アナタが教えてくれたから
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
※囚人番号は固定となります。
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「いーなージューゴくん、巫兎ちゃんと二人で脱獄なんて」
「で、どうだったんだよ、巫兎との脱獄は!」
その言葉に、巫兎の鼓動が大きく音をたてた。
そう、さっきの話はジューゴも聞いており、巫兎の脱獄方法を知っている。
もし話されたりすれば、もう13房の人を利用することができなくなるのだ。
「まぁ、いつも通りだな」
巫兎の鼓動が大きく音をたてる中、耳に届いた言葉は意外なものだった。
もしかしたら、それを逆に利用して脅す気なのではないかと視線を向ける。
「いつも通りハジメに捕まってたもんなー!」
「でも、今日は戻って来るの遅かったよね!」
「あんな長い時間巫兎と二人きりなんて、ずるいぞジューゴ!!」
それから夜も更け皆が寝静まった頃、巫兎はいつ脅されるのだろうかと眠ることができずにいた。
「巫兎、起きてるか?」
すると、ジューゴの声が聞こえ、一瞬ビクッと反応したが、巫兎は平然とした態度で返事を返す。
「ええ」
「脱獄の時のことなんだけどさ」
やっぱりと思いながら、一体話さない代わりに何を要求されるのだろうかと、内心恐怖で震えていた。
男という生き物は欲望の塊であり、男が巫兎に寄せる好意は全てその欲からの物だ。
巫兎は生まれつき人を魅了するほどの魅力を持っていた。
だが、それは決していいものなんかではなく、沢山の男が巫兎に好意を寄せたが、その全てが男の欲だった。
そう、巫兎自身を見た人なんて誰もいなかったのだ。
そして女は、男にちやほやされる女が気に入らないのが普通であり、影口を言われるようになった。
そんな巫兎の気持ちなど誰も知らず、誰も知ろうともせず。
「巫兎さん。今日一緒に出掛けないかな?」
「おい!!巫兎さんは俺と出掛ける予定なんだぞ」
周りでは、いつも巫兎の奪い合いで、誰も巫兎自身の気持ちなど考えはしなかった。
そう、皆、巫兎の美しさに惹かれただけなのだ。
でもそれなら、この美しさを武器にすればいいと思ったのだが、気づけば刑務所の中にいた。
そして今度は、男に脅されようとしている。
一体何を要求されるのか、考えただけで恐ろしかった。
「ハジメが言ってたことだけど、本当に脱獄のために俺達を惚れさそうとしてたのか?」
「ええ」
「そっか……。ごめん」
「え?」
突然の謝罪の言葉に巫兎は驚きが隠せず布団から起き上がってしまう。
「なんで貴方が謝るのよ……」
「いや、なんかさ、俺っていろんなことに鈍いから、惚れるとかよくわからなくてさ。でもさ、惚れさせなくたって皆で脱獄すればいいんじゃないかな」
「何言ってるの……?」
巫兎には、ジューゴが言っている言葉は理解不能だった。
惚れさせないで一緒に脱獄するなど、そんなことできるはずがないのだ。
「そんなの無理よ……。男は皆私に見返りを求めたくて協力するんだもの……」
「それは違うんじゃないか」
「知ったようなこと言わないでよッ!」
寝ている皆を起こさないように必死に声を抑え、怒りに震えた声を口に出す。
「難しいことはよくわからないけど、少なくてもここにいる奴等は違う」
「何が違うのよ、3人だって私の見た目に惹かれてるだけじゃないッ!!」
それ以上ジューゴの言葉を聞きたくなかった巫兎は、布団を被ると耳を塞ぎ、そのまま眠りへと落ちた。
そして翌朝になると、周りの騒がしい音で目を覚まし布団から起き上がる。
「あッ!皆、巫兎ちゃんが起きたよー!」
「ようやくお目覚めみたいだな!」
「んじゃ、行くとすっか!」
ニコに背中を押され、左右の腕をロックとウノに引かれ、巫兎は房から連れ出されてしまった。
寝起きで眠たい目を擦りながら引っ張り出されると、どうやら目的地に着いたらしく、巫兎の腕を掴んでいた手が放された。
ようやく解放された巫兎の目の前に広がっていたのは、刑務所らしからぬ空間であり、ビリヤードやダーツまでもがある。
「ここは一体……」
「娯楽室だよ!」
娯楽室、それは前にウノが巫兎を誘った場所だった。
巫兎は今までに友達と遊んだこともないため、勿論この部屋にあるもの全てが珍しく、瞳をキラキラと子供のように輝かせている。
「巫兎!一緒にダーツしようぜ」
「私、やったことなくて……」
「なら僕達と一緒に遊んで覚えようよ!」
そのあと巫兎は皆に誘われるまま、ダーツやビリヤード、トランプを楽しんだ。
こんな時間を過ごすのは初めてのことで、巫兎の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
そして、それからの時間はあっという間だった。
少し休憩しようとソファに座り、皆が今も遊んでいる姿を眺めていると、ジューゴが巫兎の隣へと座る。
「楽しんでもらえてよかった。俺、最初に巫兎と会ったときから、なんでか巫兎のことが気になってたんだ。でも、それがなんなのか昨日気づいた」
その言葉は、巫兎が何度も聞いてきた言葉だ。
その続きは、恋してたんだ、そう言うに違いないと、何故か巫兎はこの時気持ちが沈んだ。
いつものことなのに、もしかしたらジューゴは違うかもしれないと期待していた自分がいたのかもしれない。
何を期待していたのかなんて自分でもわからないが、落ちなかったジューゴが落ちてくれるなら、脱獄もしやすくなるのだから喜ぶべきだ。
だが、ジューゴの口から出た言葉は、そんな巫兎を驚かせた。
「笑ってなかったんだ。俺が思ったことだから違うかもしれないけど、巫兎は笑っているのに笑ってなくて、何故か壁を作っているように感じたんだ」
自分に都合のいい人間を惚れさせて使う、ただそれだけであり、巫兎が相手に向ける感情なんてものはない。
それがジューゴにとって壁として見えたとしても不思議はなく、それは事実だ。
「そんな巫兎に皆気づいてた。だから皆で話して、娯楽室なら巫兎も笑ってくれるんじゃないかって」
「何それ……」
今までの男は巫兎自身を見ようとはしなかった、だから本当の巫兎に気づけなかった。
でも、今巫兎の瞳に映る4人は、巫兎のことを見ていたから気づいた。
見ていなければ気づかないことであり、今まで気づいた者などいなかった。
巫兎の瞳から涙が流れ、泣き出してしまった巫兎を皆が心配する。
それから直ぐにハジメが娯楽室へとやって来ると、勝手に抜け出したことの説教をされ、皆房へと連れ戻されてしまったが、いつもなら抜け出しても直ぐに場所を突き止めやって来るハジメが何故この時は遅かったのか、その理由は皆さんのご想像にお任せします。
《完》