得られる者と失う者 前編
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
風明 音根(ふうめい おとね)
■友達(親友)
陽子(ようこ)
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「ら、雷蔵!?えっと……寝てた?ごめんね起こして」
その声音に一気に目が覚めると、目の前にいる人物が音根であることを確認した。
頬を染めながら雷蔵と口にする音根の様子に首を傾げる三郎だったが、直ぐにその意味を理解した。
三郎はメイクが得意であり、どんな人の顔にもなれるという特技を持っている。
そのため、普段メイクをしていろんな人になり済ましたりと遊んでいるのだが、昨日は雷蔵になったままメイクを取らずに寝ていた。
音根の前では素顔の自分でしかいたことがないため、勿論この特技を知るはずもなく、まさか目の前の雷蔵の顔をした人物が三郎だとは疑いもしない。
三郎は、口角を上げると笑みを浮かべ口を開く。
「気にしないでいいよ。それよりも音根ちゃん、今日はどうかしたの?」
何時も自分のことを私という三郎だが、眠っているのを起こされた仕返しに少し音根をからかってやろうと、雷蔵になりきり僕と言う。
自分を映す音根の瞳。
雷蔵に向けられた想い。
雷蔵に向けられていたもの全て、今は三郎に向けられていた。
例え自分に向けられていなくても、熱のこもった視線に鼓動は高鳴る。
「あ、えっと、三郎って、今いるかな?」
「今三郎は出掛けてるんだ。でも折角来たんだし、よっていきなよ」
「え!?……う、うん」
音根は顔を真っ赤に染めながらも頷き、家の中へと入る。
リビングのソファに座ってもらうと三郎はその隣に座り、近い距離に驚く音根だが、顔を伏せたまま口を開こうとしない。
「音根ちゃん」
「は、はいっ!!」
あからさまに動揺する音根の姿が可愛く、緩みそうになる口許を耐える。
自分には決して向けてはくれないこの表情も、今だけは自分のものなのだと思うとそれだけで三郎は嬉しかった。
今まで自分に向けられてきたものはどれも友人としてのものばかりだ。
でも今は、少し声をかけただけで動揺する姿はやはり、雷蔵に恋をしているのだと実感する。
「飲み物を淹れてくるね」
「ありがとう」
一言一句聞き漏らすことなく、いろんな表情を見せる音根。
それは、今まで三郎が自分に向けてほしかったものだ。
そして、叶わなかったものだ。
気づけば、キッチンに向かおうとしていた体は音根へと向き、今までしたくてもできなかった衝動に駆られた。
「……雷蔵?」
「っご、ごめん!今放すから」
腕の中で、音根の小さな声が聞こえ慌てて離れようとすると、音根が三郎の服をギュッと掴む。
三郎の胸に顔が埋められており表情はわからないが、髪の間から覗く耳は真っ赤に染まっている。
「雷蔵……好き、だよ」
その言葉は、三郎の胸に鋭く突き刺さった。
自分に向けられたものではない想い。
自分が聞く相手ではない言葉。
何より、震える声で音根が必死に伝えた想いだというのに、それが本人でないと知ったとき音根は三郎にどんな表情を見せるのか。
考えただけで三郎の胸は握り潰されるように痛み苦しくなる。
「三郎、何してるの?」
突然かけられた声に視線を向けると、何時からいたのかそこには、雷蔵の姿があった。
「雷蔵……?え?三郎って……」
音根は二人の雷蔵を目にし、頭が混乱してしまう。
無理もないことだ、まさか雷蔵が二人いて、一人の雷蔵は音根の目の前にいる人物を三郎と言っているのだから。
驚いているのか悲しんでいるのか、あるいは両方なのか。
音根の瞳の奥は揺れており、三郎の服を掴んでいた手をそっと放すと、まるで答えを求めるように顔を上げ三郎を見る。
そんな音根の瞳に映ったのは、自分と似た表情を浮かべる三郎の姿であり、今想いを伝えた相手は三郎だったのだと気づく。
ここに来たときからずっと自分の目の前にいたのは三郎だったのだと知り、目からは涙がポロポロと溢れ落ち、音根は立ち上がると外に飛び出して行ってしまう。
「三郎、音根ちゃんを傷つけるなら、僕は君を許さないから」
三郎がどうすることもできずにいると、静かに怒る雷蔵の言葉が耳に届く。
今までに聞いたことのない怒りに震える声に、雷蔵の気持ちが痛いほど三郎にも伝わる。
雷蔵が音根の後を追いかけて行ってしまうと、三郎は片手で自分の顔を押さえた。
「何やってんだろ、私は……」
自分がしたことだというのに、今は後悔している。
もし三郎が自分の気持ちを音根に伝えていたら。
もし音根が雷蔵ではなく自分のことを好きでいてくれていたら。
何か変わってたたのだろうか。
そんなことをいくら考えても、目の前の現実は変えようもない。
結果、三郎がしたことは音根と雷蔵を結ぶものとなり、それと同時に三郎は全て失ったのだ。
きっと今頃雷蔵は音根を見つけ、二人の想いは通じたに違いない。
同じ顔でも、一方は得られ、一方は全てを失った。
だが、そんなことはわかっていたことだ。
恋をしたとしても皆が得られるとは限らない。
その人に想い人がいるなら尚更だ。
そして、あの雷蔵を目にすれば嫌でもわかってしまう。
全てを失うのは、自分の方なのだと。
《完》