君の声は、震える鈴の音のようで
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
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「ねぇ、ハニーくん」
「なんだよ、まだ馬鹿にする気かよ」
「違うよ。そういえば僕達って、本当の意味で巫兎さんと仲良くなれてないんじゃないかなと思ってね」
「は?どういう意味だよ」
そう、いろんな表情を見せるようになってくれたり、怖がらなくなったり、反応を示してくれたりはするものの、まだ二人は巫兎の声を聞いたことがないのだ。
「正確に言えば悲鳴は聞いたけど、きっと話してくれないのはまだ僕達の間に壁があるからだと思うんだ」
「言われてみればそうだな」
「それで考えたんだけど、その壁を僕達で壊したらいいんじゃないかな?」
いい考えじゃねぇかとハニーはその提案に賛成するが、一体その壁を壊すにはどうしたらいいのかをまず考えなければならない。
だが、そんなことがわかっていればとっくに壁なんか壊しているわけで、そんな二人がいくら考えたところでいい案が出るとは思えずキジを呼ぶ。
「何様よアンタ達!アタシを呼び出すなんて」
「キジさんに少し聞きたいことがありまして」
「アタシに聞きたいこと?」
二人はキジに事情を説明すると、何かいい案はないかとキジに尋ねる。
「アンタ達の壁を壊すっていうのはいいと思うけど、焦りは禁物よ」
「でも、僕達はもっと巫兎さんと仲良くなりたいんです!」
「そうですよ!まだ叫び声しか聞いてないんですよ!?」
キジは、しょうがないわねぇと溜め息をつくと、チラチラとこちらを気にしていた巫兎へと近づいていく。
一体何をするのだろうかとハニーとトロワが見つめる中、キジは口を開いた。
「あの二人がアナタともっと仲良くなりたいって言ってるんだけど、話すことはできるかしら?」
まさかストレートに聞かれるとはハニーもトロワも思いもせず、驚きの表情を浮かべていると、巫兎が一瞬二人へと視線を向けた。
その一瞬の出来事ではあったが、巫兎に想いを寄せている二人からすれば、その一瞬だけで鼓動が高鳴るには十分だ。
二人が鼓動を高鳴らせながら見つめる先では、巫兎とキジの距離が近づき何かをしている。
「相手はあのキジさんだけど、なんかイラつくんだよなぁ……」
「奇遇だね、僕も同じ気持ちだよ」
心が女でも体は男で見た目はオカマ。
複雑な気持ちが二人の心に渦巻いていた。
それから直ぐに用は済んだらしく、キジが二人の元へと戻ってくる。
「終わったわよ、って、何でアナタ達はアタシのこと睨んでんのよ!?」
「気にしないでください。それより、巫兎さんと何をしていたんですか?」
「あんなに近づいてましたよねぇ?」
キジの前では本性をなるべく見せないようにしているハニーだが、このときの鋭い視線は言葉で言わずとも殺気を感じさせる。
「ええ、そりゃあ近づかなきゃあの子が話せないんだもの。本人はまだ、男の人と話せる自信がないから難しいって言ってたわよ」
「…………」
「…………」
「ちょっと!聞いてんの?」
何の返事もない二人にキジは怒るが、そんなことよりも、二人は衝撃の事実で頭が一杯だ。
「何でキジさんは巫兎さんと普通に話してるんですか!?」
「何でキジさんがよくて俺達は駄目なんだっつの!!オカマか!?オカマなら許されんのか!?」
「オカマオカマ言うんじゃないわよッ!!折角聞いてやったんだから感謝くらいしなさいよね!!」
自分達とは話せないのにキジとは話せると知り、この時だけはキジを羨ましいとさえ思ってしまう。
「アンタ達の気持ちはわかるけど、さっきも言った通り焦りは禁物よ。じゃあ、用も済んだみたいだから私は失礼させてもらうわね」
