恋する乙女
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雪根 小丸(ゆきね こまる)
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「お茶をお持ちしました」
「すまないね、こんなことまでさせてしまって」
広間で幹部隊士が集まる中、千鶴君がお茶を皆の前に置いていくと、申し訳なさそうに井上さんが声をかける。
「あれ? 一君のお茶だけないみたいだけど、これって虐めかな」
「あ、斎藤さんのは──」
「はいはいはーい! 斎藤さんのお茶でーす」
ここで私の出番。
千鶴君に「斎藤さんの分は私に任せて」と伝えたから、これからは私が斎藤さんの専属当番。
ニコリと笑みを浮かべ差し出せば「す、すまない」といいながら受け取ってくれた。
私の淹れたお茶を斎藤さんに飲んでもらえたと喜び悶ていれば、直ぐ横では沖田さんが笑っている。
「あはは、一君良かったね」
斎藤さんは渋い顔をしていたけど、そんな表情すらも素敵。
このまま正面から眺めていたいところだけど、これから幹部の皆さんは会議がある。
幹部だけでの会議なんて重要な話である事はいわれずともわかる。
新選組の事情に首を突っ込んだり詮索をしてはいけない。
つまり、今はこの場にいることが許されない。
千鶴君に関係のある話らしく、彼女は残ることが許されているから羨ましい。
暫くして会議が終わると、斎藤さんは私を呼びに来てくれた。
ここでの生活が始まって数日が過ぎてから、斎藤さんの時間があるときに刀の指南をしてもらっている。
最初は真剣での手合わせをして、以降は竹刀での稽古。
今日も中庭へ出ると、いつものように沖田さんもいた。
何故か斎藤さんに稽古をつけてもらう際には、沖田さんがいる。
あからさまに迷惑そうな顔をすればクスクス笑い、わかっていて邪魔をしているのだから質が悪い。
幹部隊士さんとも関わることが増えたことで、皆さんの人柄もわかってきた。
だからこそ断言出来る。
沖田さんはこういう人なんだと。
そんな不機嫌な感情も、稽古が始まれば消えてしまう。
最初に私が斎藤さんと手合わせをしたとき、持っていた刀のことを尋ねられ「兄の形見です」と答えた。
私の家は平民だが、兄は武士に憧れていた。
剣術道場で試合をし、腕前も上達してきたある日、店で騒いでいた不逞浪士から人を庇い命を落とした。
生前、兄に刀の扱いを教わっていたこともあり、斎藤さんとの手合わせで「自身を守るだけなら問題はなさそうだな」と褒めてもらえた。
隊士さん達に不信感を与えないために指南のフリだけでもすべきだろうという事での手合わせだったはずが、気づけば本格的に稽古なども行われた。
「今日はここまでとしよう」
「ありがとうございました」
今日の稽古も終わり、私は斎藤さんに深く頭を下げる。
手にしているのが竹刀だとしても『真剣と思って扱うんだ』兄がよく口にしていた言葉。
新選組の屯所で生活をすることが決まったとき、私は必要な物を取りに一度家へと戻った。
兄が着ていた男物の袴。
兄が亡くなってからまるで飾り物のように置かれていた刀。
鞘から抜けば、毎日手入れしていた兄の姿が思い浮かぶほどに輝いていた。
斎藤さんの刀裁きに惚れ込んだという表向きの理由。
強ち間違いではない。
初めて斎藤さんと出会ったあの日。
血飛沫が舞う中で一瞬にして人を斬り捨てる光景に目を奪われた。
一目惚れというのは、恋心でもあり剣裁きにでもある。
「一君、フリにしてはやり過ぎなんじゃない」
「俺は、学ぼうとする姿勢のある者を適当に扱うつもりはない」
沖田さんの言葉に対する斎藤さんの返事に、私の思いが伝わっていたんだと感じた。
斎藤さんが稽古をつけてくれる時だけは、脳内にも心にも恋の文字はない。
竹刀を持った時点で、人を簡単に殺めることが出来る真剣を持ったのと同じ気持ちになるから。
兄が出来なかった分も強くなりたい。
守られる存在ではなく、誰かを守る存在に。
女が刀を振るい人を守るなんて笑われてしまいそうだが、今この場所にいる私の存在は隊士さんから見て男。
私が守る存在になれる場所。
「井戸から水を汲みますから、斎藤さんは先に汗を拭いてくださいね」
「それならあんたの方が先に使うといい」
「弟子が師匠より先なんていけません!」
いつの間にか師弟関係が私の中で出来上がっていたことに納得していない斎藤さんを放置して、汲んだ水を斎藤さんに桶ごと手渡す。
沖田さんが「僕もずっと二人を見てたから汗かいちゃったなー」なんて態とらしく言うけど「私は斎藤さん専属当番ですから」とニコリと答える。
今の私は鍛錬を終え、恋する乙女ですから。
「小丸ちゃんって一君のこと好きなんだよね」
「勿論好きですし、将来はお嫁さんになる予定です」
「おい! 総司は揶揄うな。あんたは勝手に俺の将来を決めるな」
斎藤さんが慌てる姿に声を上げて笑う沖田さん。
素直な気持ちを答えただけなのだが、斎藤さんはその場を去ってしまった。
「あんな一君が見られるのは、君だからなのかもね」
「え? それってどういう意味ですか」
「教えない。僕に水を汲んでくれなかったお仕置き」
気になる言葉だけを残して、どこかへ行ってしまう沖田さん。
揶揄われたんだろうか。
井戸の水で顔の汗を流したあと部屋へ戻れば、千鶴君がいたので今日の鍛錬のことや沖田さんのことを話す。
楽しそうに笑みを浮かべて聞いてくれる千鶴君に甘えて、いつも私ばかりが話しすぎてしまう。
「私ばかり話してごめんね」
「ううん、聞いてるだけでとっても楽しそうだから。沖田さんも斎藤さんも小丸君が好きなんだね」
「うーん、どうなんだろう。でも、沖田さんには好かれてはいないと思う」
斎藤さんといるといつも沖田さんが現れて、あれは嫌がらせとしか思えない。
斎藤さんだって、師弟関係やお嫁さんのことをいっても認めてもらえずで、まだまだ押していく必要がありそう。
二人の時間もほしいところだけど、沖田さんに邪魔されずに済む方法はないものか。
これから訪れる未来を知る術はないが、この先も新選組の皆さんと共にいられるなら、どんな未来であっても構わない。
恋する乙女は強いのだから。
《完》