不運は幸運と隣り合わせ
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ!!」
「なッ!?」
「な、何故伊作に……」
「ずるいぞ!!」
「もそ……」
五人から怒りのオーラが見え、その殺気は伊作へと向けられる。
だが、それを遮るように音根は口を開く。
「皆が喧嘩するからです」
「だからって何で伊作に」
「伊作は私に泳ぎを教えてくれたからそのお礼です。皆にはまた学校のお昼に分けてあげるから」
渋々皆納得すると、音根は一人泳ぎにいってしまう。
すると、伊作に皆の視線が再び集まる。
「抜け駆けだな」
「え?」
「伊作、俺達がいない間に音根に泳ぎを教えていたんだな」
「み、皆、目が怖いよ……」
嫉妬に燃える皆は、今度は自分が音根と泳ぐと言いながら海に入っていく。
先程まで見ているだけだった仙蔵と長次も行ってしまい、一人残った伊作が荷物番となってしまった。
パラソルの下で座り海を眺めていると、音根の周りで再び喧嘩が始まったようだ。
「きっと誰が音根と泳ぐかで揉めてるんだろうなぁ」
その様子を苦笑いを浮かべながら眺めていると、喧嘩をする皆をほおって音根が岸へと戻ってくる。
パラソルの下まで来ると、音根は伊作の隣に座る。
「泳がないの?」
「うん。なんか皆喧嘩始めちゃったし、それに、伊作も一人で荷物番なんてつまらないでしょ」
微笑みながら言われた言葉に、鼓動が高鳴り頬が熱くなる。
水着姿を見ないようにバッと視線を逸らすと、伊作は顔を伏せる。
「伊作、どうかした?」
「い、いや、何でもないんだ」
こんなに幸せすぎると、一気に不幸が来るんじゃないかと考えてしまうが、今が幸せすぎてそんなことどうでもよくなってしまう。
高校に入ってから知り合って一年以上経つが、想いはまだ伝えていない。
他の五人も音根に想いを寄せていることは見ていてわかるが、皆自分より遥かに人気がある男ばかり。
そんな皆相手に自分が勝てるわけがないと諦めていた。
諦めていたはずなのに、今日自分がしていたことは音根を独占することばかりだ。
「やっぱり、僕は諦めきれないんだ」
「何か言った?」
伏せていた顔を上げると、可愛らしく首を傾げる音根の姿が瞳に映る。
勝てないとわかっていても諦めきれない想いがある。
そしてその想いは、諦めなければ叶うのかもしれない。
「っ……伊作?」
「好きだ」
フラれたって構わない。
たとえフラれたとしても、この想いを諦めてしまうよりはずっといい。
不運だと諦めてしまい勝ちな自分だが、不運の一言で終わらせたくはない。
腕に閉じ込めた音根が、一体どんな表情を浮かべているのか気になる反面怖くもある。
それでも知らなければいけない。
そっと体を放し返事を聞こうとするが、音根の顔を見た瞬間何も言えなくなってしまった。
涙を流す音根はただ一言、ごめんねと口にする。
そこで伊作の恋は終わりを告げ、覚悟していたこととはいえ、胸が痛み目頭が熱くなる。
「あはは、やっぱり僕じゃダメだよね。気にしないで、わかってたことだから」
音根の涙を指先で掬い、安心させるように笑みを浮かべる。
自分が暗い顔をしていたら、音根が笑えないと思ったからだ。
上手く笑えているかはわからないが、今自分ができる精一杯の笑顔だった。
「違うの……っ、違うの伊作。私が謝ったのは泣いたことなの。嬉しくて、涙が、ひくっ、涙が止まらなくて」
嬉しくてという言葉に期待してしまう。
ごめんねと言われた瞬間暗闇のどん底だったというのに、そんな暗闇に小さな光が射す。
「まだ聞いてなかったよね。音根の返事」
ごめんねと言われただけでまだ聞いていなかった返事。
音根は頷くと、私も好きでしたと答えてくれる。
夢なんじゃないかと思い音根の頬に手を添えると、体温が手に伝わり夢じゃないと教えてくれる。
「夢じゃないんだよね」
「うん」
頬を染めながら頷く音根が可愛くて、もう一度抱き締めてしまう。
肌と肌が触れ合う感覚。
先程まで緊張で意識していなかった感覚が今になって伝わってくる。
「そこまでだ伊作」
「っ、留三郎!?」
声のした方に視線を向けると、そこにはいつの間にか留三郎の姿があり、よく見れば仙蔵や長次、小平太に文次郎、皆の姿があった。
「まさか伊作が告白をするとはな」
「もそ……一番しないと思っていた」
「え?え?皆、いつから見てたの……」
五人は声を揃えて最初からと口にする。
一気に恥ずかしくなり真っ赤になる伊作と音根だが、まだ皆は諦めていないようだ。
今二人の想いが通じ合ったばかりだというのに、すでに目の前で皆が音根にちょっかいを出している。
「伊作が嫌になったら何時でも私のところへ来い」
「いや、俺のところだ」
「仙蔵や留三郎より私を選んだ方がいいぞ!」
「小平太といるより俺のところへ来い」
「もそ……」
伊作は幸せを掴めたようだが、安心はできないようだ。
音根を庇うように前に立つと、音根は僕のだからと叫ぶ伊作。
そんな伊作の背では、音根が真っ赤になっているのだが、その顔は伊作の背により誰に見られることもなく、その後も皆で海を楽しんだ。
《完》