得られる者と失う者 後編
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
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「また誰かをからかったの?」
「まぁな!」
ニヤリと笑みを浮かべる三郎だが、一体今日騙されたのは誰なのだろうかと、雷蔵は呆れながら溜め息を吐く。
「僕は先に眠るから。三郎、眠るときはメイクとりなよ」
「わかってるって」
テレビを見ながら後ろ手に手を振る三郎。
そんな三郎を残し先に布団に入った雷蔵は、三郎と音根が今どうなっているのか考えていた。
今も学校で、二人よく一緒にいる姿を見るため上手くはいっているのだろう。
あれから音根を家に呼んでいるのかはわからないが、二人っきりでまた前のようにいるんじゃないかと考えると胸か痛み、雷蔵は布団を頭まで被った。
そして翌日の朝。
目覚ましの音で目を覚ますと、横の布団では三郎が眠っていた。
それも、結局メークもウィッグも取らずに寝てしまっている。
目を覚まして自分が横にいるのは不思議なものだが、こんなことは慣れっこのため、雷蔵は気にせず支度をするとバイト先に向かう。
日曜日だというのにバイトを入れなければいけないのは、平日は学校や委員会があり働く時間がないからだ。
雷蔵も三郎も自分の小遣いは自分で稼いでいるため、休日に働くしかない。
だが、雷蔵と違い三郎は委員会に入っていおらず、学校帰りにその足でバイト先に寄り働いているため、休日は休みだ。
雷蔵も休日が休みになることが数回はあるため、そういう日に勘右衛門や兵助と遊んでいる。
「あっ!!スマホ忘れた」
バイト先に向かう途中、家にスマホを忘れてきてしまったことに気づくが、そこでも雷蔵の迷い癖が出てしまい、取りに戻るかこのままバイト先に向かうかと悩んでしまう。
そんなことを悩んでいる間にも時間は過ぎていき、スマホがない今、時間さえもわからないこの状況で雷蔵は慌てだす。
「走っていけば間に合うはず!」
雷蔵は悩んだ末にスマホを取りに行くことに決め、家まで慌てて取りに戻る。
まだ寝てるであろう三郎を起こさないように扉を開け中に入る。
「っご、ごめん!今放すから」
リビングから三郎の声が聞こえ、起きているのだろうかとリビングの扉を開けたと同時に、もう一人の人物の声が耳に届いた。
「雷蔵……好き、だよ」
目の前には、音根が三郎の服を掴み、まるで抱きついているような体制で、雷蔵の名を呼ぶ姿があった。
髪の間から覗く耳は真っ赤に染まっており、そんな音根が自分を好きだと言っている。
だが、その相手は自分ではなく三郎だ。
「三郎、何してるの?」
状況が理解できず、最初に口から出た言葉だった。
ようやくその言葉で雷蔵の存在に気づいた三郎が視線を向け、音根も三郎の胸に埋めていた顔を上げると雷蔵を瞳に映し目を見開く。
「雷蔵……?え?三郎って……」
自分が抱きついていた人物が三郎であることに気づいていなかったようだ。
音根の瞳の奥は揺れており、三郎の服を掴んでいた手をそっと放すと、まるで答えを求めるように顔を上げ三郎を見る。
そんな音根の瞳に映ったのは、同じ様に瞳を揺らす三郎の姿だった。
三郎は何も言わなかったが、その表情、そして何も言わない、言えないのが答えなのだと音根にはわかったようだ。
目からは涙がポロポロと溢れ落ち、音根は立ち上がると外に飛び出して行ってしまう。
「三郎、音根ちゃんを傷つけるなら、僕は君を許さないから」
雷蔵の横を通り過ぎていく音根は泣いており、その涙を見た瞬間、雷蔵は怒りが込み上げ自分でも驚くほど低い声で三郎に言うと、音根の後を追った。
少し離れたところに音根の背を見つけると、雷蔵は音根の腕を掴み引き留める。
「音根ちゃんっ!!」
「っ……嫌!!放して!!三郎何て嫌い!!大嫌い!!」
今あんなことがあったばかりだ。
雷蔵を三郎だと思ったらしく、掴んだ腕を振りほどこうと暴れる。
そんな音根を安心させたくて、気づいた時には、音根を抱き締めていた。
「僕は雷蔵だよ」
「嘘だよ!!雷蔵が私を追いかけてくるはずない!!」
胸を押し、雷蔵の腕から逃れようとする音根だが、雷蔵の腕には更に力が込められた。
「本当だよ」
「嘘!!また私をからかおうと」
「好きだから。僕は音根ちゃんのことが好きだから」
自分の口から勝手に出た言葉。
その言葉で、ずっとモヤモヤしていた気持ちがスッと晴れたのがわかる。
嫉妬していたのは、三郎を取られたからではなく音根を取られたくなかったからなのだと雷蔵は気づいた。
「本当に……?本当に、雷蔵なの?」
「うん」
雷蔵の気持ちが伝わったのか、先程まで暴れていた音根は大人しくなり、涙を瞳一杯に溜めて尋ねてきた言葉に、雷蔵は大きく頷く。
「改めて言うよ。僕は音根ちゃんが好きだ。音根ちゃんの返事を聞かせてくれないかな?」
音根はぽろぽろと溢れだす涙を手で拭うと、雷蔵を見上げ柔らかな笑みを浮かべながら口を開いた。
「私も……私も雷蔵が好き!」
その言葉に、雷蔵はほんのり頬を染め柔らかな笑みを浮かべると、ぎゅっと音根を抱き締める。
大切な存在に気づき、大切な存在を手に入れた雷蔵は、世界中で自分が一番幸せなんじゃないだろうかとさえ思えた。
《完》