命が尽きるその時まで
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雪根 小丸(ゆきね こまる)
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それから時間は過ぎ、気づけば空は茜色に染まっていた。
二人の時間はあっという間のものであり、帰る時には何故か寂しさを感じてしまう。
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
「俺は別になにもしてねぇよ。それに、楽しかったのは俺もで……」
最後が聞き取れず小丸が首を傾げると、丁度屯所へと着いてしまい、結局何を言ったのかは聞くことはできないまま直ぐに夕餉の時間となり二人広間へと向かう。
すると広間には左之助と平助の姿があり、新八は二人へと近づいていく。
そして小丸も善の前に座り、皆が集まると食事を食べ始める。
「お前ら、何で勝手にいなくなったんだよ」
「んなの決まってんだろうが」
「そうそう、左之さんと俺は気を効かせたんだって。新八っつぁんわかりやすいんだもんなぁ」
ニヤニヤとする二人に顔を真っ赤にし慌てる新八の様子を目にした小丸は、一体なんの話をしているのだろうかと気になり、食事中ずっと新八のことを見てしまう。
町に出掛けてからというもの、小丸は自分の中で起こる異変を感じ始めていた。
気持ちの答えが出ていても、小丸はこの想いを新八に伝えようとは思わない。
誠の旗の元、命をかけ戦う人に対し想いを伝える勇気など、小丸にはないのだ。
「今なら、この想いも忘れられるよね……」
いつ命を落とすかもわからない人を好きになるのは辛いことであり、今ならまだこの想いを無くせるに違いないと、食事を済ませ部屋に戻った小丸は、一人ポツリと声を漏らす。
そしてその頃新八も、部屋で一人今日あった出来事を思い出していた。
思い出すのは小丸のことばかりであり、口許が緩む。
左之助と平助は新八の小丸への想いに気づいていたようだが、新八本人も自分の気持ちには気づいていた。
だが、それでも想いを伝えないことには訳がある。
それは、自分がいつ命を落とすかわからない身だというのもあるが、新選組の隊士として生きる以上、想いは死への迷いを生み出すと思ったからだ。
大切な者ができれば、その者の為に命を捨てられなくなるに違いない。
「まぁ、俺みてぇな奴が小丸に好いてもらえるわけねぇだろうけどな」
どこか悲しげに漏らした言葉は、誰が聞くこともなく消えていく。
お互いの気持ちは同じであり、想いを伝えないということも一緒だった。
その後、新八はこれ以上小丸のことを考えないようにと、部屋を出て外の空気を吸う。
夜の空気を胸一杯に吸い込み吐き出したとき、廊下の軋む音に視線を向けると、そこには小丸の姿がある。
「永倉さん、どうかされたのですか?」
「あ、ああ、ちょっと外の空気をな」
夜の静けさの中、葉の擦れる音や風の音だけが聞こえ、二人の間には緊張が流れる。
小丸の事を考えないようにと思い外の空気を吸いに来たというのに、本人を横にして考えない事など出来る筈がない。
つい気持ちを伝えそうになってしまうが、言葉を飲み込む。
横に立つ小丸に視線を向けると、月を眺める小丸の瞳の美しさに目が離せなくなる。
そんな美しさに引き寄せられるかのように、新八の手が小丸の頬に触れ、小丸は新八へと顔を向ける。
するとその瞬間、二人の距離は一気に縮まり唇が触れた。
「わ、わりぃ!今のはその、っ!?」
自分が今何をしたのか思い出し、何とか誤魔化そうとして慌てていると、頬を染めながら視線を横に逸らす小丸の姿が目の前にあり、誤魔化すのは辞めた。
こんな顔をさせておいて、誤魔化したら自分で自分が許せないからだ。
伝えるつもりなんてなかった。
この想いを伝えても小丸を困らせるだけだとわかっていたから。
それでも、この想いを押し殺すなんて器用な真似は自分にはできない。
「小丸ちゃん、俺は小丸ちゃんの事が好きだ。こんなこと言っても困らせることはわかってる、だが__」
「嬉しいです。私も永倉さんの事が好きです」
一度想いを知ってしまえば、もう押さえることなど不可能だ。
いつ命を落とすかもわからないこの時代。
それでも、目の前で頬を染め、涙を浮かべるその顔が曇ることがないように、自分は死なないと誓う。
こんな言葉は意味のないものかもしれないが、それでも、惚れた女に笑顔でいてもらうためなら、自分は強くなれると思った。
今までは、大切な存在ができれば迷いが生まれると思っていた新八だが、それは違ったようだ。
新選組は江戸を守るために命をかける。
なら自分は、大切な人のために更に強くなれるということだ。
誠の旗に誓おう。
江戸と、そこで暮らす大切な者のために更に強くなりこの先もその笑顔を守り抜くと。
《完》