黒い鳥
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
サナギ ハル
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ハルは今日、アップルパイを作るために林檎を買いに来ていた。
少し多目に林檎を買い帰り道を歩いていると、通り過ぎたお店に美味しそうな桃が売られているのが見える。
今度作るときは桃を使ったスイーツを作ろうかなと考えながら歩いていると、前から歩いてくる人に気づかずぶつかってしまう。
「ッ……すみません」
「どこ見てんだよ嬢ちゃん」
何だか見るからに柄の悪そうな人にぶつかってしまい、周りを歩く人は皆見て見ぬ振りで通り過ぎていく。
頭を下げ謝罪するが、男の手がハルの顎を掴み自分へと向かせる。
「なかなか可愛い顔じゃねェか」
ニヤリと口角を上げ笑みを浮かべる男に恐怖を感じ、その場から逃げだした。
後ろを振り返りもせず必死に走り、人気のない場所まで来てしまったところで躓き転んでしまう。
すると、追い付いた男がゆっくりこちらに近付いてくる。
もう駄目だと覚悟したその時、ハルの目の前に真っ黒な何かが立ち塞がっていた。
「なんだお前……ッ!!」
男が走り去る音が聞こえたが、いったい何がおきたのかわからず顔を上げる。
すると、自分の目の前にある真っ黒な物が羽だとわかり、そしてそれを羽織っているのは、自分よりも遥かに大きな人物であることに気づく。
その人はハルへと一瞬視線を向けたが、何を言うこともなく背を向け、その場を去ってしまおうとする。
その背に声をかけようとするが、あまりの驚きに声を出すことができず、ただその場に座り込み、その背が見えなくなるまで見詰めていた。
男性が去った後一人残ったハルは震えが収まると家へと帰っていく。
なんとか家に着くと、早速買ってきた林檎でアップルパイを作るが、その間もさっきの男性のことを考えていた。
男に追われ必死に逃げていたら、突然目の前に現れた男性に助けられ、その背の高さと見た目に驚いてしまい声を出すこともできなかった。
「お礼、言えなかったなぁ」
あの男性は助けてくれたというのに、お礼を言えなかった自分に後悔する。
視線が合った時に声を出そうとしたが、出すことができなかった。
驚いたというのもあったが、黒い羽を纏った大きな鳥のような男性に目を奪われてしまっていたのだ。
その日ハルは男性のことを考えながら、また会えないかなと一人呟いた。
翌日。
昨日通りかかった際に見かけたお店で桃を買い帰り道を歩いていると、昨日男性とあった場所へいつの間にか来てしまっていた。
だがやはりそこは昨日と同じく人気がなく、あの男性の姿もない
いる筈がないのに、もしかしたら会えるんじゃないかと期待していた。
だが、やはりそんな上手く人生はできていないようだ。
残念に思いながら帰ろうとしたその時、路地の奥に黒い羽が見えた気がし、そっと路地へと入って行く。
奥まで進んでいくと昨日の男性の姿があり、電伝虫を使い誰かと話しているようだが声が聞こえず、更に近付いていくと突然声が聞こえるようになった。
どうやら相手は海軍の人らしいが、いったいこの男性は何者なのだろうかと思ったその時、気配に気付いたのかこちらへと振り向いた男性と目が合ってしまった。
すると、男性は目を見開き慌てて通信を切ってしまう。
「すみません、立ち聞きしてしまって」
「おれに、何か用か」
「あの、昨日のお礼を伝えたくて。昨日は助けていただきありがとうございました」
昨日伝えることができなかったお礼を伝える。
すると男性は、用が済んだならおれは行く、と言い立ち上がり、ハルに背を向け歩き出してしまう。
去ろうとする背に引き留めようと声をかけたいと思ったとき口からでていたのは、今男性が話していた相手だ。
今お話していたお相手の方って海軍の方ですよねと言えば、男性は立ち止まり振り返ると、ハルの目の前まで近づいてきた。
「今見たことは忘れろ」
「何故、ですか」
近い距離に鼓動が跳ね上がると同時に、真剣な表情の男性を見て、さっきの会話は聞かれたくないことだったのだとわかる。
理由を尋ねてみるがそれ以上答えてもらえず、兎に角忘れろと念押しするように言うと男性はその場を去ってしまった。
一人残ったハルは家に帰ると、先程の出来事を思い出しながら、買った桃を使いゼリーを作る。
電伝虫で話していた人が海軍なら、普通に考えればあの男性も海軍の人ということになるが、何故あんな派手な服装で人気のない場所にいたのかわからない。
結局どんなに考えても答えが出るはずもなく、作ったゼリー液を器に入れると冷蔵庫で冷やしその日は眠りについた。
それから次の日。
冷やし固めたゼリーを袋に入れると、昨日の場所へと訪れた。
するとそこには男性の姿があり、今日も通信中のようだが、ハルに気付くと通信を切り視線だけを向け、何の用だと言う。
「ゼリーを作ったので、もしよければ食べてほしいなと思って持ってきたんですけど。食べていただけますか?」
溜息を吐くと、食ったら帰るんだなと男性に聞かれ、笑みを浮かべながら、はいと返事をする。
差し出された手に、持ってきたゼリーを渡すと、男性はゼリーを口に運び食べ始めた。
その最中、男性に名前を尋ねると、ゼリーを食べていた手が止まり、ロシナンテ、と口にする。
名前を教えてもらったところでゼリーの容器が空となり、もう少し話していたかったのだが、食べたら帰ると言ってしまったため立ち上がる。
帰り際に、また明日も来ていいですかと尋ねると、勝手にしろと言われ、それは遠回しに来てもいいという意味だとわかり、ありがとうございますと伝える。
断られるのを覚悟で聞いたので、自然と笑みが浮かぶ。
再び背を向け帰ろうとすると、今度はロシナンテに声をかけられ振り返ると、名前はと聞かれ、何だか嬉しく感じながら名を伝えると、今度こそハルは家へと帰る。
去り際に、ゼリー旨かったと呟かれた気がしたが、気のせいだったのかもしれない。
名前を教え合うくらいのほんの少しのことだが、ロシナンテと近付けた気がして口が緩んでしまう。
ロシナンテを見ているだけで鼓動は騒がしくなり、何故こんな気持ちになるのかわからないが、今は兎に角明日が楽しみで仕方ない。
明日も何か作って持っていこうかなと考えながら、今日も一日が過ぎていく。