何から話そうか 前編
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
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一年は組のテスト採点をする土井 半助の元に、ドタバタと廊下から騒がしい足音が近づいてくる。
嫌な予感を感じた半助の手が止まると、戸が勢いよく開かれ音根が部屋に入ってきた。
「土井先生、何故昨日は来てくださらなかったんですか」
「それならお断りしたはずですが」
昨日は、音根と半助がデートの約束をした日。
といっても、その誘いは間髪いれず半助が断っていたのだが、音根の頭の中は半助とのデートのことで一杯で断りなど耳に入っていなかった。
デートといっても二人は付き合っているわけではないので断られる可能性も存在したが、音根にその考えはない。
「兎に角、何度誘っていただいても私の答えは変わりませんので」
再び机に向き直り採点をする半助の背後では、音根が頬を膨らませ「私、絶対に諦めませんから」とだけ言い残し出ていく。
疲れで半助が深く溜息を吐くと、再び戸が開き、一年は組の実技担当である山田 伝蔵がやって来た。
「今、風明先生と廊下で擦れ違ったんですけど、何かあったんですか」
「いえ、ちょっと……」
音根の想いは学園みんなが知っている。
ただ一人、半助を除いて。
溜息ばかりが口から出る半助同様、その頃自室に戻ってきていた音根の口からも深い溜息が吐かれていた。
これだけあからさまにアピールをしているというのに、学園内で半助だけが音根の想いに気づかず、アピールは日常に溶け込み本気にされていない。
「どうしたら土井先生に振り向いてもらえるんだろう」
「そんなの簡単っすよ」
一人しかいない自室に誰かの声が聞こえたかと思うと、戸が開かれ、一年は組の摂津の きり丸が姿を現した。
一体何時からいたのか、どうやら戸の向こうで音根の独り言を聞いていたようだ。
盗み聞きなんてしちゃダメだと言いたいところだが、それより今気になるのはきり丸の言葉。
一体どんな方法なのか尋ねれば、きり丸はニコニコと笑みを浮かべ両手を音根の前に差し出す。
タダなんて言葉はきり丸には存在しない。
その手の上にお金を乗せれば「毎度ありー」と元気のいい声を上げた後、内容を耳打ちする。
その方法は音根には全く理解できないものであり、本当にそれで半助が振り向いてくれるのかと疑いの視線を向ける。
他に良い方法もないため、その日から音根はきり丸に言われた通りの行動をとった。
それは、半助としばらく話さないようにするというもの。
「本当にこんなことでいいのかな」
一人ポツリと廊下で呟くと、前から六年生の善法寺 伊作、一年生の猪名寺 乱太郎が歩いてくるのが見える。
何故か伊作には包帯が巻かれており、音根は二人に声をかけ何があったのか尋ねた。
どうやら伊作の不運が招いた結果らしく、心配した乱太郎が伊作を部屋まで送っていく途中のようだ。
「乱太郎くん、今日は医務室の当番だよね? 伊作くんは私が部屋まで送るから、乱太郎くんは戻って大丈夫だよ」
「助かります。ありがとうございます」
乱太郎はペコリと頭を下げると戻っていき、廊下には音根と伊作、二人が残された。
「すみません。僕のせいで」
「気にしないで。とくにこの後の用事はないから。それに、生徒のことを心配するのは先生として当然でしょ」
ニコリと笑みを向けると、音根は伊作に肩を貸す。
乱太郎では背が足りず出来なかったようだが、伊作より少し下くらいの音根の身長なら問題ない。
だが、何故か肩に掴まろうとしない伊作に音根は首を傾げる。
どうかしたのか音根が尋ねれば、伊作の頬はほんのり色づき「な、なんでもありません」と少し躊躇いながらも肩に腕を回す。
足を捻っているため歩く度に痛みが走っているはずなのだが、先程より痛みを感じないのは音根との距離でそれどころではないからだろう。
「着いたよ。不運もここまでくると大変だと思うけど、お大事にね」
「はい、ありがとうございました」
部屋の前まで伊作を送ると、音根はすることもなく自室へと向かう。
その途中、半助はどうしているのかなとふと思う。
きり丸に言われた通りなるべく話さないようにし、会話とと言えば仕事についての内容だけ。
「きっと、土井先生は何とも思ってないんだろうな」
こんなにも考え、こんなにも半助のことで悩み話せない今が寂しくて仕方がないというのに、半助は何も変わらず毎日を過ごしている。
こんなことをしても意味はなく、ただ自分がどれだけ半助を好きなのか思い知らされるだけ。
「何で、好きになっちゃったんだろ……」
「恋ってそんなもんじゃないですか」
つい口に出てしまった言葉に返事を返したのは伝蔵。
「恋は苦しくて悲しくて辛い。ですが、恋をしているからこそ、楽しいことや得られたものだってあったんじゃないですか?」
「恋をしているからこそ……」
半助と出会う前、音根はくの一として活躍していた。
どんな任務も一人でこなし、失敗は一度もない。
そんな自分を過信していたのがよくなかったのだろう。
任務中、音根は怪我を負い、動ける状態ではなくなってしまった。
このままでは敵の忍から逃げ切ることはできないと思っていたとき、音根の体は宙へと浮く。
敵の忍びかと思い暴れると、聞き覚えのある声音が聞こえ顔を上げれば、月の明かりがその人物の姿を映し出した。
「あ、あなたは……!」
「静かにしていてくださいね。まだ近くに敵の忍びがいますから」
その人物は、今回の任務で音根と組んでいた半助だった。
自分以外の者など信じていなかった音根だったが、あの時、半助により助けられたことで任務も無事果たすことができ、音根の実績に汚点が残ることはなかった。
任務が終わった後、音根は半助により手当てがされ、足に触れた半助の手が音根の鼓動を高鳴らせ神経が足に集中してしまう。