心からの幸せ
名前変更
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雪根 小丸(ゆきね こまる)
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私はいつも、そっと新選組の屯所を覗いていた。
門のところから中を覗き、今日はあの人の姿が見えるだろうかと思っていると、掃き掃除をする一人の隊士の姿。
ここ最近入隊した人なのか、よく見かける。
主に雑用をしているみたいで、時々隊士の幹部と仲良く話している姿も見る。
でもそんなことはいいの。
私が想っているお方はただ一人、新選組副長、土方 歳三様だけだから。
そんなことを思っていると、屯所から隊士達が出てくる。
その中には土方様の姿もあり、私は鼓動を高鳴らせた。
だが、何故かあの掃き掃除をしている隊士と何やら話している。
それも、今まで見たことのない優しい表情を浮かべながら。
胸がチクリと痛む。
男の人相手に嫉妬なんてしてもどうしようもないのに。
今までだって土方様が他の隊士と話していることはあった。
でも、こんな感情にはならなかった。
もしかしたら、あの隊士が女の様に思えてしまうからかもしれない。
だが、そんなことあるはずがない。
新選組には男の隊士しかいないのだから。
それに、女を入れたところで戦力になるはずもない。
「皆さんお気をつけて」
声に視線を向ければ、見回りに行くため隊士達がこちらへと近づいてくる。
私は慌てて見つからないように隠れると、浅葱色の背が見えなくなるまで見詰めた。
今日はついてる。
土方様を見ることができたのだから。
これで用事も済んだことだし帰ろうとしたとき話し声が聞こえ、門からそっと中を覗く。
「なあ千鶴、今度町で祭りがあんだけど行かねーか?」
「お祭り!あ、でも、土方さん達に許可を取ったほうがいいんじゃないかな」
どうやら新人隊士は千鶴さんというようだ。
一緒に話しているのは確か、新選組幹部の一人、藤堂 平助さん。
藤堂さんは見回りをしているところを見かけたことがあるけど、とても明るくて人懐っこそうな人だと思った。
千鶴さんと話している藤堂さんは「少し行くだけだから大丈夫だって。左之さんや新八っつぁんも一緒だしさ」と説得している。
「うーん。三人が一緒なら……」
「やったぜ!んじゃ、決まりだな。約束だからな」
普段通りの藤堂さん、の筈なのに、何故か腑に落ちない。
千鶴さんが行くと決まったときのあの表情。
何より、藤堂さんもさっきの土方様のように優しい目を千鶴さんに向けていた。
もし、千鶴さんという隊士が女の方だったら。
そんなありもしないようなことを考えてしまう。
でも、本当に無いと言い切れるだろうか。
もしかしたらという考えが消えず、もし千鶴さんという方が女なら、土方様は女の方といつも一緒ということになる。
これは事実を確認しなければと思うものの、その手段はない。
丁度藤堂さんも屯所内に入ってしまい、そこにいるのは千鶴さんだけ。
声をかけるには絶好のタイミングだが、千鶴さんは男の着物を着ている。
それはつまり女の方だったとすれば、隠しているということになる。
そんな相手に尋ねたところで正直に答えてもらえるとは思えない。
どうしたものかと頭を抱えていると、突然背後から声をかけられ、驚きで肩が跳ね上がると同時に悲鳴に似た声が出る。
「はは、君、凄い声出すね」
いつからいたのか、私の背後にいたのは新選組の幹部隊士、沖田 総司さん。
「す、すみません!私はこれで」
「ちょっと待って。よかったら、お団子食べて行かない」
思いもしない言葉に間抜けな声が漏れる。
沖田さんは私の腕を掴むと、ぐいぐい屯所の中へと引っ張っていき、千鶴さんにも声をかけた。
「あ、沖田さん……と、そちらの方は?」
「うん。この子、最近ずっと門のところで中覗いでるから連れてきたんだ。千鶴ちゃんも一緒にお団子食べよ」
あれよあれよという間に三人並んで縁側に座り、お団子を食べていた。