キジが去ってしまった後二人に残されたのは、今はどうにもならないという事実だけだった。
トロワは仕方ないねと納得しているが、ハニーは浮かない顔をしている。
「無理を言ってすみません。巫兎さんが話せるようになった時に、僕と話していただけますか?」
先程からハニー達を気にしていた巫兎に、トロワが柔らかな笑みを浮かべながら声をかけると、巫兎は頷き笑みをを浮かべた。
「ああッ!!やっぱ納得いかねぇ!!」
突然ハニーが叫んだため、巫兎の肩がビクッと跳ね上がる。
「どうしたのハニーくん?」
「どうもこうもあるかッ!!何でキジさんはよくて俺達とは話せねぇんだよ!?」
「それは巫兎さん次第だから」
ハニーはイラつきながら巫兎の前まで近寄っていくと、壁に思いきり手をつく。
巫兎の顔の横につかれた手からは大きな音が鳴り、見上げるようにして上を見れば、鋭く巫兎を見る鋭い視線が向けられていた。
「なぁ、キジさんと俺等の違いはなんなんだよ」
「ハニーくん、やめなよ!!」
横から伸ばされたトロワの手が、ハニーの腕を掴み制止する。
「トロワ、邪魔すんじゃねぇッ!!」
「そういうわけにもいかないだろ。巫兎さんが怖がってる」
トロワの言葉に視線を戻せば、ハニーの瞳に映ったのは恐怖で震えしゃがみ込んでいる巫兎の姿だった。
耳を塞ぎ、体を震わせ縮こまる姿は最初に巫兎が来た日と同じで、折角少しずつ仲良くなりかけていた関係が一瞬で崩れたような気がし、ハニーは壁についていた手を下ろすと房の隅へと座り顔を伏せてしまう。
「巫兎さん、もう大丈夫ですよ。ごめんなさい、僕もハニーくんも貴女と仲良くなりたいだけなんです。彼はあんな性格ですから、少し急ぎすぎただけなんです」
巫兎を落ち着かせるようにトロワが声をかけると、耳を塞いでいた手が緩められ下へと下ろされた。
「巫兎さん?」
そして巫兎は突然立ち上がると、座り込んでいるハニーへと近づいていく。
誰かが近づいてくる気配を感じたハニーが伏せていた顔を上げると、目の前には巫兎の姿がある。
「……ッ!」
謝っても許されないことをしたことはわかっているが、それでも謝ろうと口を開く。
だが、上手く言葉が口から出てこない。
そんな自分を情けなく思っていたその時、聞き間違いかと思ったが、小さな声が耳に届いた。
「ごめんなさい……」
巫兎へと視線を向けると、手が震えているのがわかる。
「ッ……謝るのは、俺の方だ」
その言葉に、ただ巫兎は頭を左右に振る。
震えながらも勇気を出して、巫兎はハニー達に応えようとしてくれているのに、自分一人が急ぎすぎていたことを恥ずかしく感じた瞬間、気づいたときには体が動き、震える巫兎の体を抱き締めていた。
「さっきは悪かった、あんたは急ぐ必要なんてねぇ。ゆっくり話せるようになればいいんだ」
言葉は悪いのに、巫兎の耳元で聞こえた声音はとても優しくて、巫兎の体の震えはいつの間にか止まっていた。
「ッ!!何しやがるトロワ!!」
「それはこっちの台詞だよ。いつまで巫兎さんに抱きついてるつもり」
いつの間にかすぐ側まで来ていたトロワが二人を引き離すと、巫兎をハニーから遠ざける。
「巫兎さん、もう大丈夫ですよ。僕は貴女を怖がらせたりはしませんから」
「馴れ馴れしく巫兎の手を握ってんじゃねぇ!!」
「突然女性を抱き締めるような変態に言われたくないな」
またいつも通りの喧嘩が始まってしまうが、そんな二人の姿にクスリと巫兎が笑みを漏らしたことは、喧嘩中の二人は気づかなかった。
いつも通りの3舎の光景だが、巫兎の心に少しの変化をもたらしたことには誰も気づいていない。
ハニーだけが聞くことができた巫兎の声、それは、巫兎にとっては大きな一歩となり、その一歩がこれから3人にどんな変化をもたらすのか、それは誰にもわからないことだ。
《完》