染め上げたのは恐怖か愛か
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気持ちよく眠っていたある日の朝、目が覚めると知らない人が目の前にいた。
痛々しそうな口の怪我が目に入ったけど、その人は隠すように慌てて変な金属のマスクをしてしまう。
長い髪、足は鳥でまるでモンスターみたい。
そんな鳥人間に寝惚けながら手を伸ばす。
触れた髪は柔らかく、夢なのに不思議と感覚があり撫でる。
凄く変な夢だなと思いながら、私は再び瞼を閉じた。
それからどのくらい経ったのか、再び眠たい目を擦りながらスマホを手探りで探そうとするがない。
まだ覚醒しきれていない瞼を上げると、そこは知らない部屋だった。
「起きたみたいだね。もう少しで授業も始まるから起こそうと思ってたんだ」
「貴方、夢で見た……。鳥人間!?」
叫ぶと共に覚醒すれば、鳥人間は驚いた表情で見詰めている。
まさか誘拐。
でも私は独り暮らしの社会人で、両親も幼い頃に亡くなって祖父と祖母に育てられてきたけど数年前に二人も亡くなってしまった。
普通誘拐するなら小さな子、お金持ちの子だと思うんだけど、この人も私なんかを誘拐してしまうなんて。
鳥人間の格好やマスクまでして姿を隠してるのに可哀想な誘拐犯。
寝ぼけてはいたけど、マスクを外した姿もぼんやりと覚えている。
特殊メイクだったんだろう。
そこまでの準備をしたのはすごいけど、誘拐は犯罪。
他の人が犠牲にならず、何の価値もない私が拐われたのは喜ぶべきこと。
こんな私でも誰かの役に立てたんだから。
「君、今鳥人間と言ったね。人間に興味があるのかい?」
一体この鳥人間は何を言ってるんだろう。
人間に興味があるのかという質問は、人間観察をしてるかってことなんだろうか。
「同じ生物の観察に興味はないです」
私の言葉に固まる鳥人間。
もしかしてただのお金目的ではなく、変な性癖を持った危ない人なのかもしれない。
「今君は『同じ生物』と言ったね」
「はい、そうですけど」
私が人間というのがそんなに驚くことなんだろうか。
こんなマスク付けて鳥のコスプレまでした変な誘拐犯よりは余程人間だと思うんだけど。
そんなことを考えていると、鳥人間は凄い剣幕で「嘘はいけないよ」と言ってきた。
この誘拐犯、私が人間だというのを嘘呼ばわりするなんて、この人には私が化物かなんかにでも見えてるんだろうか。
「尾は? 羽は?」
「そんなのあるわけ無いでしょ! フザケてるんですか」
イラッとして少し怒った口調で言えば、鳥人間はバタンと床に倒れた。
さっきから本当に何なんだろう。
取り敢えず大丈夫か声をかければ、よろよろと立ち上がり「大丈夫」と言った。
その時、扉をノックする音とガラガラと開く音。
そして「バラム先生」と言葉を発して入ってきた子供。
もしかすると、事態はもっと深刻なのかもしれない。
他にも子供を誘拐していて、そのうえ先生と呼ばせてるなんて変な人だ。
「君、こっちへ来て」
「え? えっと、これは一体どういう……」
私は青髪の少年を守るため、腕を引っ張り自分の背に隠す。
キッと睨みつければ、鳥人間は困った表情を浮かべ「この子、人間らしいんだ」と口にすれば、私の後ろで「に、人間!?」なんて驚いた声が聞こえて、この少年にまで私は人間に見られていないのかと何だか悲しくなってきた。
心にダメージを負っている私に追い打ちをかけるように「あの、本当に人間なんですか?」と言う少年の言葉でトドメを刺された。
「化物じゃなくてごめんね」
そう言いながら落ち込む私を見た少年があわあわしだすと何を思ったのか「僕も人間なんです」と当たり前のことを言う。
キョトンとする私とその反応が理解できていない少年。
全てを見ていた鳥人間の「一度落ち着いて話したほうが良さそうだね。今魔茶を淹れるから、二人とも座って」という言葉で私も少年も椅子に座る。
その後、私は二人からの説明を受け、自分の置かれた現状を理解した。
この世界は魔界で、今私達が居る場所は悪魔学校バビルスの準備室。
到底信じられる話ではないけど、二人が嘘をついてるようには見えない。
魔茶というモノを飲んで先程より気持ちが落ち着いたからか、じっくり見れば鳥人間のコスプレではなくしっかりとした身体の一部であることもわかる。
