本命チョコのお相手は?
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巫兎(みこと)
囚人番号:211
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バレンタイン前日、巫兎は周りの違和感に気づき始めていた。
3舎看守の巫兎は、南波刑務所で唯一の女看守であり、看守は勿論囚人も、ここには男しか存在しない。
唯一巫兎以外の女といえば、本部にいる看守長と、南波刑務所総合科学部長の御十義 飾、女性型看護師アンドロイドの神八くらいだ。
「あの、キジ主任」
「もぅ!何度も言ってるでしょ!アタシのことは、キジお姉さまと呼んでちょうだいって」
「えっと、キジお姉さま、最近皆の様子が可笑しいんですけど、何かあったんですか?」
3舎6房の囚人、囚人番号82番のハニー、同じく3舎6房、囚人番号3番のトロワが、最近いつも以上に巫兎に声を掛けてくる。
勿論それだけではなく、他の舎の囚人までもが巫兎を見かける度に、やたらと声を掛けてくるのだ。
「他の舎の看守まで様子が可笑しくて……」
何が可笑しいのかをキジに伝えようと話していると、キジは巫兎へと顔を近づけじっと見つめる。
近づいた距離に、巫兎が言葉を呑み込んでしまうと、本当にわからないのと、キジは巫兎に尋ねる。
「えっと……。何がでしょうか?」
首を傾げる巫兎に、キジはため息を1つ吐くと、今までの謎を解決する言葉を口にした。
「バレンタインよ!」
「……ああ!なるほど!」
ようやく皆の可笑しな行動の意味を理解した巫兎だが、バレンタインなどすっかり忘れていた巫兎は、なんの準備もしていない。
今日買って作ったとしても、南波刑務所にいる囚人や看守全員分など用意できるはずもなく、人数は少数にしなくてはならない。
「誰に渡そう……」
「なら、本命だけにしたらどう?」
ニコリと笑みを浮かべ提案するキジだが、巫兎の顔はみるみる赤く染まっていく。
本命と言われて思い浮かぶ相手は一人しかおらず、勿論キジはその相手が誰なのかわかっていてこんな提案をしている。
「アンタが好きなのは一人だけなんだから、頑張ってチョコ作るのよ」
キジはウインクをすると、巫兎に6房の囚人2名を、13舎の娯楽室に連れていくように言う。
時計を見た巫兎は、慌てて6房の囚人2名を娯楽室に連れていくが、娯楽室に着いたとたん、巫兎は囚人達に囲まれてしまった。
「巫兎ちゃん巫兎ちゃん!!僕、甘い物大好きだからね!」
「ニコ、何抜け駆けしてやがる!!」
「とか言いながらてめぇもなんだよ、このチョコの載った雑誌のアピールは!!」
明日のバレンタインに、巫兎からチョコを貰おうと皆必死にアピールをするが、巫兎がチョコを渡すのは本命だけだ。
そうとは知らない皆が、明日のチョコを巡って喧嘩を始めてしまうと、巫兎以外に来ていた他の舎の看守達が止めに入る。
「何てめぇらはくだらねぇことで喧嘩してやがる!!」
「ハジメ、何言ってやがる!!食いもんがどうでもいい訳ねぇだろーが!!」
「てめぇはただチョコが食いてぇだけだろーが!!」
賑やかを通り越して煩い娯楽室。
ハジメが説教をする中、巫兎が苦笑いを浮かべていると、二人だけその輪にいない人物がいた。
それは、13舎11房囚人、囚人番号99番の九十九と、4舎10房囚人、囚人番号634番のムサシだ。
そんな二人に声をかけたのは、4舎主任の犬士郎だった。
「お前達は騒がないんだな」
「まぁ、おれチョコ苦手だし」
「634番はそうだったな」
「拙者も、チョコなどというものには興味はござらん」
ムサシはチョコ嫌いであり、九十九はああ言っているが、舎場では人気俳優ということもあり、ファンから沢山貰って飽きたのだろう。
ようやく娯楽室が静かになったのは、ハジメの拳が囚人達に落とされた時だった。
「次チョコって言いやがったら、しばらく娯楽室は禁止にするからな」
ハジメに居竦められた囚人達は、その後は静になり、各々娯楽室で遊ぶと、あっという間に自由時間の一時間になり、皆自分の舎へと戻される。
そして巫兎も、ハニーとトロワを連れて3舎に戻ると、休憩に入っていいわよとキジに言われたため、休憩に入る。
休憩室には、娯楽室で会ったばかりのハジメに犬士郎、そして、5舎主任の猿門の姿があり、巫兎もその中で休憩時間を過ごすのだが、3人の様子が可笑しく気になってしまう。
いつもなら、誰がいたとしても騒がしくなるというのに、今日は3人ともじっと座ったまま動こうとしない。
「あの、皆さんどうかされたんですか?」
「ど、どどどうもしてねぇよ!!」
「バカ猿……」
「なんだとハジメ!?もう一回言ってみやがれ!!」
喧嘩を始めてしまうハジメと猿門だが、この光景に安心を抱いたのは、この時が初めてだ。
どうやら考えすぎだったのだろうと思った巫兎がスマホを弄り始めると、チョコという言葉が何度も周りで言われていたのだが、巫兎は気づいていない。
「では、お先に舎の方に戻りますので、失礼致します」
スマホの電源を切ると、巫兎は休憩室から出ていってしまう。
そして、巫兎がいなくなった休憩室で残された3人はというと、落胆していた。
「巫兎のヤツ、チョコのことわかってんのか?」
「さぁな。お前がバカみたいにわかりやすく動揺したときは、本当にアホだけ思ったがな」
「なんだとハジメッ!!」
喧嘩する二人に、犬士郎が静かに制止の声をかけると、猿門の矛先が犬士郎へと向く。
「どうせお前は、バレンタインなんか興味ねぇんだろうな」
「まぁ、お前はモテるからな、猿と違って」
「ゴリラにだって誰も恵まねぇだろうが!!」
どうやら、巫兎のチョコを狙っていたのは猿門だけのようだが、必死のアピールも、巫兎には気づかれなかったようだ。
もし気づいたとしても、巫兎が渡すチョコは本命ただ一人のため、猿門が貰えるかはわからないのだが。
そんな、囚人と看守が胸躍らせるバレンタイン当日。
巫兎は、休憩時間に本命チョコを手に、ある人物の元へと向かう。
【チョコを渡すお相手は?】
ハジメ→2ページ
猿門→3ページ
九十九→4ページ