涙の意味を知りたくて
名前変更
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【デフォルト名】
巫兎(みこと)
囚人番号:211
※囚人番号は固定となります。
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「うん!だって、巫兎ちゃんとお話しするの楽しいんだもん!」
「だよなぁ!なんつーの、他の連中にはない雰囲気なんだよなぁ」
「あぁ、和むっつーか癒されるっつーか」
ぽわぽわとした巫兎の雰囲気は、どうやら皆にとっては癒しのような効果をもたらしているようだ。
ハジメも最初はイラついていたものの、今では巫兎の雰囲気に心が落ち着かされていることもある。
「そういや星太郎、昨日渡した資料は何処にあるんだ?」
「すみません、今持ってきます!えっと……」
「あの資料ならそこの引き出しにありますよ」
巫兎に教えられ引き出しを開けると、そこには探していた資料が入っている。
「あっ、ありました!巫兎さんありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのならよかったです!」
「馴染んでやがる……」
まだここに来て数日だというのに、巫兎に馴染んでしまっている看守や囚人に、ハジメは溜め息をつく。
巫兎の正体を知っているのがハジメ一人である故に、会いたい人物は探さなくていいのか、帰る日にちが近づいてるんじゃないのかなど考えてしまう。
別に探してる人物に会えなかろうと、時間が来れば帰ることになるのだから心配する必要はないのだが、何故かハジメは巫兎のことが気になってしまう。
「おい、お前等、そろそろ房に戻るぞ!」
「えー、まだ早いだろ一!もう少し巫兎ちゃんとの時間を」
「うっせぇ!!てめーらは脱獄してんだろうが!!さっさと戻るぞ!!」
名残惜しそうにしながらも、ハジメに連れられ、ジューゴ達は房へと戻されてしまった。
「主任、お疲れ様です」
「あぁ……。最近はこんなことばっかだな」
戻ってきた一に星太郎はお茶を淹れ机に置く。
ハジメは目の前に置かれたお茶を飲むと、視線を巫兎へと向ける。
ジューゴ達囚人がいなくなったらなったで、今度は看守である大和と話しているようだ。
「巫兎君も一緒に鍛練をしないか?」
「う~ん、鍛練ですか……。私には難しそうですね」
「そんなことはないぞ!鍛練はすればするほど自分の力となるからな!」
大和に掴まってしまっては、これは無理矢理にでも鍛練に付き合わされるだろうと思い、ハジメは仕方なく助けてやろうとしたその時、一瞬にして流れは変わった。
「でしたら、鍛練は女というよりも男の方にこそ必要なのかもしれませんね。日本男児たりるもの、男にこそその力はいざというときに必要なのかもしれません!」
「うむ、成る程!巫兎君の言葉には納得させられるものがあるな。よし!では私は鍛練に行くとしよう」
「はい、いってらっしゃい!」
ニコリと微笑みを向けているが、あの大和から言葉で逃げきるとは、なかなか凄いヤツなのかもしれない。
「では僕は、13舎の見回りに行ってきます!」
「ああ、頼んだ」
「星太郎くん行ってらっしゃい!」
大和は鍛練、星太郎は見回り、看守室には巫兎とハジメの二人きりとなってしまった。
書類整理もすでに終わってしまいすることもなく、ただ二人の間には静かな空気だけが流れる。
「あー……探してるヤツってのは探さなくていいのか?」
「はい、探さなくてもこの南波刑務所にいますから」
「は?アンタはそいつに会いに来たんじゃねぇのか?」
見つけたのならなんで会おうとしないのか疑問に思い尋ねると、巫兎は苦笑いを浮かべる。
これで2回目だ、微笑みや笑顔ではない巫兎の表情を見るのは。
数日だけここにおいてほしいと言ったときの巫兎は、瞳の奥を潤ませ不安げだった。
そして今は苦笑いを浮かべている。
