おかしな告白二つ
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リタ
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♡─ス・キ・魔─♡
今日の僕は、普段の毎日とは違う一日を過ごしていた。
いつもなら準備室にいる時間、僕は問題児クラスにいる。
それも、イルマくんの姿で。
何故こんな事になったのか、それは数十分前に遡る。
偶然イルマくんを見かけ声をかけようとしたら、イルマくんの体がグラリと揺れた。
危ないと思い咄嗟に庇うと二人階段から落ち、目が覚めたら入れ替わっていたなんて何かの魔術だろうか。
考えている僕に、イルマくんは一つの答えを導く。
階段から落ちたとき二人の頭は思い切りぶつかったのだが、人間界ではぶつかった事で中身が入れ替わるということが漫画と呼ばれる書物に書かれていると教えられる。
一つの可能性に過ぎないが、あの場にいたのは僕とイルマくんだけ。
魔術の類とは考えにくい。
「そろそろホームルームの時間だね」
「ど、どうしましょう。このままじゃ教室には行けませんし」
慌てるイルマくんに僕が提案したのは、元に戻るまでの間、お互いのフリをして一日を乗り切るというもの。
今出来るのはそれくらいしかなくて、イルマくんは準備室、僕は教室へ向かう。
何だか学生時代を思い出すなと懐かしさを感じながら教室に入ると、イルマくんと仲の良い二人が声をかけてきた。
イルマくんは慕われてるんだなと考えていると「おはよう」という声に視線を向ける。
そこに居たのはリタちゃん。
最初の頃は少しだけど、イルマくんも交えて三人で話す事があった。
なのに、いつしか彼女は僕と口を利かないどころか目すら合わせてくれなくなり、僕は何かしてしまったんだろうかと悩み続けている。
ホームルームを終えると一時間目の授業を行う教室へ移動する。
四人で移動なんて、僕が学生時代のときにすら無かったことだ。
空想生物や絵本が好きで読んでいた僕は、皆から変な奴認定されていたから一緒にいてくれる悪魔なんてカルエゴくんだけだった。
無事に一時間目の授業を終えたけど、ずっとリタちゃんのことばかり意識してしまった。
普段見る目線と違うから、距離が近くてドキドキする。
生徒にこんな感情を抱くのは良くないんだけど、僕は彼女のことが好きだから。
四人で二時間目が行われる教室へと移動していたとき、前から僕の姿をしたイルマくんがやって来た。
するとリタちゃんは僕の後ろに隠れてしまい、やっぱり避けられてるんだなと思うと胸が痛む。
イルマくんが違和感を与えないように挨拶をする中、リタちゃんは僕の背に隠れたまま挨拶すらしようとしなかった。
君が僕をそこまでして避け続ける理由がわからない。
僕の見た目が怖いからかなとも思ったけど、話さなくなる前までは普通に接してくれていたから原因は別にあるんだろう。
「それじゃあ、僕は行くね」
イルマくんがその場を去っても僕の背に隠れたままの彼女。
大丈夫かなと思い声をかければ、頷いて背から離れ「いつもごめんね」と言う彼女に「バラム先生怖いもんね」と痛む胸に耐えて言えば、リタちゃんは不思議そうな顔をしていた。
その後も僕はイルマくんの代わりを果たし、ようやくやって来た放課後。
一緒に帰ろうとする三人からの誘いを断り僕は準備室へ向かう。
朝はゆっくり話すことが出来なかったけど、人間界に入れ替わりがあるなら戻す方法も存在するんじゃないかと思った。
準備室に入り詳しくイルマくんから話を聞いてみると、その漫画と呼ばれる書物には入れ替わった者同士が同じ衝撃を与え合うことで元に戻ると記されていたらしいがそれは危険過ぎる。
同じ衝撃ということは、また階段から落ちなければいけないということ。
僕は問題なくてもイルマくんは人間。
もし怪我でもしたら大変だ。
そんなことを考えていたとき、扉のノック音と開く音に視線を向ける。
最近は全く訪れてくることはなかったリタちゃんがそこにはいて、もしかして僕に会いに来てくれたんじゃないかと期待をしながら尋ねた。
「リタちゃん、どうしてここに……」
「入間くんの様子が今日一日おかしかったから、何か悩みがあるんじゃないかと思って」
予想は違った。
リタちゃんが僕に会いに来るはずなんてないのに、何で期待なんてしたんだろう。
でも、今の僕はイルマくんだ。
彼女の優しさに応えなくてはいけない。
「僕の事を心配してくれたんだね。ありがとう」
「お友達なんだから当然だよ」
彼女はおトモダチだからと言ってるけど、本当はイルマくんのことが好きなんじゃないだろうか。
