ポーカーの勝敗は未来へ導く
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
※囚人番号は固定となります。
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「ウノ、放して!このままじゃ、ウノまで……!」
「くッ……放さねぇ……放すわけねぇだろうがッ!!」
「ウノ……」
いくら本気の脱獄ではないにしても、脱獄は脱獄であり、そのために仕掛けられたトラップの中には命に関わるようなものまである。
この穴の下だってどうなっているかわからず、このままではウノまで道連れになりかねない。
「お願い、ウノ……放してよ……」
「ぜってー嫌だッ!!」
その時、ついにウノまで一緒に落ちてしまい、落下する恐怖に巫兎はぎゅッと目を瞑る。
すると、何処かについたのか体が地面へとつく。
「お帰りなさい!巫兎ちゃん、ウノくん!」
聞き覚えのある明るい声に瞑っていた瞼を開くと、そこは13舎13房の巫兎達の舎房だった。
「一体どうなってんだ!?」
「それよりお前ら、何抱き合ってんだ?」
ロックの言葉に横を見ると、鼻がぶつかりそうな距離にウノの顔があり、巫兎の体はウノの腕に包み込まれていた。
どうやら落下する際に、ウノが巫兎を守ろうと咄嗟に抱き締めたようだ。
お互いの顔が一気に赤くなると、二人同時にバッと離れる。
「どうやらまんまとあのトラップにかかってくれたようだな!」
「ハジメ、一体なんなんだよあのトラップは!!」
「あれはお前らの為だけに用意したものだからな。落下した先は13房に繋がってるって訳だ」
まさかの予想もしなかった展開で捕まる形となってしまった二人だが、一応長く逃げ切るという勝負には勝つことができた。
だが、今はそんな勝負よりも、抱き締められた時の感覚が今頃になり感じ始め、巫兎の頬を染め上げる。
「長く逃げ切れたと思ったんだかなぁ」
「へっへ~ん、残念だったな!」
そんな巫兎とは対照的に、ウノは全く気にしていない様子だ。
あまりにも普段通り過ぎて、自分だけがドキドキしているんだと感じ少し寂しくもあった。
そんな脱走劇も終わると夜になり、皆が寝静まった頃だ。
眠れず起きていた巫兎とウノは壁に背を預け、並んで畳の上に座る。
「今日はありがとう……」
「別に気にすんなって」
「うん。でも、ありがとう」
お礼を伝えると、ウノは照れ臭そうに頬を掻く。
そしてそんなウノが巫兎を助けたのは、腕を引いてくれたときやトラップで落ちそうになった時より前にもあった。
あれは、巫兎が南波刑務所にやって来て間もない頃のことだ。
刑務所に入る前の巫兎は、楽しいなんて今までに感じたことがなかった。
何をしてもつまらなくて、色々なものに手をだしても、巫兎の心に変化などはなく、気づいたときには触れてはいけないものにまで手を出し、気づけば刑務所の中。
脱獄をしたら楽しめるかな、なんて考えで脱獄を繰り返しているうちに南波刑務所にまで来てしまったというなんとも間抜けな囚人だ。
そんな巫兎が入れられたのは、13舎13房。
彼らは初めての女囚人に興味を示し直ぐに仲良くなったのだが、一緒に脱獄などをして遊んでも、本当の意味で笑ってはいなかった。
そんなある日、ポーカーやろうぜというウノの言葉でポーカーをすることになり、ただのトランプゲームかと内心興味などなかった。
トランプゲームなら、刑務所に入る前にも何度もやったが、楽しいなんて感じたこともなく、そんなものに興味などわくはずもない。
だが、その数分後には、巫兎の表情が初めて作り物ではなくなっていた。
勝負は全てウノの一人勝ち、周りはイカサマしやがったなと騒ぐ。
だが、イカサマ無しでもウノは強く、人の癖などを見て簡単に勝ってしまう。
その時初めて巫兎は、悔しい、勝ちたいという感情が沸き上がり、それと同時に瞳を輝かせ口許には笑みが浮かんでいた。
〈何笑ってんだ?〉
〈え?私、笑ってた……?〉
〈あぁ!滅茶苦茶可愛い顔で笑ってたぞ!〉
