宛先は誰にも知れず
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
※囚人番号は固定となります。
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「変わってるな」
「そうかもしれません」
そう言いながら崩そうとしない巫兎の笑みに不思議と惹かれ、その日から、宿直の度に猪里は巫兎に声をかけた。
勿論手伝いなんて面倒なことはしないが、一人だった宿直の時間にこうして巫兎と二人で話すのは、猪里にとって癒しの時間になっていった。
「今思えば、あの時から俺は巫兎を好きになってたんだよな……。はぁ、まさかこの年で恋をするなんてなぁ……」
二人が恋をした日のことを思い出していると、時間は鍛練終了時刻となり、猪里と猿門は8房へと向かう。
すでに8房にはリャン、ウパ、チィーの3人の囚人が戻されており、そこに巫兎がいないことを確認すると、牢の鍵を開け、二人は房の中へと入る。
「あれ?二人ともどうしたの?」
「お前には用はねぇ。2番と58番」
猿門に番号を呼ばれたリャンとウパは、直ぐに何の話かわかると、猿門の元へと行く。
「何か俺だけ仲間はずれだね」
皆が固まって話す中、一人仲間はずれにされたチィーが房の隅で寂しそうにしているが、そんなことは気にもせず、4人は話始める。
勿論リャンとウパを呼んだのは、巫兎についてだ。
「で、何かわかったか?」
猿門に聞かれた二人は眉を寄せ、その表情で聞かずともわかってしまう。
「なんだ、わからなかったのか?」
二人のその表情に猪里が口を開くと、リャンとウパは頷く。
回りくどいやり方が好きではない二人は、巫兎に直接、好きな奴はいるのかと聞いたのだが、いませんよと返事を返されたようだ。
そこまではよかったのだが、なら、猿門と猪里が見た手紙は誰に宛てたものなのかということになる。
二人はラブレターだと言っていたため、そうなると巫兎は好きな相手を隠していることになる。
だが、だからと言って手紙のことをリャンとウパが知っているのは可笑しいため直球に聞くことはできず、何か好きな相手に繋がるヒントでもないかと二人は会話を続けた。
「巫兎さんは、ラブレターというものを書いたことはありますか?」
ウパの質問は唐突なものだが、この質問ならラブレターに関しての話が聞けるかもしれないと二人は答えを待つ。
だが、返ってきた返事は秘密という言葉だけであり、その言葉が意味する答えは、書いたことがあるということだ。
でなければ、秘密と答える必要はない。
相手はわからなかったが、猿門と猪里が見た手紙がラブレターであることは確信へと変わる。
「なるほどな。悪かったな、こんなこと頼んじまって」
「いえ、猿門さんのお力になれるなら、私は何時でも協力します!」
「ボクもです!」
結局手紙の相手はわからなかったが、あの紙が改めてラブレターであることが決定に近づき、看守室へと戻った二人は肩を落とす。
ラブレターだと疑ってはいた二人だが、心のどこかで、そうでないことを願っていた。
「フラれちゃいましたね、俺ら」
「告白すらしてねぇのに、フラれたなんて口にしてんじゃねぇ」
「主任はそうかもしれねぇけど、俺は巫兎と年が離れ過ぎてんスよ?そんな巫兎に好きな相手が出来たら、もう俺みたいなおじさんはフラれた様なもんじゃないッスか」
平気なふりをして何時ものように軽く言う猪里だが、その笑みはどこか悲しげだ。
そんな猪里にたいし、恋愛に年は関係ねぇだろと言う猿門の言葉に、猪里はぎこちない笑みを浮かべながら、そうッスねと返事をする。
そんな重い空気で満たされた看守室の扉が開かれると、今まさに話していた人物が中へと入ってきた。
「すみません、戻るのが遅くなりました!」
8房の鍛練終了から、かなり時間が経っていたことに気づき、どうかしたのか猿門が聞く。
どうやら猿門と猪里が8房に行っている間に、巫兎は一度看守室へと戻ってきたらしく、その時に書類があったため整理をしてくれていたらしい。
「そうか、ご苦労だったな」
「鍛練の相手なんてよくやるよな」
「いえ。8房の囚人は手合わせする度に強くなっていくので、私の方のが相手をしていただいているようなものですから」
ニコリと笑みを浮かべる巫兎の服は汗で濡れており、その色っぽい姿に猿門は目を逸らし、猪里はじっと巫兎を見つめている。
勿論、その視線の先は胸であり、わずかに下着のラインが浮き出ている。
そんな猪里に気づき猿門の拳が猪里の頭上へと落とされたが、一体どうしたんですかと巫兎は全く気づいていない。
「お前はもっと注意力を持て」
「注意力、ですか?」
「主任!!んなことしたら俺の楽しみが」
言いかけた猪里の頭上に2回目の拳が落とされると、大丈夫ですかと巫兎は猪里を心配する。
「猪里のことはほおっとけ。それより、巫兎は今日これで上がりだったな」
「はい!」
「なんだ?何か用事でもあんのか?」
何時もより帰りが早い巫兎に猪里が尋ねると、巫兎は笑みを浮かべながら、今日は兄さんが帰ってくるんですと答えた。
猿門も猪里も、お兄さんのことは巫兎から聞いており知っているが、遠くで仕事をしているためなかなか会えないと話していたことがあった。
そのお兄さんと会えるのが嬉しいらしく、今日の巫兎はウキウキと嬉しそうだ。
「では、お先に失礼いたします」
そう言い巫兎が行ってしまうと、再び手紙のことを思い出し、二人は溜め息をつく。
すると、今帰ったはずの巫兎が看守室へと戻ってきた。
「なんだ?」
「忘れ物か?」
「はい。えっと……あったあった!」
そう言いながらデスクから取り出したのは、猪里と猿門が今日半日悩まされていたラブレターだった。
「それ……」
「あ、これですか?兄さんへのラブレターなんです!」
「兄さんってのはお前の兄貴ってことか?」
どうやらあのラブレターは、久しぶりに帰ってくるお兄さんへ宛てた手紙だったらしく、猪里と猿門は安堵なのかなんなのかわからない溜め息を漏らす。
そんな二人の気持ちなど知るはずもなく、巫兎はウキウキとした気持ちで看守室を去っていく。
「よかったんスよね」
「ああ。まぁこれで、お前も俺も可能性はまだあるからな」
まだまだ二人の恋は苦労しそうだが、次のラブレターの宛先は自分であるようにと二人は願う。
だがそれよりも先に、自分がラブレターを書くことになるとは、まだ二人は知らないことだ。
《完》