MyTeacher
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リタ
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「私、楽しかったんだ……」
今まで私は誰からも向き合ってもらえなかった。
理解力の無さは勉強だけでなく悪魔関係にも影響して、周りは私と話す事自体避けた。
そんな私の成績は一桁。
理解力がないんだから当然と言える成績。
聞ける人なんて居なかったから一人で頑張るしかなかったのに、ある時、同じクラスのイルマくんと初めて話した。
彼は私の話をしっかりと聞いてくれて、尋ねれば真剣に答えてくれる。
初めて私と向き合ってくれた悪魔。
イルマくんとおトモダチというアスモデウスくんやクララちゃんとも次第に話すようになったが、理解力の無さにアスモデウスくんはいつも呆れていて、クララちゃんにも理解力の無さで直ぐに別の興味がある物に移り変わられてしまう。
悪魔関係も勉強もダメで落ち込んでいた時、私と同じくらい勉強が苦手だったイルマくんが赤点を回避した。
どうしていきなり点数が上がったのか尋ねて教えてもらったのがバラム先生だった。
バラム先生といえば、生徒で実験をしていると噂され、怖がられている悪魔。
「危なくないかな」
「全然! バラム先生はとっても優しくて、勉強も凄く解りやすく教えてくれるよ」
嬉しそうに話すイルマくんを見て、私は思い切ってバラム先生を訪ねた。
扉をノックすると中から返事が聞こえ、ガラッと開かれた扉の向こうにはカルエゴ先生とはまた違った怖さを纏う悪魔の姿があり、私は悲鳴のような声が小さく口から出た。
「あれ? 初めましてだよね。珍しいな生徒のお客さんなんて。どうぞ入って。今魔茶を淹れるね」
先生は中へと戻り魔茶を淹れ始める。
私もここに立ったままというわけにもいかず恐る恐る中へと入れば「そこの椅子にどうぞ」と促され椅子に座る。
魔茶を溢さないように慎重に淹れるバラム先生を見ていたら、何だか聞いていた噂と違い笑みが溢れた。
「どうかしたかな?」
魔茶を淹れた湯呑みを手に私を見た先生が不思議そうに尋ねてきたので、私は思ったことを素直に伝えた。
「あー、よく怖いって言われるからなぁ」
「でも、今は全然怖くありません」
「それなら良かった。ところで君は、何か僕に用事があったんじゃないのかな?」
これが、私がバラム先生に勉強を教えてもらうことになった経緯。
イルマくんもそうだったけど、バラム先生も私をしっかり見てくれた。
理解力の悪い私にいつも付き合ってくれる。
毎日がつまらなかった私。
勉強がそこまで好きというわけではなかった私。
そんな私の世界を一瞬で変えてくれたのはバラム先生。
私が勉強を頑張るのは、先生が教えてくれたことは全て私の中にあると証明したかったから。
今涙が溢れるのは、それが証明できなかった時の不安と、バラム先生との時間が無くなってしまう悲しさ。
少しでも長く先生と居たい。
そんな欲が私の中に芽生えていたなんて今まで気づきもしなかった。
気づいたところで、この欲の名前を口にする事はできない。
こんな辛い感情に気づいてしまった今、結果がどちらだとしても道は一つ。
テスト返却当日。
結果は見事合格ライン。
なのに私の表情は暗い。
「先生、用事があるので失礼します」
私はテスト結果を手に走り出す。
向かった先は勿論、準備室。
ノックもせずにガラッと扉を開ければ、バラム先生がこちらを見る。
「テスト、合格ラインでした」
「やったね! これでカルエゴくんとの約束も——」
「ありがとうございました」
私はバラム先生の言葉を遮ると、話す隙を与えさせないくらいに今までの感謝を伝えた。
結果がどちらにしても、気づいてしまった気持ちを抱え込んだままここに来るのは耐えられない。
だから私は——。
「もう私は大丈夫です。これも先生のお陰です。カルエゴ先生には私からお伝えしますので」
「リタちゃん、さっきからどうしたの? まるでもうここには来ないみたいに」
溢れそうになる涙をグッと耐え、その言葉に笑みを浮かべる。
バラム先生も気づいたようだ。
私がもうここに来るつもりはない事に。
これ以上ここに居たら涙が溢れてしまいそうで、私はバラム先生に背を向けると扉に手を伸ばす。
その扉は私が開けるより先に開かれ、伏せていた顔を上げると、そこにはカルエゴ先生がいた。
バッチリ見られた潤んだ瞳。
何か聞かれる前にこの場から逃げたくて、先生の横を走り去ろうとしたとき、突然カルエゴ先生に腕を掴まれそのまま引っ張られて行く。
状況が理解できないが、あの場所から離れることができた事に今は安堵する。
人気がない裏庭まで来たところで、カルエゴ先生は足を止め私へと振り返る。
拭えずにいた涙が瞬きでポタリと落ち溢れて止まらない。
「貴様は何をしてる」
「何をって……っ、引っ張ってきたのはカル——」
「そうではない。何故シチロウにあんなことを言った」
全部聞かれていたことを知り、私は先生の目から視線を逸らす。
言えるわけがない。
この気持ちを本人に口にできないのに、相手がカルエゴ先生なら尚更知られるわけにはいかない。
私にできる事は黙秘。
黙っている限り知られることはないし、話さないと分かれば諦めてくれるはず。
そもそもカルエゴ先生には関係のない話なのだから、深く関わろうとなんてしないはずだ。
「貴様のシチロウへの感情に気づいていないとでも思っているのか」
気づかれていたことにも驚いたが、その後続けて話された内容に私は更に驚いた。
カルエゴ先生は、最初こそバラム先生と私が二人で長時間いることを問題視していた。
勉強の事でここに来ているであろうことは予想していたようだが、更なる問題点があることに直ぐに気づき、テストで合格ラインに入れという条件を出した。
その後も勉強する姿を見て、その問題点は確信に変わり、合格ラインに入れなければ節度ある距離を保つようにさせることを改めて決めた。
「だが貴様は合格した」
「合格しても選べる道は一つなんです。私の気持ちをご存知ならわかりますよね」
「そうだな。それが正しい選択だ。だが、もう一つの選択もある」
そう言ったカルエゴ先生は、私の後ろに視線を向ける。
すると背に声がかけられた。
でも振り向けない。
振り向いてはいけない。
なのに、その声は私の目の前に来た。
「まだ話は終わってないよ。カルエゴくん、悪いけどリタちゃん借りてくね」
私の腕を掴み歩き出す。
顔を上げれば、大きな背中が目の前を歩く。
何でバラム先生は追いかけてきたんだろう。
何で私を捕まえているんだろう。
カルエゴ先生が言った『もう一つの選択』という言葉が脳裏に浮かぶ。
これがきっと、その選択なんだ。
《完》