他の奴等には笑顔しか見せないのに、ハジメにだけは表情を変える巫兎に、何故か自分だけが特別な存在に思えて口許が緩みそうになるのをぐッと耐えた。
「私は、その方に恋をしてしまいました。最初はただ気になり会いたかっただけなのに……。こんな気持ちで会うことなんてできないのです」
巫兎の好きという言葉を聞いた瞬間、ハジメの胸が痛んだが、気づかない不利をし口を開く。
「別にいいじゃねぇか、好きなら尚更会うべきだろうが」
「駄目なんです……。私はもうじきここから消えてしまう、皆の記憶からも……。もしその方に会ってしまったら、この想いを伝えずにはいられませんから」
そう儚く笑う巫兎に、何故かハジメはイラついていた。
好きなのに好きと伝えない、会おうともしない、イラつく原因なんていくらでもあるが、ハジメがイラついているのはそれとは違う。
「おい、好きなヤツの名前を教えろ」
「先程も言いましたが、秘密ですよ」
「くッ……!!」
ハジメは、言おうとしない巫兎の腕を掴むと、そのまま壁へと押さえつけた。
そんなハジメの行動に巫兎は驚きの表情を浮かべているが、それ以上に驚いているのはハジメ自身だ。
何でこんなに苛立つのか、自分で自分がわからない。
「ハジメさん……?」
「お前が好きなヤツの名前を教えろ、直ぐに連れてきてやる、そう言うはずだった。そうすりゃこんな面倒事はさっさと終わるからな。だが、なんでだか会わせたくねぇ自分がいやがる……」
ハジメの言葉に巫兎が顔を伏せかけたその時、だが、と続けるようにして言われた言葉に伏せかけた顔を上げた。
「それは、どういう意味なのでしょうか……?」
「あぁ……あれだ!恋とか愛とかそういう……あぁ、なんか似合わねーな……」
それは不器用なハジメなりの告白であり、そんな言葉をこんなに近い距離で言われては、巫兎の鼓動が騒がしくなってしまう。
顔を真っ赤にしている巫兎の姿を見ると、ハジメは急に小っ恥ずかしくなり顔を逸らすが、それでも掴んだ腕を放そうとしないのは巫兎を他のヤツの元へ行かせないためだ。
「好きです……」
「は?」
「私はハジメさんの事が好きなんです!!」
真っ直ぐ至近距離で告げられた想いに、今度はハジメが顔を赤く染める番だった。
「お、お前なぁ……!!からかってんだろ!?好きなヤツに会いに来たんじゃねぇのかよ!?」
「はい、私は好きな人に会いに来ました。その方とは、すでに最初の時点でお会いしていたんです」
そう言い真っ直ぐな瞳にハジメを映し、それはハジメだとでも言いたげだ。
でもまさか、天使が自分に恋など有り得るわけがないと、ハジメの頭は混乱する。
「私言いましたよね。お会いしたら想いを伝えずにはいられないと……。ハジメさんのお側にいる間、何度もこの想いを抑えていました。でも、ハジメさんからあんな告白をされたら、私も言わない訳にはいかないじゃないですか……!!」
好きな相手の側にいたのに、想いが伝えられないのはどれほどの辛さなのか、そう考えただけでハジメの胸が軋む。
巫兎の目には涙が溜まり、瞬きをすれば大きな雫となり頬を伝う。
そんな巫兎が愛しくて、気づいた時には腕の中に閉じ込めていた。
細い体を折ってしまわないように、気を付けながら抱き締める。
「ハジメさん、愛しています……。これからもずっと」
そう呟くように巫兎が口にした言葉と共に、巫兎の姿は一瞬にして消えてしまった。
「主任、見回り終わりました!って、どうしたんですか!?」
「何がだ?」
「何がだって、主任泣いてるじゃないですか!!」
星太郎の言葉で、自分の頬に一筋の涙が流れ落ちていることに気づくが、その涙の意味はわからない。
ただ何故だか、自分の腕が冷たくなったような感覚に寂しさを覚え、この締め付けるような胸の痛みの意味もわかることはなかった。
ただ何か、ここには大切な存在があったような、そんな気がするのは何故なのか。
その意味を知る者は誰もいない。
《完》