魔だろうと人間だろうと私は関係ないと思ってるけど、私が人間だとわかっても三人は変わらず友達でいてくれるんだろうかと時々考えてしまう。
顔を伏せると前髪がサラリと垂れてきた。
ピンで留めてたはずなのに落としたんだろうかと床を見ていると、目の前に差し出された掌には私のピン。
「あ、私の!」
「わりいわりい、つい癖で」
頭の後ろに片手を添え全く悪怯れる様子もなく謝罪するのは、同じクラスのジャズくん。
今までに数回話した程度の相手。
ピンを返してもらい彼に視線を向ければ、ヘラヘラとした笑みを浮かべている。
彼の家系能力は盗視。
対象の隠し持った物を見抜き、最短ルートを示す。
両手全指には金属の指輪が嵌められており、無駄に動けば動くほどカチカチ音が鳴り相手に気付かれる自身への枷。
いくら考え事をしてたとはいえ、髪に付けてるんだから取られれば気づくはずなのに油断も隙もあったもんじゃない。
「ジャズくんの能力や技術は凄いと思うけど、人の物を取るのはダメだよ」
「次から気をつけるわ」
絶対にまたやるなとは思うけど、それを言ったところで癖がなおるわけではないので口にはしない。
彼の家系能力も凄いけど、五指それぞれを限界まで開き、誰にも悟られる事なく一瞬で盗み取る手腕は、家系能力に関係ない彼自身の技術。
悪魔の事はまだわからない事のが多いけど、一年生でここまで出来るのは凄いことだと思う。
人間でいうところの才能だってそう。
努力しなければその才能だってないのと同じ事。
「リタち、食堂行こー」
クララちゃんに呼ばれ振り返れば、イルマくんとアズくんもいる。
ピンも返してもらったしジャズくんと別れ四人で食堂へ向かいお昼を食べていると「俺の財布がねえ」と一人の悪魔が騒ぎ始めた。
その近くにジャズくんの姿を捉えた私は、イルマくん達に「用事ができたからごめんね」と伝えて彼の元へ向かう。
声を掛け財布の事を尋ねれば「やっぱ癖は直んねーよな」と開き直り、上げられた手には財布が握られていた。
先程の悪魔の物だろうそれをジャズくんから受け取り持ち主の悪魔に声をかける。
本当の事は話さず落ちていたと伝えたけど、この癖は何とかした方がいい。
今はこのくらいで済んでいるけど、この先問題にならないとも限らない。
そもそも彼が問題児クラスに入れられた原因がまさにその悪い癖が原因なんだから。
「ジャズくん、ちょっと来て」
ジャズくんの腕を掴み人気がないところに移動する。
ここなら誰にも聞かれることなくゆっくり話せるだろう。
掴んでいた手を放し振り返ると、どこか落ち着かない様子のジャズくん。
取り敢えず本題に入ろうと話す内容は勿論、無意識の盗みをやめてもらうこと。
本人は気にしていないみたいだし、直そうとすら思っていないのは見ていてわかる。
「直すっつてもなー」
「先ずは意識が大切だと思うの、って、言ったそばから」
話している途中で前髪が垂れてきたと思ったら、やっぱりジャズくんの手には私のピン。
直すって話をしてるそばからこれじゃあその気にさせるのは難しそう。
彼が好きな高価な物なんて私には無いし、他に興味を引けそうな方法はないかと考える。
そこで思いついたのが、私の物だけ盗ませるというもの。
私にだけ注意が向いている間は他に目もいきにくくなるし、先ずは直すことより被害を抑えることから始めようと思う。
とはいえこんな内容じゃあ乗ってくるはずもないので、これをゲーム感覚にしてみる。
「毎日私の物をジャズくんが一つ盗む。そしてその日のうちに私がそれを取り返す」
「へー、面白そうじゃん。でも、俺は簡単でもリタちゃんには出来ないだろ」
確かに、相手は盗みのプロと言ってもいい悪魔。
そんな相手から取り返すなんて素人にできない事くらい承知の上だけど、それを可能にする方法があるなら話は別。
ポケットから取り出した物を見せれば、ジャズくんはニヤリと笑い「その話乗った」と言わせる事に成功。
やったと思っていたら、ジャズくんからゲーム内容の変更を提案された。
先ずジャズくんが私から一つの物を盗むというのは変わらないが、期間は三日。
三日の間にジャズくんが盗めなければジャズくんの負け。
もし盗まれたとしても、日数はそのままで残った期間内に取り返せれば私の勝ち。
私が勝ったら今後無闇に盗みはしない。
但し期間内に取り返せなかったときは、ジャズくんは私から一つだけ何かを貰うことができる。
私だけに注意を向けておけばその間だけでも他への被害が抑えられると思っての提案だったけど、まさか本人から盗みはしない宣言をされるとは思わなかった。
全ては私がこのゲームに勝てればの話だけど、少なくても当初の目的は果たせるし、負けたとしても私が持ってる物一つで済むなら安い。
勿論その条件を受け入れ、早速明日からゲーム開始。
「これで決まりだな。そんじゃ」
「待って。まだピン返してないでしょ」
サラッと持っていかれるところだったけど、見逃すほど甘くはない。
明日は先ず盗まれないように警戒しないといけないんだから、今から気を張っておかなければ。
返してもらったピンで髪を留め「明日から覚悟してよね」と宣戦布告。
予め盗まれる事がわかっていれば警戒もできるし、簡単に盗ませなてなるものかと勝負心に火をつけ明日からのゲームを楽しみにその場を去った。
そしてやって来た勝負当日。
何を盗まれるかわからないため、教室に着くとジャズくんから目を離さずにいた。
彼が立ち上がる度、動く度に警戒したけど特に接触もないままお昼。
まさか忘れてるんじゃないかと声をかけたいけど、そう思わせること自体が作戦だったら自分から取られに行くようなもの。
「リタ、何かあった?」
私の様子がおかしいことに気付いたのか、隣でお昼を食べていたイルマくんに声をかけられた。
折角友達と四人でお昼を食べているのに、こんな時まで考えて周りに心配をかけちゃうなんてダメだよね。
「ううん、何でもない。イルマくんは今日もいい食べっぷりだね」
「流石イルマ様です」
「イルマちの胃袋って凄いよねー。どこに繋がってるんだろ」
皆でワイワイと騒いでいたとき、スッと風が通ったような感覚を感じたと同時に、前髪がサラリと垂れてきた。
手を伸ばし触るとピンがない。
まさかと思い視線を向ければ、ヒラヒラと後ろ手に振るジャズくんの手には私のピン。
隙を見せた自分の失態だ。
でも今度は私が取り返す番。
この勝負に勝てばジャズくんの盗み癖を無くすことができるんだから負けるわけにはいかない。
お昼時間が終わり、私はジャズくんが隙を見せるのを待った。
警戒する様子すらなく皆と話している姿を見ると、自分がなめられてるのがわかる。
取り返して見返したいとは思うけど、ただの人間が悪魔から物を奪い返すなんて芸当出来るはずがない。
教室を出ていくジャズくんを追い、ピンがしまわれている彼のポケットに視線を向ける。
無理矢理奪い取りに行けなくはないけど、ポケットから取る前に腕を掴まれ阻止されるだろう。
その後、私はピンのことを諦めたかのように普通に過ごした。
勿論これは作戦。
油断したお昼時をジャズくんが狙ったように、私も諦めたと油断させて最終日ギリギリを狙う。
チャンスは一度きりだけど、何の能力もない私が出来る唯一の方法。