染め上げたのは恐怖か愛か
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♡─ス・キ・魔=カルエゴ=─♡
今日は朝から最悪な気分だ。
あのアホ理事長は、また面倒なことを言い出した。
転入生を入れる。
それも明日から、私が受け持つクラスに。
また面倒事が増えるのかと思うとゾッとする。
たまにはシチロウのいる準備室にでも顔を出して、アホ理事長の悪口でも話すとしよう。
確かにそのつもりで来たんだが、準備室にシチロウは居らず、代わりに見覚えのない女がいた。
「貴様は誰だ。バビルスの生徒ではないだろう」
「あ、えっと、私は……」
バビルスの生徒は勿論、教職員全てを把握しているこの私が知らない生徒などいるはずがない。
侵入者であれば粛清対象だと鋭く睨んだその瞬間「バラムさんの恋人です」などと考えすらしなかった言葉が女から飛び出すと同時に、タイミングよくシチロウが戻ってきた。
こいつの言葉が真実か嘘か確かめてやろうではないか。
シチロウは既に状況が理解できていないようだからな、嘘だということは目に見えている。
女はシチロウに近づくと「お昼を態々ありがとうね」と微笑みかける。
態とらしく腕に抱きつくと椅子まで引っ張っていき座らせているが、何故シチロウは拒否しない。
まさか本当にこの女はシチロウの恋人だとでもいうのか。
「シチロウ、これはどういうことだ」
「いや、僕にも——」
「はい、あーん」
会話を遮る女に苛立ちを覚える。
シチロウに恋人が居るなんて話は聞いたことがなく、隠していたとも考えにくい。
そんな器用な奴じゃないからな。
「友達を連れてきちゃいました」
そこにイルマとアスモデウス、ウァラクまでやって来た。
いつからここはこんなに騒がしいものになったんだ。
「あの子がイルマちが言ってた転入生?」
「何だかバラム先生と親しいようですが」
転入生という言葉で女の正体はわかったが、シチロウとの関係は未だハッキリしていない。
私が担任と聞いて女の表情が曇るのに不愉快を感じると同時に、こんな騒がしいところから早く離れるべく「生徒と教師が恋人など認めん」これだけはハッキリ言い残し去る。
その日の授業終わり、今なら準備室に騒がしい奴等は居ないだろうと訪ねる。
勿論あの転入生とシチロウの関係をハッキリさせるためだ。
だというのに何だ、準備室には、どこに視線を向けているのかぼーっとしてるシチロウの姿。
何を考えているのかは予想がつく。
「恋人というのは嘘だろう」
「本当だよ」
心ここにあらずだった奴から即答で返事が返ってくるが、これは嘘だろう。
どれだけお前と一緒にいると思っている。
「お前の嘘は直ぐにわかる」
「僕と彼女は恋人だよ」
「何故そこまで認めない。いや、認めたくないのか」
何となく関係は読めた。
深い事情までは知らんが、この反応からしてあのリタという生徒にシチロウの方が惚れている。
面倒な事に本人に自覚はなく俺の服に掴みかかってきたが、直ぐに我にかえると謝罪をしてきた。
今の行動は、図星を突かれた事で反応したものだ。
それが己の心を証明している事に気づいていないとは、生物学教師が聞いて呆れるな。
「お前の今の症状をよく考えるんだな」
答えまで教えてやる必要はない。
あとはこいつ自身が考えることだ。
だが、あのシチロウにここまでさせるとはな。
リタという悪魔にそこまでの価値があるのか、明日見定めるとしよう。
翌日。
教室が近づくほど騒がしい声が大きくなる。
どうやら転入初日からすでに話は広まっていたようだ。
あの場にはアスモデウスやウァラクもいたから無理もない。
「粛に」
席につく奴等は放って、転入生であるリタを睨む。
他と変わらんただの生徒にしか見えん。
シチロウはこの女の何処に惚れたというんだ。
「お前達も既に知っているようだが、このクラスに阿呆が増えた」
朝から騒がしくした罰を兼ね、こいつは阿呆の紹介で十分だ。
それにプラスして、一つ釘を差しておかねばなるまい。
「教師と生徒の不純な関係など、私は認めるつもりはない」
どうせ嘘の恋人関係だ。
どう言おうが気にすることもないだろう。
シチロウも女を見る目は厳粛になるべきだな。
そう考えていた私はどうやらこいつを甘く見ていたらしい。
何も言わず黙っているだけかと思えば意見してきた。
この私に。
「悪魔は自分の欲が第一です。恋愛も悪魔の欲ですよ」
本当の恋人でもないというのに反論したこと。
何より、私に正論で返した事に少し興味が湧いた。
どうやらただの阿呆ではないようだ。
その後は授業のため移動。
私があの転入生と顔を合わすことはなかったが、ロビンに「何かいいことでもあったんですか?」と聞かれたのは不愉快だ。
あの女に少しの興味が湧いたというだけで、こんな阿呆にまでわかるほど浮かれていたとでもいうのか。
有り得んな。
昼休み。
食堂に見えたのは、問題児クラスの連中だ。
珍しく全員固まって昼食をとっていると思えば、その中心にあの女がいた。
「朝のリタちゃん凄かったわよね」
「だよなー。カルエゴ先生にあれだけハッキリ言える生徒なんて教師でもいないんじゃねーの」
何の話をしてるのかと思えば、大声でくだらんことを。
いつの間にか向いていた視線が女の目と合う。
このまま逸らすことも出来るが、あの女への興味を確かめるいい機会かもしれんな。
くだらん話をしていた奴等には睨みを利かせ、リタにはついてくるように声をかける。
なんの警戒もせず素直についてくるということが、悪魔にとって悪い事であることを教えてやろう。
私が向かった先は問題児クラスの教室。
先程全員が食堂にいたのは確認したからな、今ここにいるのは私とこいつだけ。
いや、後をついてきた奴が一人隠れているな。
「先生、教室まで来て一体なんの——」
シチロウがどんな行動を取るのか、この女がどんな表情を見せるのか。
私はリタの後頭部を押さえると唇を重ねた。
恋人ごっこなんてことができるんだ。
これくらいできて当然だろうと思ったが、固まったこいつの反応からしてこういう経験は初めてだとわかる。
少ししてようやく状況を理解できたのか、私の胸を押しているようだが非力過ぎる。
恐怖が支配していくその表情は俺をゾクリとさせ、何より頬を伝った涙が美しいとさえ思えてしまうほどに、こいつへの興味が大きくなっていくのがわかる。
唇の隙間に舌を入れようとしたとき、ようやく隠れていたシチロウが姿を現し引き離す。
「バラム、さん……」
震えた声で名が呼ばれたのは、シチロウ。
自分の名がこいつから出ない事に胸が締め付けられた。
そんな痛みを押さえ込むように、ニヤリと口角を上げ「俺は自分のこの欲を満たす。お前はどうする、シチロウ」と、耳元で挑発するようにシチロウにだけ聞こえる声で言う。
「もう大丈夫。準備室に行こうか」
手を引かれ消えていく小さな背。
いくら離れても、今感じた感覚を俺もあいつも忘れることはない。
甘くはないが、恐怖はヒトを支配する。
《完》