染め上げたのは恐怖か愛か
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リタ
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「そんなに思い詰めなくても大丈夫だよ」
「でも、私のせいで……」
申し訳なくて涙が滲む。
泣いたって何も解決しないのに。
親切にしてくれたバラムさんに私はなんてことをしたんだろう。
後悔や罪悪感が胸に渦巻き俯いていると、頭にポンッと何かが乗る。
顔を上げれば「大丈夫だよ」と笑うバラムさん。
その優しさに抑えていた涙が溢れだしてしまい、少しの間泣いて落ち着いたあと、今後の事を二人で話し合った。
先ず、恋人同士という嘘はそのまま続けること。
その嘘を利用して、近況報告などをこまめにすること。
恋人同士なら頻繁に会ってもおかしくないからとバラムさんは言うけど、別の意味で問題がありそう。
人間界なら教師と生徒の恋愛なんてアウトだけど、魔界はいいんだろうか。
「これからは先生として、恋人としてもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
その後、授業を終えた入間くんがお昼に連れてきてくれたお友達二人と一緒に迎えに来てくれて、四人で帰ることになった。
帰り際、ぽんっとバラムさんの手が頭に置かれ「気をつけて帰るんだよ」と言われた時は顔が熱くなったけど、これも恋人の演技。
帰り道では、お昼に聞けなかった入間くんのお友達二人の紹介をされた。
一人はアスモデウス・アリスくん。
もう一人はウァラク・クララちゃん。
二人とも学生って感じがして可愛い。
そんなことを思ってしまう時点で自分は大人なんだと実感すると、やはり学生として通う事にちょっとした抵抗を感じる。
ここで生活するためには仕方のないことだから、学生時代に戻った気分で馴染まなくてはいけない。
明日からの事を考えるとドキドキするけど、知ってる悪魔が二人と入間くんがいてくれるだけで心強い。
「では、また明日お迎えに上がります」
「じゃあね、イルマちにリタち」
二人と別れたあと、私は入間くんと大きなお屋敷の前にいた。
さすが理事長のお家だなと驚いていると、入間くんが扉を開けオペラさんが出迎えてくれた。
すでに私の部屋や学校で必要なものなども揃えられていてお礼を伝える。
「お気になさらず。リタ様は家族なのですから」
「家族……」
そんな言葉を言われたのはいつぶりだろう。
異変に気づいたオペラさんが「どうかなされましたか」と尋ねてきたので、私は思ったことを素直に話した。
人間界でも両親は居らず一人だったことを。
一人なんて慣れてると思っていたし、それが当たり前のはずだったのに、オペラさんに『家族』と言われてつい嬉しくなってしまった。
「ここでリタ様が一人になることなどありません。どうぞご安心ください」
「はい、ありがとうございます」
もう一人お礼を伝えたい相手がいるのでオペラさんに尋ねると、サリバンさんは仕事をしてるらしく手が放せないとのこと。
「リタ様やイルマ様に会いたいとずっと騒がれていましたよ」
「ふふっ、そうなんですか」
何だか心がぽかぽかと温かい。
何気ないやり取りが心地よくて幸せを感じさせる。
人間界では絶対に無かったものが魔界に来てあるだなんて不思議。
「イルマ様のお部屋は隣となります。他に何かありましたらいつでもお声がけください」
「色々とありがとうございます」
去り際、オペラさんの尻尾が上に上がりゆらゆらと揺れていたのが見え、まるで機嫌の良い時のネコみたいだなと笑みが溢れる。
このまま癒やされた気分でいたいけどそうもいかず、入間くんの部屋を訪ねた私は恋人の件やこれからの事をバラムさんと話した通りに伝えた。
入間くんは疑うことなく信じてくれるとあの後の事を話してくれた。
準備室を後にした三人だったけど、アスモデウスくんとクララちゃんの二人は私とバラムさんが恋人ということに驚きその話ばかりをしていたらしく、問題児クラスの生徒達に知れ渡ったらしい。
嘘を突き通すと決めたから問題はないけど、あまりその件が広がると学校側から何か言われそうな気がする。
カルエゴ先生と問題児クラスだけに留めたいところだ。
色々あったその日の夜は、入間くんやサリバンさんと夕食。
その時にサリバンさんにお礼を伝えれば「君はもう家族なんだからこれくらい当然だよ」と言われて何だか恥ずかしい。
家族って、こんなにもあったかいものなんだと初めて知った。
魔界での初めての夜は温かい気持ちで眠りにつき、翌日は入間くんと私を迎えに来てくれたアスモデウスくんとクララちゃんの四人でバビルスに登校。
教室に着くなり皆の視線が私に注目する。