ウノの言葉に耳まで真っ赤にして顔を伏せてしまうと、横からウノの声が耳に届く。
〈トランプ一つでも、楽しみ方は沢山あるんだ。どんなものにも無数の楽しみ方があって、やってて飽きねぇんだよな!〉
〈無数の楽しみ方……〉
〈そっ!例えば脱獄だと、普通は脱獄するのが目的なんだけどさ、俺らは脱獄自体を楽しんでるからな!一との鬼ごっこもおもしれーしさ!〉
その瞬間、巫兎の心が一気に晴れたような、無限の楽しみ方にワクワクとした気持ちで膨らむ。
そう、ウノは、何も楽しみなんてなかった巫兎の世界を、無限の世界に広げてくれたのだ。
それからは、ウノにイカサマのやり方や、他にも皆と色々な楽しみ方を教えてもらった。
そして、そんな巫兎の世界を広げてくれたウノに気づいたときには恋をしていたのだ。
「ウノ、覚えてる?私が最初にこの13房に来たときのこと」
「ああ!あん時のお前は変わってるヤツだったよなー。まぁ、今でも変わんねーけど!」
「ひどッ!!」
「でも、それがお前だろ」
たったその一言が、巫兎を何度も救った。
そして、その度に巫兎の想いは強くなり、溢れ出しそうになっていく。
「なぁ、寝る前に勝負しねぇ?」
「いいけど、何で勝負するの?」
「決まってんだろ!」
そう言って取り出したのはトランプで、勝負はポーカーだ。
「今日負けたばっかなのに懲りないよね」
「うっせー!ほら、さっさとやんぞ!」
「あ!賭けるのは?」
「それは勝ったときに話すわ」
そう言って始まったポーカーは、鉄格子から差し込む月明かりの元で始まった。
「ロイヤルストレートフラッシュ!また私の勝ちね!」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「え!?」
まさかの同じ役という有り得ない展開に、お互いがイカサマをしたことは明確だ。
「残念、引き分けね。じゃあ次で」
「待った。それ、俺の勝ちだ」
「何でよ!?」
同じ役が出たのだから引き分けの筈なのに、ウノはハッキリと自分の勝利を口にする。
「まず有り得ないから知らないヤツも多いが、ロイヤルストレートフラッシュで引き分けた場合、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの順で強さを決める場合がある」
「え……?てことは、私はハートでウノがスペードだから……」
「そっ!俺の勝ち」
そんな勝敗のつけ方があるなんて知らなかった巫兎は、ハートが可愛いからという理由でいつも決まってロイヤルストレートフラッシュはハートで揃えていたため、それが今回は仇となった。
イカサマを得意とするウノだ、巫兎がハートのロイヤルストレートフラッシュばかりを出していると知っていれば、簡単に勝てても可笑しくはない。
「お前にイカサマ教えたの、誰だと思ってんだよ」
「ッ……!はぁ……負けは負けだからね。それで、何をすればいいの?肩揉み?」
次は負けないと心で呟きながら尋ねると、ウノは巫兎へと近づき後頭部へと手を回す。
そのまま引き寄せられると、私の唇にウノの唇が重ねられた。
「ッ……!?」
「今日はこれだけでいっかな!」
ニッと笑みを浮かべるウノに、巫兎の顔は真っ赤に染まり、まるで金魚のように口をパクパクとさせている。
「な、な、な、何するのよッ!?」
「え?好きだからキスしたに決まってんじゃん」
「ウノが私を好きって、なんの冗談な訳!?」
頭がぐちゃぐちゃになり、つい大きな声を出してしまう。
すると、伸ばされたウノの手が巫兎の口を押さえ、顔が目の前に近づけられ額がぶつかる。
「好きでもない女を、命かけて守ろうなんてするわけねぇじゃん」
「ッ……!!」
イタズラっぽい笑みが目の前で向けられ、巫兎の心臓は壊れてしまうんじゃないかというくらい高鳴る。
そんな頭が追い付かない状態で、ウノの声が耳に届く。
「次勝ったら、巫兎は俺の女決定な!」
そんなことをそんな笑顔で言われたら、きっと巫兎はわざと負けてしまうかもしれない。
《完》