雪降る夜に
名前変更
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【デフォルト名】
サナギ ハル
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一人気ままに自由な旅をしていたその途中、ハルはある島に寄った。
だが、ここは雪ばかりで寒くて死にそる。
雪の中をひたすら歩いていると、何かが雪の上に倒れているのが見え近づいていく。
すると、その生き物近づくにつれどんどん大きくなっていき、すぐ傍まで来てようやくその大きさがわかる。
自分より遥かに大きなその生き物が倒れている場所の雪は赤く染まっており、見てわかるほどの怪我に出血をしていた。
直ぐに手当てをしなくては命に関わる危険な状態だが、ハルは手当てをする物を持っておらず、村に戻るにもここからでは時間がかかってしまう。
どうしようかと考えていると、その生き物は意識を取り戻したらしく、瞼が薄く開かれる。
「大丈夫!? 手当てしたいけどどうしたら……」
「ぐわあああッ!!」
怯えているのか興奮状態のようだ。
大きな声にビクリと肩を震わせると、ハルは恐怖でその場を走り去ろうとしたが、途中で足を止め振り返る。
やはりあの生き物が心配で、どこかあの生き物を休ませられる場所はないかと探す。
近くを探しまっていると洞窟を見つけ、ここなら休ませられるかもしれないと思い、一度生き物のところへと急いで戻る。
再び傍まで近寄ると、その生き物は怯えた様子で毛を逆立てハルを睨んでいるが、このままここにいては死んでしまうかもしれないと思い、そっと手を伸ばしその生き物の頬へと触れ真っ直ぐに瞳を見詰める。
怖がらなくても大丈夫よ、なにもしないから、と笑みを浮かべると、段々警戒心が薄くなっていくことに気づく。
なんとかその生き物に立ち上がってもらうが、足はふらつき上手く歩けていない。
だが、なんとかゆっくりハルの言う方へと歩き出してくれる。
ようやく洞窟につくとバタリと生き物は倒れ、先程はうつ伏せで倒れていたためわからなかったが、背には銃で撃たれたあとがある。
「酷い……」
兎に角出血を止めなければと、持っていた布を繋ぎ合わせ傷口にあてグッと結び血を止める。
だがこの方法では一時的に出血を止めるにすぎずすぐにしっかりとした手当てをしなければいけない。
空の手をギュッと握り、銃弾を取り除いていく。
前に自分が同じ怪我を負った際と同じように、丁寧に、そして慎重に手当てをしていく。
ようやく終わった頃には集中していたせいか一気に疲れ眠ってしまうと、それから時間は経ち生き物が目を覚ます。
すると、自分の体に包帯が巻かれていることに気づき、すぐ傍には人間が眠っている。
ハルも同じタイミングで目を擦りながら起きると、目が覚めたんだねと声をかける。
だが、勿論のことながら返事は返ってこない。
「貴方能力者だったのね。ビックリしちゃったわ、突然小さくなるんだもの」
最初の姿とは違い、小さくかわいい姿にクスクスと笑みを溢すが、やはりまだ警戒しているようで距離をとったままだ。
やはり直ぐには難しいのだろうと思ったその時、その生き物のお腹が鳴り、ハルのお腹もつられるように鳴ってしまう。
ハルはクスクスと笑みを漏らしお腹空いたねと言うと、村で買っておいた食料と飲み物が入った布袋から、パンと水を取りだし差し出す。
すると、ゆっくりと警戒しながらも近付いてきて、サッとパンと水を取ると隅に戻ってしまった。
この生き物に残っていた弾。
あれは人間に撃たれたものだろう。
きっと、この生き物にとって人間は怖く、簡単にその恐怖は消えないに違いない。
「治るまでこの洞窟にいようね。食料なんかは私が村から買ってくるから」
そんなことを言っても言葉なんて通じないよねと苦笑いを浮かべると、わかるぞと声が聞こえた。
まさか、この生き物が喋ったのだろうかと見詰めていると、おれ、話せるから、と小さな声で話してくれる。
二本足で歩くことや姿まで変わることだけでも驚きだが、まさか人の言葉まで話せてしまうとは思わず驚きの声を上げてしまう。