私は二人に挟まれているため逃げ場もなく、言われるままにお団子をご馳走になり千鶴さんの淹れてくれたお茶を飲む。
「で、君、土方さんのどこがいいの」
「ゲホゴホッ!」
お茶を飲んでいるときに尋ねられ噎せてしまうと、千鶴さんが背中を撫でてくれる。
「大丈夫ですか?」
「慌てて飲むからだよ」
優しい千鶴さんとは違い、沖田さんの言葉で誰のせいだと言いたくなるがぐっと我慢する。
ここで感情的になってしまえば土方様を好きだと言っているようなもの。
確信もなく言っているだけだと思い、何のお話ですかと尋ね返す。
「君、土方さんの事好きだよね。最近いつも門のところから覗いてるし」
「あ、あれは偶然で……」
「へー、毎日偶然門から覗いて、土方さんが見えると笑顔になるんだね」
全て見られていたんだと知り、私は土方様を好きだと認めるしかなかった。
「やっぱりそうなんだ。で、土方さんのどこがいいわけ」
答えるまで逃さないというように、沖田さんの瞳が私を捉える。
千鶴さんも興味があるらしく私の言葉を待っており、一つ息を吐くと口を開く。
それは、数日前のこと――。
この頃の私は、周りの噂でしか新選組のことを知らず、見回りに来る隊士達を皆と同じ様に避けていた。
新選組には悪い噂ばかりが流れており、人斬り集団とさえ言われていた。
そしてその時も、見回りに来た新選組を避けるため隅に寄っていると、先頭を歩く一人の隊士と目が合い逸らした。
関わればどんな目に合うかもわからない。
それに、変な噂が流れたら私まで町の人達に煙たがられてしまう。
それから数刻過ぎた頃、私は茶屋に行こうと街を歩いていた。
すると聞こえてきた子供の鳴き声に視線を向ければ、お母さんと離れてしまったのか子供が一人泣いていた。
誰一人として見てみぬふり。
放っておくことができなかった私は声をかけるが、なかなか泣き止んでくれない。
このままだとどうすることもできず困っていると「なに男がぴーぴー泣いてやがる」と声がし顔を上げる。
そこにいたのは、先程目が合った新選組隊士。
子供に対してなんて酷い言い方をするんだろうと思っていると、いつの間にか男の子は泣き止んでいた。
「泣いててもどうしようもねーんだ。手伝ってやるからおまえの親を探すぞ」
口調は強いが、言葉には優しさがあった。
男の子は涙を拭うと「男だから泣かない」と言い、この子の親を探す。
私も手伝いますと言ったが、こんくらい大丈夫だと言い、その隊士は男の子を連れて行ってしまった。
その翌日。
私は新選組屯所の門から中を覗き、あの人物を探した。
だがなかなか現れず、明日また来ようと思ったとき、聞き覚えのある声に再度中を覗く。
するとそこには昨日の隊士の姿。
でも他の隊士と話していて声がかけられず待っていると、直ぐに話は終わり、昨日の隊士一人となった。
「あ、あの!」
私に気づいた隊士が目の前まで来ると、私は昨日の子供のことを尋ねた。
無事親が見つかったと聞いて安心していると「用が済んだならもういいな」と、その隊士は屯所の中へ消えてしまう。
「その後、その隊士の方が土方様だと知ったんです」
「ふーん、土方さんにも優しさってあるんだね。でも、今の話に好きになるところなんてあったかな」
沖田さんの言葉に私は口元を緩めた。
好きになるところなんて十分にあった。
あの日から数日、毎日屯所の中を覗いて土方様を見続けた。
ときに厳しくときに優しい。
あの時のように、言葉は乱暴かもしれないけど、本当は誰よりも優しく誰よりも人を思える人。
そんな土方様を好きになるのに時などかからなかった。
勿論この気持ちを伝えるつもりはない。
私のことなど覚えていないだろうから。
これは勝手に好意を寄せている私の中だけの恋だと知っている。
私の話を聞いて千鶴さんが「なんだかわかる気がします」と気持ちを理解してくれた。
沖田さんは変わらず理解できないといった様子だけど。
女心を理解する男。
そんな人がいてもおかしくはないのだが、やはり気になる。