青髪の少年、入間くんも人間だと話されたけど、気づいたらこの準備室で眠っていた私とは違い、入間くんは両親に売られて悪魔であるサリバンさんの孫になったらしい。
サリバンさんはこの学校の理事長であり、悪魔の中でも魔王に一番近いとされる凄い悪魔の一人だとか。
そこまでの説明が終わったところで、私の置かれた状況に話は戻る。
魔界での記憶を消して人間界に帰ることは可能らしいけど、それではこの話は解決しない。
私が何故魔界に連れてこられたのかその理由がわからない以上、人間界に戻るには不安が残る。
「危険ではあるけど、原因がわかるまでは魔界で生活をした方がいいだろうね」
鳥人間、ではなくバラムさんの考えが私にとって一番良い選択ではあるんだけど、それには不安もついてくる。
話しによれば魔界で人間は空想上の生物だが、もし正体が知られれば食べられてしまうという危険と隣り合わせ。
バラムさんは空想生物学の教師であり人間の存在を信じ興味の対象としていた。
だからこそ入間くんが人間だと知っても食べるではなく貴重で保護されるべき存在だという考えだった。
そんなバラム先生はバビルスの中でもサリバンさん以外で唯一入間くんが人間であることを知っている数少ない悪魔の一人であり、他の悪魔に入間くんが人間であることを知られないようにしてくれている協力者。
人間である事を知っても協力してくれる悪魔がいる。
何より同じ人間の入間くんがいる。
それだけでなんだか魔界での生活も出来そうな気がしてくるから不思議だ。
「じゃあ先ずは、これから生活するためにどうするかだね」
「なら、今から僕が彼女を連れて理事長のところに相談へ行ってみます。何かわかることもあるかもしれないですし」
バラムさんは入間くんの考えに頷き、私もそうしてもらいたいと伝え二人で理事長室へ向かうことになったわけだけど、今の私は寝間着。
流石にこの格好で学校内を彷徨くわけにはいかない。
かといってここに私が着れるような服はないだろうから、どうしたものかと考えていると「チェルーシル」と言った入間くんの言葉で私の服は一瞬にして学生服に変わった。
同じ人間なのにこんなことができちゃうなんて凄いと驚いていると、この魔術が使えるのは入間くんが指にはめている悪食の指輪のお陰だと話してくれた。
魔力を溜める魔具と呼ばれる物らしく、この指輪にはサリバンさんの魔力が溜め込まれている。
つまり入間くんは、サリバンさんの魔力を使って魔術が使えるというわけだ。
服装も問題なくなったところで入間くんと準備室を出て歩いていると、入間くんや私と同じ制服を着た悪魔と擦れ違う。
人間のような見た目の悪魔もいれば人間とはかけ離れた姿の悪魔もいて、ここは魔界なんだと実感する。
「ここが理事長室だよ」
扉をノックした入間くんが中に入るのに続くと「いーるまくーん」と叫びながら入間くんに飛びつくおじいさん悪魔。
いきなりの事に黙って見ていることしかできずにいると、薄く開かれた瞼から覗いた瞳が私を捉えた。
「あれ? その子、人間だね」
なんでわかったんだろうという疑問とその瞳の鋭さに嫌な鼓動の高鳴りを感じていると、私が尋ねようとしていたことを入間くんが聞いてくれた。
悪魔とは違う人間の匂いがしたからみたいだけど、よく私ここまで無事だったなと今更恐怖を感じる。
サリバンさんの話だと、人間の匂いを消すために入間くんは特殊な香水をつけていて、その入間くんと一緒に来たことで人間の匂いが誤魔化せたんだろうということだけど、私一人だったら危なかった。
「ところで、なんで人間の君がここに?」
私は全ての事情を説明した。
とはいっても、何故魔界に居るのかとか肝心な理由はわからないわけだけど記憶にある範囲での事を全て話せば、サリバンさんが私の前に立ちじっと見てくる。
「うん。じゃあ君はこれから僕の屋敷に住んでもらって、バビルスに通わせよう」
あっさり言われた内容は有り難い話ではあるけど、バビルスに通うという事は悪魔学校の生徒になるということ。
「あの、それは有り難いんですが、私はもう社会人ですし……」
「え!? リタさんって大人の人だったんですか」
見た目が幼く見えるし、入間くんがずっとタメ口だったからなんとなくわかってはいたけど、私はれっきとした社会人。
学生服を着てコスプレみたいな状況だけど、今の自分の立場で文句など言えない。
だからってそんなに驚くほど子供っぽいんだろうか。
私から見たら入間くんは自分より遥かに年下だから複雑。