突然知らない悪魔が教室に入ってきたら当然の反応だと思うけど、どうやらそうじゃなく、今日転入してくる私がバラムさんの恋人だと知られていたみたい。
「バラム先生の恋人って本当かしら?」
「まさかあのバラム先生に恋人がいるとはなー」
「それも生徒って凄いよね」
押し寄せてくる言葉の嵐に何も言えずにいると「粛に」と聞き覚えのある声が聞こえ視線を向ける。
昨日少し言葉を交しただけだけど、あの殺気ある声と私を睨む視線を忘れるはずがない。
寧ろトラウマになりそう。
あまりの迫力に私の周りに集まっていた生徒達が元居た席に戻っていく。
それでも私を睨む視線がなくならないのはやはり昨日の件だろう『認めん』とも言っていたし。
「貴様らも知っているようだが、このクラスに阿呆が増えた」
教師がこんな言葉遣いでいいんだろうか。
問題視してるのが凄く伝わってくる。
「教師と生徒の不純な関係など、私は認めるつもりはない」
とうとう本音を言ってきたけど、不純な関係と言われると少しムッとする。
確かに嘘の関係だし、教師と生徒の恋は良くないかもしれない。
でも、そこには必ず思いがある。
それを不純の言葉で片付けられるのは黙っていられない。
いくら嘘の恋人でも、フリをするなら本気でやらなければ。
「先生に私達の恋愛をとやかく言われたくありません」
「なんだと……」
「悪魔は自分の欲が第一です。恋愛も悪魔の欲ですよ」
昨日も今日も怖いと思った先生だけど、今は怖さより怒りが勝り私は恐れ知らずと化していた。
バラムさんから魔界や悪魔のことはある程度聞いていたからそれを利用して言ってみたけど効果はあったみたい。
先生は私を睨むだけで何も言い返して来ない。
流石に悪魔の本質を盾にしたら何も言えないだろうから。
結果的に私とバラムさんが恋人であることを認めたようなものだけど、クラスの皆は既に知っていることだから問題はない。
あるとすれば、このカルエゴ先生という教師。
友人が関係しているのも影響してるんだろうけど、この火花バチバチな関係が続くのは問題だ。
その後は授業のため移動して、カルエゴ先生と顔を合わせることはなかったけど、クラスの子達からは朝のように質問攻めにあった。
取り敢えず他の悪魔や教師にバラム先生との関係が知られることを阻止すべくクラスの皆には、大事になれば学校側が問題視するかもしれないからこのことは秘密にしてほしいと話せば納得して頷いてくれた。
特に女子は私とバラムさんの恋を応援してくれているらしく、問題児クラス以外の一部悪魔に広がってしまった噂もデマだと広めてくれるみたい。
問題児クラスと聞いたときは少し不安だったけど、皆良い生徒ばかりでバラムさんとの関係が嘘なのが申し訳なくなる。
これも必要なことだからと自分の心を鬼に、いや、悪魔にしたからか、大きなトラブルもなく順調に授業は進み、お昼は何故かクラスの皆と食べることになった。
入間くんにコソッといつもこうなのか尋ねたら、普段はアスモデウスくんとクララちゃんの三人で食べているみたい。
「朝のリタちゃん凄かったわよね」
「だよなー。カルエゴ先生にあれだけハッキリ言える生徒なんて教師でもいないんじゃねーの」
朝は怒りに任せて言っただけだからあまりこの話を大声でしないでほしいなと思っていると、コツコツと嫌な足音が聞こえ私のそばでピタリと止まる。
視線を向ければカルエゴ先生がいて、今までワイワイ話していた皆が一斉に口を閉じたことで私の周りだけが静寂になると、先生はただ一言私に「来い」と言う。
朝の事でお説教かなと覚悟してあとをついていくと何故か外に出た。
それでも歩みは止まらず辿り着いたのは問題児クラスの教室。
誰もいない教室は静かで嫌な汗が背中に伝う。
周りが優しすぎて忘れかけていたけど相手は悪魔。
意識すると急に怖くなってくるけど、弱気になったらそれこそダメだと気持ちを強く保つ。
「先生、教室まで来て一体なんの——」
私の言葉は遮られ、今自分に何が起きているのかわからず固まる。
柔らかなものが唇に押し当てられ、自分の後頭部がカルエゴ先生の手で押さえられていることを順番に理解してカルエゴ先生の胸を思い切り押すけどビクともしない力の差。
一体何を考えているのかさえわからなくて怖いという感情だけが私を支配し恐怖させる。
一筋の涙が頬を伝った瞬間、私は凄い力でカルエゴ先生から引き離された。
顔を上げれば私を庇うように立つ大きな背。
その背を見ただけで私は安心してしまう。
「バラム、さん……」
名を口にすれば震えた声が出る。
唇、後頭部、全ての感覚が鮮明に思い出されて涙が溢れる。
「もう大丈夫。準備室に行こうか」
昨日と変わらない優しい声音。
返事の代わりにコクリと頷けば、私の手は先程感じたものとは違う、優しくあたたかな大きな手に引かれその場を後にした。