捕まらないあなた 前編
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
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「何ですかその顔は」
「放っておいてって言ってるでしょ、って、何するのよ!!」
喜八郎は懐から手拭いを取り出すと、音根の顔についた土を拭う。
そんな顔じゃあ皆から笑われちゃいますよ、何て言いながら。
「何でこんなときだけあんたは優しいのよ」
「さあ?僕はいつも通りですよ。お間抜けにも落ちたのに、いつもみたいに怒らない先輩のが優しいというより不気味ですよ?」
「なんですってッ!!」
何時ものように怒る音根の姿を見てフッと笑みを浮かべると、その方が先輩らしいですよと聞こえた。
もしかして、元気付けようとしてくれたのかなと思ったのも束の間、喜八郎は手拭いをしまうと拭き終わりましたよと言い、胸もないのに顔まで汚くなったら女として終わってますからね、何て言葉を言い残し去っていく。
「一言余計だっつの」
そう呟いた音根の口許には微かに笑みが浮かんでおり、少しだが先程より冷静になれた気がした。
だが、いくら冷静になったところで現実が変わることはない。
「はぁ……」
「どうしたの?暗い顔して」
いつの間にか向かっていたのは食堂であり、内心期待していた人物がそこにはいた。
声をかけてきたのは兵助であり、やはり今日も豆腐を作っている。
「うん。ちょっと、色々あって……」
元気のない音根の様子に、兵助は今出来上がった豆腐を食べていかないかと誘う。
音根は小さく頷き椅子に座ると、兵助は豆腐を音根の目の前に置き隣に座る。
パクリと豆腐を口に頬張れば、何時もの優しい兵助の豆腐の味がする。
「あれ?」
「どうかした?もしかして美味しくない……?」
「ううん、違うの。とっても美味しいよ!」
そう、豆腐はいつも通りとっても美味しい。
だが、今兵助が音根の隣にいるというのに、鼓動は高鳴らない。
そんなことを考えていると、真剣な顔で兵助が、何かあったんじゃないかと尋ねてくる。
話そうか迷ったが、この気持ちを誰かに吐き出してしまいたかった音根は、さっきあったことを全て話した。
すると、何やら兵助は考えるようなしぐさをしたあと、もう一度勘右衛門とあって話した方がいいと思うよと言う。
だが、あんなことがあって会う気分になどなれるはずがない。
「大丈夫、俺も一緒にいるから」
「……わかった」
「なら、お昼を済ませたら俺達の部屋に来てね」
そう言われたものの、やはり勘右衛門と会うことに少し抵抗がある。
でも、兵助が一緒ならと少し勇気をもらい、音根はお昼を済ませると約束通り五年の長屋へと向かう。
何時もなら勝手に開けて入る音根だが、今日は大きく深呼吸をしたあと声をかける。
すると、入ってきて、という兵助の声か聞こえ戸を開け中へと入れば、そこには兵助と勘右衛門、そして何故か三郎の姿があった。
「今説明するから、取り敢えず音根も座って」
兵助に言われるまま床に座ると、兵助は勘右衛門と三郎と視線を合わせ、三人は突然頭を下げ謝った。
勘右衛門はわかるとして、何故三郎や兵助まで謝るのかと説明を求めると、二人は顔を上げ、三郎が先に口を開く。
「実は、さっき勘右衛門に抱きついてたのは私なんだ。本当にごめん!!」
話が全く理解できずにいると、意を決したのか、勘右衛門は音根を真っ直ぐに見据え口を開く。
そして聞かされた話は、どれも音根を驚かせるものであり、全てに納得が言ったものだった。
それは、二人が恋仲になった日にまで遡る。
恋仲になる前はよく話していた二人だったのだが、恋仲になって以降、勘右衛門は音根への接し方がわからなくなった。
気づけば避けるようになり、そんな勘右衛門を心配したのが同室である兵助だった。
そしてその話は三郎にも聞かれてしまい、考えついた結果が、三郎の変装の技で勘右衛門を別人にしてしまおうとするものだ。
主に変装していたのは兵助にだった。
もし突然音根が部屋にやって来たとしても、部屋にいるのが同室の兵助なら怪しまれない。
「話はわかったけど、さっきの女性が三郎だとして、何であんなことになってたの?」
「いや、それがさあ」
兵助に変装をするのはいいものの、男と女では話をするのはほんの少しの時間だ。
それなら、女装をすればいいんじゃないかという話になった。
女同士なら、音根と会話をする時間も増えるだろうと三郎は考えたらしく、先に三郎が女に変装をして見せた。
その女装だが、あの時三郎がなった人物は音根の姿だったらしく、頬を染めて戸惑う勘右衛門が面白くて抱き締めたところを、どうやら運悪く音根に見られたようだ。
だが、あの時の音根は冷静さなどなかったために、まさか女の姿が自分であったことにも気づかず走り去ってしまったのだ。
これで、兵助に鼓動を高鳴らせていた理由がわかり、勘右衛門は他に女もいなければ、自分のことを嫌いにもなっていなかったのだと知り、一気に体から力が抜けホッとしてしまう。
頭を下げ謝る三人に、もういいよと声をかける。
「勿論、三人して私を騙してたことは今でも怒ってる。でも、話を聞いたらなんか安心しちゃった」
柔らかな笑みを浮かべる音根を勘右衛門は抱き締め、もうこんなこと絶対にしないからと言う。
恋仲になって初めて抱き締められた暖かな温もりに、音根はそっと抱き締め返す。
そんな二人の姿に、兵助と三郎も暖かな視線を送り笑みを浮かべた。
だが、一つ気になることがあった音根は、勘右衛門に尋ねてみることにした。
「勘右衛門が町中で女の人と歩いてるのを見たってくの一の子から聞いたんたけど、それも三郎?」
「それってもしかして昨日のことかな?それなら、その時いたのは兵助だよ」
「え?兵助?」
「ッ、勘右衛門、余計なこというな!!」
兵助が二人の口を塞いだため聞けなかったのだが、そのあとこっそり勘右衛門から聞いた話によると、女装が上手くできない兵助は補習を受けたらしく、その補習に勘右衛門も付き合ったそうだ。
兵助は、見た目は六年の立花 仙蔵先輩に負けないくらいかっこよく、女装も似合いそうなのだが、どうやら化粧が上手くいかないらしく補習になったようだ。
その一日前は勘右衛門も補習を受けていたらしく、その時は兵助が付き合ったらしい。
なんだか二人の女装姿が見てみたくなってしまった音根はそれから二人に頼み込み、今度は三人のおいかけっこが始まった。
きっと兵助が知られたくなかったのは、こうなるとわかっていたからだったのだろう。
《完》