染め上げたのは恐怖か愛か
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♡─ス・キ・魔=バラム=─♡
ある日の朝目を覚ますと、いつからいたのか知らない女の子が眠っていた。
バビルスの生徒だろうか。
何だか不思議な匂いのするこの子を、起こした方がいいのか見詰めながら考えていたら、彼女の瞼がピクリと動いき薄っすら目が開く。
起きたかなと思ったとき、自分がまだマスクをしていないことを思い出し慌ててつければ、伸ばされた手が僕の髪に触れた。
まだ覚醒しきれていないのか、僕の裂けた口や剥き出しとなった獰猛な牙を見ても怖がらずに髪を撫でてくる。
その手が優しくて受け入れていたら、その子は再び瞼を閉じた。
暫くして再び目覚めた彼女は、目を擦りながら手探りで何かを探しているような動作をする。
そこでようやく瞼を上げた彼女に僕は声をかけた。
「起きたみたいだね。もう少しで授業も始まるから起こそうと思ってたんだ」
「貴方、夢で見た……。鳥人間!?」
怖がられることはあるけど、鳥人間なんて言われたのは初めてだ。
僕を怪しんでるみたいだけど、寝てる間に何かしたとか疑われてるのかもしれない。
でも、それより気になるのはこの子の言った言葉。
「君、今鳥人間人間と言ったね。人間に興味があるのかい?」
つい食い気味に聞いてしまって変な目を向けられてしまったけど、空想生物が好きな僕にとってそれは宿命のようなもの。
昔から空想生物の話をすると「そんなのいるわけねーじゃん」と言われてきた。
それでも僕は人間の存在を信じ続けている。
周りから何と言われようが、どんな目で見られたとしても。
「同じ生物の観察に興味はないです」
彼女の言葉に僕は固まった。
殆どの悪魔は空想上の生物である人間の存在を信じていないから「人間」という言葉が彼女の口から出たことで興味があるのかと思い尋ねた。
だというのに、その返答はおかしい。
「今君は『同じ生物』と言ったね」
今度は僕の家系能力、虚為鈴を使い尋ねる。
対象の嘘や不正を瞬時に察知する僕の能力の前で嘘は通用しないはずなのに「はい、そうですけど」と言った彼女の言葉に虚為鈴は反応しない。
数秒の沈黙の後、目の前にいる彼女は悪魔とは違う生物なんだと理解した瞬間、僕は興奮して「嘘はいけないよ」と詰め寄っていた。
嘘じゃないことは僕が一番知っているのに。
「尾は? 羽は?」
「そんなのあるわけ無いでしょ! フザケてるんですか」
あまりの事態に、驚きと緊張から床に倒れると、心配した彼女が声をかけてくれた。
よろよろと立ち上がりながら「大丈夫」と言ったその時、ノック音と共に扉が開く音がしたと思えば、聞き慣れた声が聞こえる。
「君、こっちへ来て」
「え? えっと、これは一体どういう……」
何を思ったのか、彼女はイルマくんの腕を掴み引っ張ると自分の背に隠してしまった。
僕への警戒は強いらしく、キッと睨みつけてくるから困ってしまう。
取り敢えず今わかることをイルマくんに伝えようと、その子が人間らしいということを伝えたら「に、人間!?」なんて驚いた声が出された。
僕もさっき知ったばかりだからまだ驚きがある。
警戒されていないイルマくんが、本当に人間なのか彼女に尋ねると「化物じゃなくてごめんね」と何やら落ち込んでしまった。
彼女の様子に慌てたイルマくんが、自分も人間であることを話すとキョトンとする彼女。
「ゆっくり話したほうが良さそうだね。今魔茶を淹れるから、二人とも座って」
その後、僕とイルマくんでここが魔界である事などを彼女に説明した。
話しによれば彼女は、目が覚めたらここに居たらしいから何者かによって連れてこられたと考えるべきだろう。
魔界での記憶を消して人間界に帰すことは可能だが、それではこの話は解決しない。
彼女を魔界に連れてきた者の正体とその理由がわからない以上、魔界で生活をした方がいいと判断し、これからの生活をどうしていくか話し合う。
「なら、今から僕が彼女を連れて理事長のところに相談へ行ってみます。何かわかることもあるかもしれないですし」
理事長には元々報告するつもりだったから、イルマくんがそうしてくれるならそれが現状で一番良い選択だと思い同意すれば、彼女もそうしてもらいたいと言ってくれた。