その声に驚いたのか、その生き物は体を跳ね上がらせた。
「あっ、ごめんね。大きな声だして」
慌てて謝ると、小さな声が耳に届く。
怖くないのかと不安そうに尋ねる声音に、ハルは最初は怖かったこと、でも今は怖くないことを伝えニコッと笑みを向けると、その生き物の口角が上がり、初めて笑みを向けてくれた。
それから数日が経つと、怪我も治り回復していった。
「ハル、お帰り」
「ただいま、トナカイさん」
今ではお互いに仲良くなり、数日の間で打ち解けあっていた。
警戒心もなくなり、少しでも人間への恐怖心が無くなってくれたらいいのだが。
「はい、パンと飲み物よ」
「いつもありがとうな」
「ううん。本当は温かいものを食べさせてあげたいんだけど、ここにつく前に凍ってしまうから」
「そんなこと気にするな。おれはパン好きだぞ」
そう言いながらパクパクと食べるトナカイの横で、ハルもパンを食べる。
そんな日々がしばらく続き、トナカイと一緒に旅ができたらなんて考えるようになっていった。
「トナカイさん、怪我が治って、もしよかったら……」
そこまで言ったところで言葉を呑み込んだ。
自分は自由な旅をしている身、そんな自分にトナカイがついてきてくれるかなんてわからず、もし断られたらと思うと言葉の続きが出てこない。
そんなハルの様子に、怪我が治ったらなんだ、と尋ねるトナカイだが、ハルは誤魔化すように何でもないというと、洞窟を出て村へと向かう。
いつものようにパンや水を買い、そして帰ったら今度こそちゃんと言おうと決心し戻ろうとしたその時、銃を持った人が数人ほど、ハルが戻る方角へと向かうのが見えた。
「なんだろう……?」
「あんた知らないのか? あそこには化け物がいるんで殺すことになったんだよ」
ハルは手にした袋を地面に落とすと、トナカイの待つ洞窟にあの人達よりも先につかなければと必死に走る。
息をきらしながら走り何とかあの人達よりも先につくと、トナカイは慌てた様子のハルを心配し駆け寄ってきた。
「ハル、どうしたんだ!?」
「はぁはぁ……ッ、トナカイ、さん……ここは危険だから、出よ……はぁはぁッ……私と一緒に旅をしよ?」
「よくわかんねぇけど、わかった。ハルと一緒なら俺も行くぞ」
呼吸を整えトナカイと洞窟を出たとき、人の声が近付いてくることに気づく。
ハルはトナカイの手を掴むと、その場から離れなければと走り出す。
「おい! 今あっちに影が見えたぞ!!」
ハルはトナカイを抱き、木々の中を走るが、降りだしてくる雪に体が冷え、足元も雪のせいで上手く走れず転んでしまう。
そんなハルを心配するトナカイに、ハルはトナカイさんは大丈夫、と心配する。
大丈夫だというトナカイの言葉に笑みを浮かべ、立ち上がろうとしたそのとき、銃声が森に響き渡ると、目の前のトナカイが目を見開きハルを見詰めていた。
震える声で名を呼ばれたとき、胸の辺りに鈍い痛みを感じ視線を落とすと、赤い血液がハルの胸から流れ出て雪を染めていた。
撃たれたのだと気付くと、そのまま雪の上へと倒れ、目の前で涙を流すトナカイの姿が瞳に映る。
「トナカイ……さん、泣かない、で」
声を絞り出すと、トナカイは涙を流しながら何かを言っているようだが、段々と意識が遠退き声が聞こえなくなっていく。
「ごめんね……トナカイさんと旅、できそうにないや。人が来ると、いけないから……この場所からはやく……離れて」
トナカイは止まらない涙を拭うがなかなか傍から離れようとはせず、霞む視界に人の姿が現れる。
「いたぞ!! 化け物だッ!!」
トナカイは人間に怒りの表情を浮かべると姿を変え、最初に出会ったときと同じ大きな姿へと変わる。
今にも襲いかかりそうなトナカイの手を弱い力で握り逃げるように言うと、悲しいような悔しい表情を浮かべ、その場から走り去る。
「化け物が逃げたぞ!」
「追えッ!! 追えーッ!!」
誰もいなくなった森の中、目頭が熱くなり頬に熱いものが伝う。
これでまたトナカイは人間が嫌いになってしまったかもしれない。
でも、きっとトナカイにはこれから沢山の出会いがある。
薄れ行く意識の中で、トナカイと旅がしたかったという思いを感じながら、ハルは意識を手放した。
《完》