涙の後の幸せ 前編
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「伊作なら、留三郎と一緒に学園長の使いに出掛けたはずだ」
「そうだったんだ。じゃあ、またあとから訪ねてみることにします。それじゃあ」
ペコリとお辞儀をしその場から離れようとすると、待てという文次郎の言葉で立ち止まり振り返る。
「俺でよかったら相談くらいのるぞ」
「え?」
まさかの言葉につい驚きの声が出てしまうが、流石にこの内容を文次郎に話すことは躊躇ってしまう。
話したところで、本人に直接聞いてみたらどうだと言われてしまいそうだ。
「ありがとうございます。でも、ご迷惑でしょうし」
「気にするな。今日は委員会の仕事もないからな。そうと決まれば俺の部屋に移動するとしよう」
「え?あ、あの!」
やんわりと断ろうとした結果、音根は引きずられていかれる形となり、気づけば文次郎の部屋で正座をしている。
伏せてしまっている視線を上げると目の前には、胡座をかき座る文次郎の姿がある。
「今日は仙蔵くんはいないんですね」
「ああ、仙蔵なら任務に出ている」
「そうですか」
「それよりも、音根の相談ってのはなんなんだ?」
話を逸らそうとしたが上手くいかず、こうなっては話すしかないと思い、昨日と今日あったことを文次郎に説明する。
なんて言われるかはわかっているため、音根はその言葉に頷きこの場から離れようと考えていた。
「そうか、お前は今までのように小平太に振り回される方がいいというわけだな」
「はい、なので本人に直接、って、え?」
予想とは違った返事に、音根は考え出す。
小平太と付き合ってからずっと、あのテンションに付き合わされ、疲れて倒れてしまうまでになった。
周りがそんな自分を心配してくれていることにも気づいていたが、正直自分自身がそんな毎日を嫌だと感じていたかと考えるとわからない。
「昨日倒れて、伊作にも、周りの皆にも心配をかけてしまって、流石に言わなきゃって思いました。でも、小平太と一緒に早朝ランニングや塹壕掘りなどをすることが嫌とかじゃなくて……」
自分がどうしたいのかわからず、言葉が纏まらない。
ただ、わかっていることが一つだけあった。
「私……このまま小平太との距離が離れてしまいそうで怖いんです!でも、毎日毎日小平太の体力についていくのに必死で、それで皆に心配かけて……ッ、どうしたらいいのかわからなくて」
気づけば涙が頬を伝い、ポツポツ膝の上に落ちていく。
まさか泣いてしまうなんて思わず、音根は涙を手で拭う。
「音根ッ!!」
「ッ!?小平、太……?」
勢いよく戸が開かれると、愛しい人の声が聞こえる。
涙で姿はよく見えないが、聞き間違えるはずなんてない。
その人物の名を口にすれば、力加減を知らない腕が音根を抱き締める。
「小平太……?きゃっ!?」
何も言わない小平太に声をかけると、無言のまま音根の体は宙へと浮く。
姫抱きなんて理想的なものではなく、音根の体は肩で担がれそのまま何処かへと連れ出されてしまう。
一体何が起きたのかわからない音根だが、部屋を出る際に見えた小平太の顔を見た文次郎は、フッと笑みを溢した。
「悩んでいたのは一人じゃなかったってことか」
ポツリと呟いた文次郎の言葉は、二人がいなくなった部屋の中で静かに消える。
そして音根はというと、ようやく足が床につき、滲んだ涙を拭い確認する。
そこは小平太の部屋であり、同室の[[rb:中在家 > なかざいけ]] [[rb:長次 > ちょうじ]]の姿はない。
「音根は、私といると疲れるんじゃないのか……?だから昨日倒れたんだろ?」
いつになく元気のない声音に視線を向ければ、悲しそうに眉を寄せる小平太が目の前にいた。
昨日伊作に言われた言葉をずっと気にしてくれていたのだと気づき、音根は自分の気持ちを素直に口にする。
小平太は真っ直ぐで正直な忍たまで、少し、いや、かなり元気が有りすぎてしまうところがあるが、そんな相手だからこそ尚更、ちゃんと言葉にして伝えなければいけなかったのだ。
「今日ね、小平太が朝来てくれなくて、寂しくて不安になった。大好きな人だから、どんなことにも付き合いたいのに、私の体力じゃ小平太に追い付けなくて」
どんどんしゅんっと落ち込んでいく小平太に、でもね、と音根は言葉を続ける。
自分の体力が小平太よりも少ないだけで、小平太と鍛練を一緒にする時間は心から楽しいと思っていることを伝える。
「だからね、全部に付き合うことは難しいかもしれないけど、小平太や、周りの皆に心配かけないくらいに気を付けるから、これからも今まで通り早朝ランニングも、塹壕掘りも誘って」
なんて返事が返ってくるのか不安で、音根の体は震えてしまいそうになる。
恋仲の相手についていけないなんて、いけいけどんどんな小平太に嫌われてしまったんじゃないかと、無言のこの空間で鼓動の音が大きく聞こえる。
そして、口を開いた小平太から出された返事は、その必要はないという一言だった。
その言葉は二人の別れを意味するものであり、音根は愕然とし、瞳には再び涙が滲む。
「私が音根に合わせればいいだけのことだ!」
「え……?」
「私の体力は有り余るほどあるからな。それなら、私が合わせるのは当然だろう」
小平太はなんていうこともないといった様子で、音根が考えもしなかったことを口にする。
そんなことを言ってもらえるなんて思いもせず、先程とは違う涙が頬を伝う。
「音根、何故泣くんだ?」
「だって、嬉しくて……」
涙を手で拭いながら言うと、小平太の手が音根の両肩をガッシリと掴み、真っ直ぐな瞳が音根を捉える。
「私と音根は恋仲だ。これからは何かあったら伊作や文次郎、いや、他の誰でもなく私に相談すると約束してくれ」
いつになく真剣なその言葉に頷くと、小平太はニッと笑みを浮かべ、約束だぞ、と言う。
まだ恋仲になって日は浅い二人だが、この瞬間音根は実感した。
恋仲になるということは、お互いがお互いを思い合い、自分が小平太を思うように、小平太も音根のことを思っているのだと。
そんなことを改めて実感していると、突然音根の腕は凄い力で引っ張られ引きずられていく。
「そうと決まれば今から鍛練に行くぞ!いけいけどんどーんッ!!」
「え?ちょっ!?全然わかってなーい!!」
その後小平太は再び音根を振り回すのかと思いきや、負担のない鍛練に変え、音根が倒れることはなくなった。
《完》