君は誰のモノになるのだろうか
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
※囚人番号は固定となります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
高嶺の花、それは自分には決して手にいれることのできない花だ。
なのにそんな花は、南波刑務所に存在し、直ぐ近くに手を伸ばせば届く距離に存在している。
「チィーさん、今日も鍛練はサボりですか?」
「まぁね、こんな暑い中俺みたいなヤツが走れるわけないしさぁ」
そう、手を伸ばせば届く距離にいるのに、チィーは触れられない、何故なら、自分みたいな囚人が触れていい存在ではないからだ。
いつも凛としていて、それでいてチィー達囚人のこともしっかりと見てくれる、そんな巫兎にチィーは惹かれていた。
だからといって、気持ちを伝えようとかどうこうする気はなく、ただ巫兎の笑顔が見られればそれだけで満足よかった。
看守である巫兎が囚人なんかを相手にするわけもないのだから、最初から夢なんて見ず諦めた方のが傷つくこともない。
「ふふ、とかなんとか言って、ただサボりたいだけですよね?」
「あ、バレた?」
「仕方ないですね。猿門主任には内緒にしておきますけど、明日はちゃんと鍛練に参加してくださいね!」
そう笑顔で言う巫兎が何故こんなに甘いのか、普段は凛としていて真面目に仕事をしているのに、こうして甘くするから勘違いをしてしまう囚人も少なくない。
だがチィーはわかっている、これはただ巫兎が甘いだけであり、自分だけが特別じゃないのだと。
だから期待などはしない、すれば傷つくのは自分なのだから。
「アナタはまたサボりですか?」
「本当にクズだな、資源ゴミと出した方がいいんじゃないか?」
「そうですね、いても邪魔なだけですから」
「サボりは合ってるけど、いつになく酷い言われようだなぁ……」
今日の鍛練を終えたリャンとウパが二人の元へとやって来ると、来て早々に酷い言葉の数々を連発する。
だがそれもそのはずだ、チィーが話していたのは巫兎であり、毎日リャンとウパは巫兎にベッタリなのだから、妬きもちだって妬くのは当然だ。
「リャンくんにウパくん、今日も鍛練お疲れ様!」
そう言いながら巫兎は、いつものように二人にタオルを差し出す。
二人はお礼を伝え、差し出されたタオルを受けとると、汗を拭き取った。
そんな光景を見ていると、巫兎からお疲れ様と言われタオルを差し出されるなら、鍛練をするのも悪くはないかもしれないと思ってしまう。
「何をニヤけてるんですか?キモいですよ」
「どうせろくでもないことを考えていたのだろう」
「君達ね、さっきから俺への態度悪くないかな!?」
この扱いは今に始まったことではないが、余程巫兎を取られたのが嫌だったらしく、今日の言葉は何時もよりきつめだ。
「二人とも、そんな風に言ったらチィーさんが可哀想よ」
「そうですね、言い過ぎたかもしれません」
「そうだな、少し気を付けるとしよう」
そう言いながらチィーの方を睨んでいる二人は、チィーに優しくする気など無さそうだ。
そして、鍛練を終えたリャンとウパ、サボっていただけのチィーを連れ、巫兎は5舎の食堂へと向かう。
「巫兎さん、今日はボクの隣で一緒に食べませんか?」
「ずるいぞウパ!今私が言おうとした言葉だぞ!!」
「早い者勝ちです」
「二人とも喧嘩しちゃだめよ。私が二人の真ん中で食べれば問題ないでしょ?」
それならと納得し、巫兎を挟む形で二人は座り、チィーは3人の前へと座る。
巫兎の隣、それは、チィーも座ってみたいが、この場所もチィーはお気に入りなのだ。
何故なら、隣からでは見ることのできない巫兎の表情全てが視界には入るからだ。
だが、この場所はいいことばかりではない。
「ふふ、ウパくん口許についてるよ」
