自惚れあなたの言う通り
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「たった一輪の花だというのに……」
偶然見つけた珍しい花。
それは、どこか音根に似ていて、気づいたら忍術学園にまで渡しに来ていた。
こんな花一輪あげたところでどうしようもないというのに、音根はとても喜び、こうして大切に飾ってくれている。
「そんなことを考えていたら君に会いたくなって、食堂に向かおうとしたとき、丁度君が何かを考えながら歩いてくるのが見えた」
考えながら歩いていた音根は昆奈門のことに気づかなかったが、昆奈門の瞳にはしっかり映っていた。
音根の姿と、その髪に飾られている簪の存在に。
昆奈門は一度部屋の中に戻ると、戸の向こうから音根の声が聞こえてきた。
「私、何考えてるんだろう」
その言葉を聞いた瞬間、昆奈門は期待してしまったのだ。
今音根が考えていることが自分の事であったら。
そんな都合の良い考えが頭に浮かび、気づけば音根を抱き締めていた。
「自惚れかもしれないと思った。でも、自惚れなんかじゃなかった。君は私のことを考えてくれていたんだからね」
先程から昆奈門が話す言葉に、音根の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
話を聞いていると、これでは自分が昆奈門のことが好きなように思えてしまうからだ。
「あ、あの、そろそろ放していただいてもよろしいでしょうか?」
「すまないが、今はできない。今君を見てしまったら、きっと私の理性は抑えられそうにないからね」
理性が抑えられないとは一体どういう意味なのかと考えると、音根の頭はぐるぐると混乱する。
何となくどういう意味かは子供ではないためわかっているつもりだが、何故昆奈門が自分にそんな感情を持つのかと訳がわからない。
「すみません、何故雑渡さんは私にそのような感情を?」
「そんなの決まっている」
昆奈門は音根を抱き締める力を弱めると視線を重ね、口を開いた。
「風明 音根、私が君を好きだからだ」
「っ!?あ、あの、好きって、私は雑渡さんとそんな深い間柄ではなかったと思うのですが」
今までに会ったことがあるのは、ドクタケ関連のことで協力するときや、時々現れて忍たまの皆を助けてくれる時くらいだ。
それ以外に会ったこともなければ、ちゃんと話したのも昆奈門が食堂に現れるようになってからの数日だけだ。
好かれるようなことをした覚えもなく不思議に思っていると、昆奈門はある日の事を話始めた。
それは、昆奈門が部下を庇い怪我を負ったときの事だ。
何とか追っ手を引き付け倒したはいいものの、怪我はかなり深かったらしく、出血が酷く視界が霞む。
こういうときに思い浮かぶのは忍術学園であり、保険委員の伊作か伏木蔵に手当てをしてもらおうと向かった。
何とか忍術学園の医務室に着くが、この時にはすでに足もふらつき始め、情けなくも天井から下に落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
「誰、だい……?」
「酷い怪我……。今手当てしますから」
遠退く意識の中心配する声が聞こえると、そこで意識は完全に無くなった。
目を覚ましたときには手当てがすでにされており、医務室で寝かされていた。
「あ、雑渡さん、起きたんですね」
「伏木蔵くん。これ、伏木蔵くんが?」
「違いますよ。たまたま来ていたフリーの忍者の風明さんが手当てをしてくれたんです」
礼だけでも伝えてから去ろうとしたのだが、すでに音根は任務に出てしまったあとで結局礼は言えぬままとなった。
それから昆奈門は音根について少し調べたのだが、どうやら音根は朝食だけは毎日食堂で済ませてから任務に出ている。
元々は、忍術学園のくの一教室の卒業生だったようだが、フリーの忍者ということもあり、朝食と部屋を借りる代わりに学園にその分の金を支払うことで居続けている。
部屋がくの一の長屋でないのは、空いている部屋が今の場所しかなかったからだ。
ここまで調べれば十分だろうと、音根が必ずいる朝の時間帯に忍術学園に向かった昆奈門が、廊下を歩く音根の姿を目で捉える。
「ああ、そういえばあの子、時々見かけたことがあったなぁ」
だからといってどうというわけでもないが、音根の姿を見たからか、ぼんやりとあの日のことが思い出される。
怪我をした自分を心配そうに見つめる姿。
痛みで汗をかくと何かが触れる感覚は、音根が布で汗を拭いていてくれたのだろう。
少しずつ思い出されるぼんやりとした記憶の中で、一つだけハッキリと覚えていることがある。
それは、痛みで苦しむ自分に何度も、頑張ってくださいとかけられた言葉だ。
そんなことを思い出していると、いつの間にか音根は食堂の中に入ってしまっており、こっそり中の様子を確認すると、伏木蔵と音根が話している姿が見える。
そしてその話す声音は、自分に励ましの言葉を掛けたものと同じ声音で心地がいい。
結局その日は礼を言えぬまま、それから数日が過ぎていた。
気づけばあの日から毎朝忍術学園に通う毎日が続いており、これはすでに礼を言うためではなく恋だった。
「まさかこの歳で恋とはね」
礼は結局伝えられていないまま日にちだけが過ぎていったある日、偶然見つけた花を切っ掛けに、昆奈門は忍術学園に向かった。
「それが、今そこに飾られている花な訳だけど、結局お礼は伝えられてなかったよね。あの時はありがとう」
話を聞いて音根もあの時のことをようやく思い出すが、できもしないのに手当てをしただけであり、礼を言われるようなできではなかった。
そんなこと昆奈門も気づいてるはずだが、それでも、そんな些細なことが昆奈門の中では大きく膨らんでいたんだと思うと、何だか嬉しい気持ちになる。
「お礼を伝えることができてよかったよ。でも、私にはもう一つ目的があるからね」
昆奈門は隠れていた口許の布を下げると、音根に唇を重ねた。
触れるだけの口づけをすると昆奈門は口許を再び隠し、返事がまだだったよねと、包帯の隙間から覗く目が細められる。
「普通は、返事を聞いてからじゃないんですか?」
「そうだね。でも自惚れじゃないなら、きっと返事を聞いたあとでも同じだったんじゃないかな?」
「自惚れすぎじゃないですか?でも、正解です」
布越しに口づけると昆奈門の目が見開かれ、驚いているのがわかる。
お返しというように、返事の前に先に口づけをすると、音根は微笑み口を開く。
「私も、雑渡さんのことが好きです」
伝える前から気持ちをわかられてしまったのはなんだか悔しいが、力強く抱き締めらたこの感覚が嬉しくて、悔しさよりも幸せが勝ってしまうのだから不思議だ。
《完》