イルマくんからおトモダチの意味は聞いたことがあるけど、僕を避けてイルマくんの背にいつも隠れるのは、彼女が彼を信頼している証拠。
普段から一緒に行動していることも今日一日でわかった。
二人とも唯一の人間同士、惹かれ合ってもおかしくはない。
「僕はこれから用事があるから、二人はここでゆっくり話していくといいよ」
用事なんてないはずなのに、僕の姿をしたイルマくんは準備室を出ていく。
彼女と二人きりなのは嬉しいけど、今のこの状況では喜べない。
去り際に、イルマくんが彼女に「頑張ってね」と言った一言が聞こえてしまった。
小さな声だったけど、確かに聞こえたその言葉。
イルマくんはリタちゃんの気持ちに気づいていて、彼女に告白させようとしてるんだろうか。
今の中身は僕なのに。
こんな気持ちなんて最初からなければ、二人の恋を心から応援できた。
だけど僕には無理だ。
イルマくんに告白する君の姿なんて見たくない。
「バラム先生いたから緊張しちゃったよ」
「苦手な悪魔と顔合わさせてごめんね」
気持ちを表情に出さないように気をつけながら言うと、リタちゃんは首を傾げる。
なんでそんな反応をするのかわからない。
まるで、怖くも苦手でもないみたいな反応だけど、もしそうなら、何で避けられているのかわからない。
「入間くんには話したでしょ。私がバラム先生の事を好きだって」
突然の言葉に伏せていた顔を上げた。
君の言う好きとはどんな意味で、それをイルマくんに話したってどういう事なんだろう。
「私がバラム先生を好きになった理由覚えてる?」
知るはずがない。
僕はそんな話聞いたことすらないんだから。
ずっと嫌われてると思っていたんだ、僕が黙ることしかできずにいると、彼女は話し始める。
僕との出会いから好きになった経緯を全て。
「それで気づいたら、もう好きになってた」
こんなのまるで、リタちゃんが僕の事を好きみたいじゃないか。
都合のいい解釈をしているだけかもしれないけど、君を誰にも取られたくなくて、椅子から立ち上がると彼女の前に立つ。
こんなに近くで、それも同じ目線で合わせるのは初めてだ。
「僕は、リタちゃんが好きだ」
自分の気持ちを真っ直ぐに伝える。
たとえ教師と生徒、悪魔と人間だとしても、種族なんて関係ない。
僕は君が好きなんだ。
こんな気持ち、君がいなければ一生感じることはできなかった。
なのに君は「その感情は恋じゃないよ」と僕の気持ちを否定する。
だけどこれは紛れもなく恋なんだ。
「僕はこれを恋だと思ってる。リタちゃんの事がずっと好きだった」
僕の言葉を聞くなりリタちゃんは準備室から逃げ出してしまう。
引き留めようと声を掛けるけど、彼女は足を止めることはないまま走り去った。
追いかけなくちゃと走ったとき、僕は階段から足を踏み外す。
この体はイルマくんのなのに、僕は何をしてるんだと自分の愚かさを感じながら、今から来るであろう衝撃や痛みに瞼を閉じようとしたとき、誰かが僕の体を抱きしめそのまま落下した。
閉じていた瞼を開けば、僕の上にイルマくんが乗っている。
自分の手や脚を見れば元の姿に戻っていた。
僕が落ちそうになったのを見て、イルマくんが庇ってくれたようだ。
どういう原理かはわからないけど、元に戻れたことに安堵する。
もう彼女に追いつくことは不可能だろうから、明日改めて話そうと決意し、僕の上で気を失ったままのイルマくんに声をかけた。
翌日。
リタちゃんの背が見え声をかけた。
今までは嫌われてると思っていたから自分から声はかけなかったけど、そんな心配はもう必要ない。
彼女は振り返り僕の名を呼んでくれる。
顔を逸らしてしまったけど、昨日の言葉があるからもう引き下がらない。
僕はリタちゃんを腕の中に閉じ込める。
耳元で「好きだよ」の言葉を囁いたから驚かせちゃったみたい。
彼女は昨日みたいにその場から逃げ出しちゃったけど、その顔が真っ赤に染まっていたのが嬉しい。
僕は準備室へと戻り彼女を待つ。
昨日の君の言葉は、もしかしたら僕とは違う好きかもしれない。
それでも、期待するんだ。
君が来てくれるって。
根拠もない自信だったけど、ノックもせずに開かれた扉。
ホームルームが始まるのに肩で息をするほど全力で走ってきた君を見て、僕は期待じゃなく確信をしてしまう。
呼吸を整えた君が口にしたのは、さっきの言葉の意味。
「うん。先ずは昨日話せなかったことを説明するね。実は──」
昨日の真実、入れ替わりのことを話せば、彼女は何とも言えない表情をしていたけど、これでわかったはずだよね。
君が好きだと話した相手は僕本人だって。
今度こそ逃げずに告白の返事を聞かせてほしい。
君は顔を真っ赤にして、真っ直ぐに僕を見て口を開く。
その返事は求め続けていたもので、気づけば君を抱きしめていた。
先程より少し強く。
《完》