想いは時に悩みとなる
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
※囚人番号は固定となります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
季節は8月の夏、冷房が完備されている看守室は何不自由ない、はずだったのだが、ここ13舎の看守室にある冷房が壊れてしまっていた。
蒸し暑い空間には扇風機一台が置かれているものの、このくらいの風では看守室が冷えるわけもなく、汗を流しながら皆仕事をしている。
「汗を流すのは実に清々しいであります!」
「えい、暑苦しい!!部屋の中で腕立て何てしてんじゃねぇ!!」
こんな蒸し暑い中で一人例外な看守もいるが、この暑さのせいか、13舎主任のハジメは、いつも以上にイライラとしているようだ。
そんな二人のやりとりをデスクに突っ伏しながら聞いているのは、13舎看守の巫兎だが、暑さのせいで何もする気になれないようだ。
「巫兎さん大丈夫ですか?」
「全然大丈夫じゃないよ……。私暑いの苦手なのに、このままじゃ干からびちゃうよ……」
「では、冷たいお茶でも淹れましょうか」
「うん!飲む飲む!」
冷たいお茶と聞き一気に元気が出たのか、巫兎は突っ伏していた顔を勢いよく上げ頷くと、星太郎が皆にお茶を淹れてくれた。
「ありがとう、星太郎!」
「いえ。そういえば、アイスもありますけど食べますか?」
「いいの!?食べる食べる!」
冷たいお茶を一気に飲み干し、星太郎から貰ったアイスを食べると体の体温が一気に下がっていくのを感じる。
アイスを食べ終わった時にはすでに体温は低下しており、少し肌寒さを感じ始めた。
「お茶にアイスがよくなかったか……。寒い……」
「めんどくせー奴だな」
「仕方ないんですよ、だって私暑寒がりですから」
「は?なんだそりゃ」
そう、巫兎は、暑がりでもあり寒がりでもあるという面倒くさい体質であり、少し暖かくなれば暑い、少し寒くなれば寒いとなる。
そんな巫兎の体質を知っているのは同期の星太郎だけであり、はじめて知ったハジメは溜め息を漏らす。
「暑がりだろうが寒がりだろうがどっちでもいいが、仕事はしっかりしろよ」
「えー、主任そんなに元気なら私の分もやってくださいよー」
「何いってやがる!!誰が好き好んでお前の分の仕事までやるか!!こっちだって暑いんだっつの!!」
あまりに怒りすぎているせいか、ハジメの頭からは湯気が見える気がし、これ以上怒らせば看守室が暑くなると思った巫兎は渋々デスクに置かれた書類へと手を伸ばす。
ハジメの怒りの熱気、そしているだけで室内の温度が上がる大和のお陰でまた暑くなり始めた巫兎が書類に目を通すも、その集中力は直ぐにきれてしまう。
「はぁ~、もうダメだ~!」
「って、まだ1分もたってねーだろうが!!」
ハジメに怒られることよりも、今はこの暑さを何とかしなければどうにもならないと思っていた巫兎に、救いの声がかけられた。
それは、巡回に一緒に行きましょうかと言う星太郎の声だ。
巡回、それは冷房が完備されている囚人達の房へ行くことができるということだ。
「行く!!」
「おい!まだコイツは書類が残ってんだろうが!!」
「ですが主任、このままでは巫兎さんも仕事になりませんし」
「ちっ、しかたねー、戻ってきたら書類の整理しろよ」
星太郎のお陰でハジメの許可を得ることができ、早速二人で13舎の巡回へと向かう。
囚人達の冷房の風が通路にまで流れており、歩いているだけで涼しく感じる。
「あ~、涼しい!星太郎に感謝だよ」
「いえ、僕が巫兎さんと一緒にいたかっただけですから……」
「え?」
小さな声で呟くように言われた言葉はうまく聞き取れず首を傾げると、次の房へとついてしまったため、結局星太郎が言った言葉を聞くことはできないまま、囚人達がちゃんといるかチェックをしていく。
とくに問題はないまま最後の房へと辿り着いた訳だが、その最後の房というのは、要注意人物ばかりの囚人がいる房だ。
その房というのは13房であり、ここの囚人4名は毎日のように脱獄を繰り返している。
単なる遊び、ゲーム感覚での脱獄で何度も脱獄をするため、そのたびに13舎の看守が捕まえることになるため一苦労だ。
「あ、星太郎だ」
「星太郎、喉乾いたから飲み物よろしく~」
「星太郎ちゃん、来月発売のゲームの予約お願いね!」
「来月の献立の紙よろしくなー」
