心からの幸せ
名前変更
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雪根 小丸(ゆきね こまる)
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「あの、千鶴さん。千鶴さんは――」
「おい総司! おまえまた俺の句を持ち出しやがったな」
いつの間にか見回りから帰ってきた土方様が現れたかと思うと、沖田さんに掴みかかりそうな勢いで怒っている。
一体句とは何なのだろうかと思っていると、沖田さんの手にはどこから出したのか帳がある。
土方様はそれを奪おうとしているようだが、沖田さんはひょいっと交わす。
あんなに必死なのだから、きっと大切なことが書かれているに違いない。
そう思った私は、沖田さんの手から帳を奪い取った。
何が書かれているかはわからないが、これが土方様の物だということはわかる。
わけもなく土方様が人のものを奪ったり怒ったりなんてするはずがないのだから。
取り返した帳を土方様に渡すと「すまねえな」と言われ、初めてかけられた優しい言葉に胸がぎゅっとする。
「ところでおまえはこんなところで何してやがったんだ」
「あの、えっと、沖田さんにお団子を食べないかと誘われまして」
私が視線を向けた先に土方様も視線を向け、包とお団子の串、そして湯呑みを見て納得したようだ。
だがその視線は直ぐに沖田さんへと向き、隊士でもない私を勝手に屯所へ入れたことへのお説教が始まる。
招いたのは沖田さんだから私は悪くないのだが、お団子をご馳走になって、そのうえ土方様とまたこういて話せたのは沖田さんのお陰。
私は自分が屯所の近くをうろうろしていたのが悪いんです、と沖田さんを庇った。
「んなのはとっくに気付いてんだよ。総司、おまえはしっててわざと入れただろうが!」
まさか、こっそり覗いていたというのに、沖田さんどころか土方様本人にまで気づかれていたと知り一気に恥ずかしさが押し寄せる。
それに屯所の中を覗いていたなんて、誰がどう見ても怪しい。
そんなことを考えていると、いつの間にか沖田さんの姿はなく、どうやら逃げ出したようだ。
その後直ぐに千鶴ちゃんも行ってしまい、その場に土方様と私だけが残された。
「すみません。直ぐに出ていきますので」
そう言い去ろうとした私の背に声がかけられる足を止めると、なると土方様の部屋に連れてこられた。
まさかの自体に鼓動が落ち着かない。
もしかしたら、私が患者か何かだと思われてるんじゃないかとも思ったが、それよりもこの状況だ。
密室の空間。
土方様の部屋。
二人きり。
早くこの場から去りたい気持ちと、まだ土方様と一緒に居たいという気持ちの両方が私の中にある。
「数日屯所を窺ってたようだが、なんか理由でもあんのか」
尋ねられた言葉に私は口が開けなかった。
まさか土方様を見てましたとも言えず、かといって他の理由なんて今の私の心情からでは頭が回らず思いつかない。
だからといって黙っていても怪しまれてしまう。
どうしたらいいのか考えるが、その間にも時は過ぎているのだという焦りが出始め、私は口を開く。
「土方様に好意を寄せ、ずっと見ていました!」
少しの沈黙が流れ、私は自分の言った言葉を思い出し顔が一気に熱くなる。
間違ったことは言っていないし、逆に正しいのだが、土方様からしたら知らない女に好意を寄せられているのだから迷惑でしかない。
これで門から屯所の中を覗くことも出来なくなると思い、私の心は沈んでいく。
「俺のどこがいいっていうんだ」
その言葉で伏せていた顔を上げると、そっぽを向く土方様の姿が瞳に映る。
何やら口元を手で隠して、まるで照れているように見えるが、そんなはずはない。
きっと、思い当たることがないから尋ねたのだろう。
もう自分の気持ちを伝えてしまったのだから隠す必要もない。
たったそれだけのことと笑われるかもしれないけど、私が土方様を好きになったのは――。