そう言いながら、巫兎は指でウパの口許についたものを掬い取り、自分の口へと含む。
そんな巫兎の行動に、いつも色白なウパの顔は真っ赤に染まり、顔を伏せてしまった。
「リャンくんって髪長いから、お手入れ大変そうよね」
「そうですね。でももう慣れてしまいました」
こんな風に楽しそうに話す姿がチィーの場所からでは全て見えてしまう。
それが、この場所がいいことばかりではないという理由だ。
恋なんてのは囚人になる前から諦めていたチィーだが、諦めていても独占欲は簡単になくなったりはしない。
巫兎が愛した相手や恋人が出来たときには、それを応援したいとは思うが、少なくとも今はまだ巫兎に思う相手は存在していないだろう。
「チィーさん」
「ッ……!どうかした?」
「あまり食べられていないみたいでしたから、大丈夫ですか?」
巫兎の言葉で視線を下へと向けると、全く減っていない自分のお皿が目に入る。
話していてもこうして周りを気にしてくれている、そんな巫兎に、きっと男はよろこび更に想いを募らせるのだろう。
「ああ、気にしないでいよ、大丈夫だからさ」
「そうですよ巫兎さん、サボってた人はお腹が空かないだけですから」
「ウパの言う通りだ」
「そうそう、二人の言う通りだから気にしないで」
いつもなら、二人の自分への扱いに何か一言言うチィーだが、今日はその言葉を否定しない。
心配そうにする巫兎に安心してもらえるようにと二人の言葉に頷くが、囚人の自分なんかのことをこんなにも心配して気にかけてくれるのは巫兎だけだと思うと、チィーの鼓動は静かに脈打つ。
想いなんてのは伝えることはなく、恋や愛なんてのは諦めているはずなのに、静かに高鳴るチィーの鼓動はそれを否定している。
それから昼食を食べ終わると、房へと戻される時間となったのだが、房へ入ろうとしたチィーを何故か巫兎は呼び止めると、人気がない場所へとチィーを連れだした。
一体どうしたんだろうかと戸惑うチィーに、巫兎は真剣な表情で口を開く。
「本当は、何かあったんじゃないですか?」
「え……?」
「食堂でもあまり食べていませんでしたし、何だか様子が可笑しいです」
眉を寄せ、不安げに尋ねられた言葉はチィーに期待を抱かせる。
期待なんてしたところで無駄なことはわかっているはずなのに、気づいた時にはチィーの腕は巫兎の背中へと回され抱き締めていた。
「ッ、チィーさん?」
驚きながら自分の名を口にする巫兎に、自然とチィーの口許には笑みが浮かぶ。
ずっとこうしたくてもできなくて、他のヤツと仲良く話している姿を見ると胸が締め付けられていた。
こんなに辛い思いをしたことも、こんなに人を愛したこともなかったチィーだが、今腕の中にいる巫兎を自分のモノにしてしまいたくて仕方がない。
だが、それは自分にはできないことだとチィーは気づいている。
自分の気持ちを抑え、チィーは巫兎を抱き締める腕を緩めると、そっと体を放す。
「悪いな、心配かけちまってさぁ。もう平気だから気にしないでくれ」
そうチィーが笑みを浮かべて言えば、巫兎はほっと胸を撫で下ろす。
目の前で、どんな気持ちで笑みを浮かべているのかも気づかずに。
そして房へと戻されたチィーは、部屋の隅で壁に背を預け、呟くように口にする。
「アンタは、誰のモノになるのかねぇ……」
結局チィーは、想いを伝えず諦めるしかなかった。
囚人と看守じゃ恋は出来ないし相手にすらされるわけがない。
もし想いを伝えて、巫兎が自分に笑みを向けてくれなくなることが今は一番怖いのだ。
「やっぱ俺は、囚人、なんだよな……」
自分の犯した罪は一生消えず、今もこうしてチィーを苦しめ邪魔をする。
だがそれが、自分がしてきた罪の重さなのだと知っているから、チィーは苦しげに笑みを溢し天井に手を伸ばす。
やっぱりこの手は高嶺の花には届かず、伸ばされた手はゆっくり下へと落ちていく。