囁く言葉
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
サナギ ハル
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「おい、落ち着け」
「いやッ、放して!」
追い掛けてきたエースに腕を掴まれ、思い切りその手を振り払うと、エースの手が私の腕から放れた。
だが、勢いでバランスを崩し、私は頭を地面にぶつけ記憶を無くした。
無事に忘れていた記憶を取り戻すことができたが、何故その事でエースがあんなに辛そうな顔をしているのかわからない。
あれは私がいけないのであってエースのせいなんかじゃないのに、エースは自分が悪いと思っているのか。
それを知るには、本人に直接聞くしかなさそうだ。
「ハルッ!!」
「エース……」
目を覚ますと、私はベッドの上いた。
部屋にはエースと私の二人だけ。
手が温かいことに気付き視線を向けると、エースがしっかりと私の手を握ってくれている。
「おまえ、今俺のことエースって……記憶が戻ったのか!?」
私が頷くと再びエースは暗い顔をしたため、記憶が戻ってほしくなかったのか聞く。
すると、エースは静かに頷いた。
「ああ、お前が記憶を失ったのはおれのせいだ。あんな記憶は思い出さない方がお前にとってはいいと思った。だから、お前があの日のことを思い出さないように記憶を失った嘘の理由を伝えた」
「あれはエースのせいなんかじゃないし、私にとっては大切な記憶だよ」
私は眉を寄せ、忘れた方のがいい記憶だと言うエースに声を上げた。
恋は叶わず悲しい記憶かもしれない。
それでも、自分の想いを伝えたことに後悔なんてしていない。
「私にとっては、エースと過ごした時間全てが大切で……忘れていい記憶なんて一つもないよ」
「ハル……」
「記憶を失ってわかった。やっぱり私は、エースが大好きなんだって」
エースの傍が一番安心できて、エースの笑顔が好きで、その笑顔が曇っていたら心配にだってなる。
記憶を無くしても私は、エースにまた恋をしていた。
大好きだよの言葉を口にすると、一粒の涙が頬を伝い、私の体はエースの腕の中に閉じ込められた。
「おれはもう一つお前に嘘を吐いた。あの日言った言葉、あれは自分に言い聞かせるために言ったんだ」
私は話がわからずどういうことなのか尋ねると、エースはあの日のことを話始めた。
あの日、街を一緒に見て回っていたエースに私は自分の想いを伝えた。
だけど、仲間に恋なんてしたら戦いにくくなる。
ただでさえ私は能力も持たない人間で、そんな女が海賊の、それもエースの女なんて知られれば危険にさらしてしまうかもしれないと考えたエースは重い口を開き「おまえは俺達の仲間だ。今も、これからも」と、私が諦められるように、そして何より自分に言い聞かせるために言った。
だがその言葉は私を傷付け、その場から逃げ出してしまう。
エースはすぐに後を追いかけ何とか腕を掴むが、それでも逃げようとする私を落ち着かせるために声をかけるも、その心の傷は深く、手を振り払うとその勢いでバランスを崩し、私は後ろへと傾く。
慌てて手を伸ばすエースだが、その手は空を掴み、私は頭を地面に強く打ち付け意識を手放した。
その後、すぐに意識を取り戻したが、エースのことすら覚えておらず、医者に見てもらうと記憶喪失だと診断された。
医者が言うには、頭をぶつける前に余程ショックな出来事があり、その事に関することだけが記憶から消えたらしい。
翌日、偶然街に来ていたルフィ達と会ったが、何度か会っているというのに記憶に残ってはいなかった。
それはきっと、ルフィがエースの弟であり、エースのことを思い出してしまう存在だからだろう。
「なんだかハルの様子が可笑しいみたいだけど、何かあったの?」
反応や話し方に違和感を感じたナミにエースは聞かれ、記憶喪失であることを話すと、医者であるチョッパーに「一緒に行動してれば思い出すかもしれないな」と言われた。
だが、エースはすぐに返事ができなかった。
記憶を無くしてしまうほど傷付けたのに、思い出したらまた私が苦しむかもしれない。
そう考えたら、このままのが私にとって幸せなのかもしれない。
そんな考えが頭に浮かびつつも、エースはルフィ達と一緒にいることを選んだ。
記憶が戻らない方がいいと思っていたエースの心には、私を想う気持ちがあり、あの告白を無かったことにしたくないと思っていた。
何より、自分を覚えていない現実を見るのが辛い。
いつもは敬語など使わないのに敬語を使い、エースと呼んでいたのに今はエースさんと呼ぶ。
二人の間に距離ができたようで、エースは自分がどうしたいのかわからなくなっていた。
「自分で傷付けといて、こんなこと言うのもどうかと思うが言わせてくれ。お前が記憶を失って気付いた。おれにはお前が必要だ」
始めて知ったエースの気持ち。
傍にいることを許されたことが嬉しくて、涙が止まらなくなる。
「ッ……私も、エースの傍にいたい」
「ああ、いろ。おれだけの傍に」
私が飛び付くと、エースは私を抱きとめた。
力強く抱き締められ、エースの傍にいるんだって実感する。
「エース、大好きだよ」
「じゃあ、おれの勝ちだな」
そう言い耳元へと顔が近付けられると、囁かれた言葉に頬に熱が宿る。
「なんか狡い」
「狡くねェだろ」
意地悪な笑みを浮かべながら言うエースに私は頬を膨らまし「エース、少し屈んで」と言う。
近づいたエースの耳元に口を近付けると、さっきエースが囁いた言葉を口にする。
『大好きじゃなくて愛してる』
貴方は私の特別で、愛してる人で、そして私の大切な恋人。
《完》