「んなのは普通だろ」
「そんなことはありません。その普通のことができない方が多い世の中ですから」
私があまりに必死に伝えていると、土方様は優しい笑みを浮かべ、私の頭にぽんっと手を乗せると「ありがとな」と顔を逸らしながら言う。
その言葉が嬉しくて。
頭に置かれた手が優しくて私の胸は高鳴った。
その日以降、私は時々屯所を訪れるようになった。
こっそり中を覗くのではなく、堂々と門から入りあの人に会う。
そんな日々を繰り返すうちに、他の隊士の方達とも仲良くなり、私の気持ちをみんな知っているのか土方様の話ばかりを聞かせてくれる。
でも、大抵は悪口だったりする。
でもそれが楽しくて、私はこの時が何より大切な物となった。
「で、小丸ちゃんは土方さんに愛の言葉は言われたの?」
縁側で沖田さんと話していると、唐突に聞かれ頬に少し熱が宿る。
「い、いえ……。土方様が私をどのように思われているかも存じ上げませんので」
「ふふ、そんなの決まってるよ」
土方様が私をどのように思っているのか気になり、何か知っているような口ぶりの沖田さんに尋ねとした時、土方様の姿が視界に入る。
沖田さんは土方様がこちらに近づいてくるのがわかると「あとは本人に聞いてみたらいいよ」と言い残し行ってしまった。
「今総司と話してたみてぇだが、またあいつは俺のあることないことおまえに話したんじゃねぇだろうな」
「いえ、そんなことはないですよ」
沖田さんにあんなことを言われたからか、土方様が私をどのように思っているのかが気になってしまう。
もやもやとした気持ちを胸に秘めていると、土方様は私の横に並んで座り「なんかあったのか」と尋ねてくる。
やっぱり土方様は優しいお方。
人の感情に敏感で、今私の様子がおかしいことにも気づいてくれているのだろう。
ここまでわかられてしまうと、私の気持ちにも気づいてるんじゃないかと思えてしまうけど、もし私の気持ちに気づいていたら土方様の場合私を冷たく突き放す。
土方様は新選組の副長。
色恋などに浮つくような方ではないでしょうし、それに、自分に好意を寄せている相手は邪魔でしかないはず。
もし私の気持ちを知っているなら、屯所に足を踏み入れることなど許してはいない。
今土方様に気持ちを尋ねるのは簡単だけど、それで突き放されてしまうのが怖い。
こうして土方様とも話せるようになり、対し皆様とも仲良くなれた。
私は失うことが怖い。
今の幸せがなくなってしまうのなら、土方様の気持ちは知らないままでいい。
「何でもないんです。ただ、私は幸せだなって改めて思っていたんです」
「幸せっつーわりには、無理してるように思えんだがな」
まるで見透かされているようで。
私がいつ尋ねるかを待っているようで。
怖い。
でも、こんな気持ちのままでいても、きっと私は本当の意味で幸せなんて言えない。
「土方様は、私のことをどう思われていますか?」
少しの沈黙が流れる。
その間私の鼓動は高鳴っていた。
どのような言葉が返ってくるのか怖くて、自然と手に力が入る。
「屯所の出入りをおまえに許してんのはなんでかわかるか」
その言葉で私が思いつくのは、中を覗いていた私を怪しいと思ったから監視するためなんじゃないのかということ。
でも、それを伝えたら土方様は溜息をこぼした。
何がなんだかわからずにいる私の腕がぐっと引かれたかと思うと、体は土方様の腕の中に収まっていた。
突然のことに固まっていた私の耳元で聞こえたのは、今まで聞いたことのない優しい土方様の声ね。
「俺がおまえを好いちまったんだ。こんな理由で隊士でもねぇおまえを屯所に入れてるなんざ、他の奴らに知られたらいい笑いもんだ」
その言葉が嬉しくて、私の瞳からは涙が溢れだす。
私の方が、出会ったあの日から惹かれていたと伝えたいのに、上手く言葉が発せない。
今は嬉しさで何も言えないけど、次は私から言います。
私も土方様を好いています、と――。
《完》