こんな風に、星太郎は13舎の囚人になめられており、すでにパシり状態となっているのだが、本人は全く気づいていないらしく仲良くなれたと勘違いしている。
そんな同期の姿を見ていれば情けなくもなり、巫兎は房の鍵を開けると中へと入っていく。
「こらアンタ達!囚人が看守をパシりにすんじゃないわよ!」
「ゲッ!巫兎もいたのかよ」
「巫兎ちゃん!?最近見なかったから寂しかったんだぜ!」
それもそのはずだ、冷房が壊れてからというもの動く体力すらなく看守室に閉じ籠りっぱなしだったのだから。
その上、最近の巡回は星太郎がしていたため、巫兎が行く必要はなかったのだ。
本当は行きたかったが、巡回に二人もいらねーだろと一に却下されてしまい、最近はずっとあの蒸し暑い中で書類整理をしていた。
「アンタ達はいいわよね、こんな快適な場所にいて」
「なんか巫兎の奴つかれてねーか?」
「そういえば、看守室の冷房壊れたって僕聞いたよ」
「なるほどな。んじゃ、少しここで涼んでったらどうだ?」
ウノの言葉に瞳をキラキラと輝かせるが、横にいる星太郎に制止されてしまった。
巡回が遅くなればハジメのお説教を受けることになり、あんな蒸し暑い中で説教なんてされれば瀕死状態、悪ければ死ぬに違いない。
「はぁ、仕方ないわね。13房も今日は脱獄者はいないみたいだし、戻ろっか」
「そうですね」
渋々13房を後にし看守室へと向かう通路、やはり涼しくて気持ちいいが、それもあと少しで地獄となると思うと溜め息が漏れる。
「明日には冷房も直せるみたいですから、今日1日我慢してくださいね」
「うん、頑張るよ」
星太郎に励まされ、あと1日ならと根性で耐えようとするが、やはり看守室へと戻ると一気にそんな根性はどこかへと消えてしまう。
最初は書類にも目を通していたものの、5分も経たないうちにデスクに突っ伏す。
「おい!戻ったら書類整理すんじゃなかったのか!!」
「だって暑いんですもん」
「んなのこっちだって同じなんだよ!!つべこべ言ってねーで仕事しろ!!」
ハジメに叱られながらも仕事をし、ようやく日も沈み月が顔を出すが、夜は夜で蒸し暑く、暗くなったからといって涼しくはならない。
その上今日の残りは巫兎と星太郎であり泊まりがけだ。
「俺達は帰るが、暑いからってサボんじゃねーぞ、とくに巫兎!」
「はーい」
ヤル気のない返事に不安を残しながら、ハジメは大和と看守室を出ていった。
そしてハジメの不安は的中し、二人がいなくなったとたんに巫兎は再びデスクに突っ伏す。
「駄目ですよ巫兎さん!今主任に言われたばかりなのに」
「だってこんなに暑いんだよ?仕事なんて捗るわけないじゃん」
そう言いながら立ち上がった巫兎は、星太郎におやすみという言葉を残し宿直室へと入ってしまう。
しばらくして眠りへとついた巫兎だったが、宿直室の扉が開く音で目を覚ました。
「巫兎さん、起きてますか……?」
本当は起きているのだが、この暑さの中仕事をしたくない巫兎は寝たふりをする。
星太郎には悪いと思いつつも、この暑さではどうにもならない。
「寝てるんですか?はぁ……僕にばかり仕事を押し付けて……」
心の中でごめんねと呟きつつも、巫兎は寝たふりを続け星太郎が去るのを待つ。
星太郎はイケメンというだけでなく優しいため、眠っている巫兎を起こさないことくらい知っている。
明日には冷房も直るため、今日を乗りきればいいだけだ。
だが、星太郎は出ていく気配がなく、無言で巫兎のことを見詰めている。
もしかして、起きていることに気づかれたんじゃないかと内心ドキドキしていると、星太郎が巫兎へと近づいていく。
「巫兎さんはズルいですね……」
やっぱり起きてることに気づかれていると思った巫兎が謝ろうと思ったその時、熱に浮かされるような苦しむ星太郎の声が耳に届き、起きるタイミングを逃す。
「巫兎さんは、僕がどれだけアナタのことを見ているか知っていますか?この気持ちが伝えられたらいいんですけどね……。でも、僕にはそんな勇気はないから……」
一人呟くように、星太郎は本人に直接言えない言葉を呟くと、宿直室を出ていった。
きっと星太郎は知らないだろう、今巫兎がどんな顔をしているか。
きっと星太郎は知らないだろう、こんなに巫兎の胸が騒がしいことを。
扉に背を向けていた巫兎の表情は星太郎に見られることはなかったが、この感情をどうしたらいいのかわからず、巫兎は一人宿直室で悶え、星太郎が言った言葉の意味を考え更に暑くなるのだった。