二人で理事長室へ向かってもらうことにしたけど、彼女は寝間着。
流石にその格好で校内を歩かせるわけにもいかないなと思っていたら、イルマくんが魔術で彼女の服を学生服に変えた。
驚く彼女に指輪の説明をしたイルマくんは、彼女と二人準備室を出て行く。
僕は二人が戻るのを静かに待つ。
本当なら僕もついて行くべきなんだけど、僕がいると変に目立っちゃうから。
暫くして二人が戻って来たから話を聞けば、彼女は理事長に引き取られてバビルスに通う事になったと知り一安心。
バビルスに通い魔界や悪魔についての知識をつけることで、危険を避けることも可能になるから頑張るよう彼女に伝える。
その後、イルマくんは授業があるため教室へと戻り、準備室には僕と彼女の二人きりになった。
少しでも魔界のことを教えておこうと基礎的な事だけを説明すれば、真剣に話を聞き、頷いたり質問したりする彼女。
その姿を見ていたら自然と口元が緩んだけど、次第に彼女の声が聞こえなくなる。
ようやく聞こえたのは「あの……。恥ずか……しい、です」の言葉で、自分が無意識に彼女に触れていたことに気づき謝罪する。
イルマくんの時で人間には少し慣れてしまっていたみたいだ。
そういえばイルマくんが人間だと知る切っ掛けになったのは背中に羽が無かったからだったなと考えていたら、つい彼女の背を撫でていた。
「な、何ですか!?」
「驚かせちゃったね。でも、本当に人間は皆羽がないんだね」
黙り込んでしまった彼女。
今言われたばかりなのに触ってしまったことを謝れば「寝ぼけてましたが私も最初バラムさんの髪を何も言わずに触ってしまったのでこれで御互い様ということで」と言ってくれた。
次からは気をつけないといけないな。
暫くの間二人で話していると、あっという間にお昼になった。
そういえば彼女は朝から何も食べていないんじゃないかと思い「お腹空いたよね」と声をかける。
何か食べられそうな物はないか食堂に見に行ってくることを伝えれば、不安そうにする彼女。
一人にするのは僕としても心配だけど、何も食べないままというわけにもいかない。
少しでも彼女が安心できるように「ここにはほとんど誰も来ないから」と伝えて準備室を出た。
すぐに戻れば大丈夫。
そんな考えだったのに、戻ってみたらカルエゴくんもいて「バラムさんの恋人です」なんて彼女が言った瞬間だった。
状況が理解できずにいた僕に彼女が近づいてくると「お昼を態々ありがとうね」と微笑みかけられ、さっきまでとは話し方の違う彼女に戸惑っていると、腕に抱きつかれ鼓動が高鳴る。
そのまま椅子まで引っ張っていかれ座らされれば「シチロウ、これはどういうことだ」とかなり怒っている様子のカルエゴくん。
「いや、僕にも——」
「はい、あーん」
話そうとすれば彼女は遮るように僕のマスクを外し、今持って来たばかりのお昼を一つ手に取り僕の口に入れる。
突然のことに驚いたけど、食べさせてもらうなんていつぶりだろうと、呑気に懐かしさを感じながら口の中の物が無くなれば再びマスクをつけた。
そこに悪魔二人を連れてきたイルマくんまでやって来て、普段では考えられない数の悪魔が準備室に集まる。
他の生徒を怖がらせたくないから、マスクを付けた後で良かった。
「あの子がイルマちが言ってた転入生?」
「何だかバラム先生と親しいようですが」
「転入生だと……。まさか貴様は、明日からバビルスに転入してくるリタか」
まさか彼女の担任がカルエゴくんだとは思わなかったけど、昔からの付き合いの彼なら安心できる。
だけどカルエゴくんは「生徒と教師が恋人など認めん」と怒って行ってしまった。
イルマくん達も準備室を出て行ってしまい、残ったのは僕と彼女だけ。
「えっと、これはどういう」
「ごめんなさい」
経緯を全て聞かされたけど、流石にマズイかな。
カルエゴくんは真面目だから、教師と生徒が恋人なんて知ったらあんな反応にもなるよね。
直ぐに嘘だと話せばカルエゴくんに怒られはするだろうけど誤解は解ける。
それを彼女はしに行こうとしたのに、気づけば僕は止めていた。
それどころか、このままその嘘を貫こうとまで言ってしまった。
彼女は都合よく捉えてくれたみたいだけど、噂が広がれば学校側から何か言われる事くらい僕自身わかってる。
なのに、嘘を嘘にしたくないなんて変なことを考えていた。