瞳に映る二人の私 前編
名前変更
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【デフォルト名】
雪根 小丸(ゆきね こまる)
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「いらねぇのか?」
突然固まってしまった小丸に土方は声をかける。
ハッとした小丸はお礼を伝えると、土方の手からおまんじゅうを受け取った。
そして土方が去ってしまったあと、小丸は自分の手の中にあるおまんじゅうを見つめる。
「これ、どうしよう……」
千鶴に渡したもののため、小丸はそのおまんじゅうを千鶴の部屋まで届ける。
するとその日、千鶴と土方が廊下で話している姿を見つけ、小丸はスッと隠れた。
「土方さん、先程はおまんじゅうをありがとうございました」
その会話に、いつ自分だとバレるのかとヒヤヒヤしていた雪根だが、なんとかバレずにすみほっと胸を撫で下ろす。
それから、小丸が新選組に来て一月経った頃のことだ、今も小丸は千鶴のふりを続けていた。
「土方さん、お茶をお持ちしました」
「ああ」
今日も千鶴に間違えられた小丸は、土方の部屋にお茶を運んでいた。
こうして過ごす中、新選組の人達がどれだけ優しい人達なのかということがわかった。
千鶴を仲間のように大切に思っていることを過ごしてくうちに知り、嬉しいことのはずなのだが、小丸の表情は曇る。
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもありません」
土方に尋ねられ、何でもない振りをし部屋を出ようとすると、頭に優しい温もりが触れた。
下へと向けていた視線を上げると、土方の手が小丸の頭に置かれている。
「あ~……あんま、一人で抱え込むんじゃねぇぞ」
照れ臭そうに言う土方の視線は小丸から逸らされているが、その頬がほんのり色づいていることに気づいた小丸の胸は、静かに音をたてた。
離れていく温もりに寂しさを感じるのと同時に、小丸の胸が軋む。
これ以上ここにいては涙が溢れてしまうと思った小丸は、部屋を出て自室へと戻る。
「っ……!」
部屋へと戻ると、小丸の涙は頬を伝い、畳を濡らしていく。
小丸は知っている、自分の気持ちが恋であることを。
だが、土方の瞳に映っている小丸は千鶴なのだと思うと、涙はとまらなくなる。
その夜、小丸は夕餉の時間も部屋に籠ったまま出ようとはしなかった。
涙で目は赤く、こんな顔を誰かに見られるわけにはいかない。
心配した千鶴が小丸の部屋を訪れたが、食欲がないとだけ障子越しに小丸が返事をすると、千鶴は皆の元へと戻っていく。
「何してるんだろう、私……」
父を探すため、姉を探すためにここまで来たというのに、小丸の胸は他のことで一杯になってる。
「土方さん……」
部屋で一人呟くと、足音が廊下から聞こえ、その足音は小丸の部屋の前で止まった。
「入るぞ」
「っ!?」
その声の主に気づいた小丸は、部屋に入ってくる土方に見られないよう、慌てて布団を被る。
「土方さん、何御用でしょうか?」
「ああ、千鶴からお前の様子が可笑しいって聞いてな」
もしかして心配して、わざわざ来てくれたのだろうかと嬉しくなるが、直ぐに表情は暗くなる。
土方の瞳に映るのは、今は千鶴ではない小丸だ。
胸が締め付けられているように苦しくなり、早く土方に出ていってもらいたいと思ってしまう。
「ご心配お掛けしてすみません。私なら大丈夫ですから」
大丈夫なんて嘘だが、早く部屋から出ていってもらうためにそういうと、突然被っていた布団が取られてしまった。
小丸が驚きに顔を上げると、土方の姿が瞳に映る。
「そんな兎みてぇな目してる奴が、大丈夫なわけねぇだろうが」
一番見られたくない人に見られてしまい、小丸は手で自分の顔を隠そうとするが、伸ばされた手に腕を掴まれ制止されてしまう。
「言っただろうが、一人で抱え込むんじゃねぇってな」
「っ……!?なんで……?それは、姉に言った言葉で……」
確かに土方に言われた言葉だが、それは土方が小丸を千鶴だと思っていたときに言われた言葉だ。
小丸は訳がわからず言葉が出ずにいると、口を開いたのは土方だった。
「気づかねぇとでも思ったのか?」
「いつから……」
「最初は気づかなかったが、話していくうちに直ぐにわかった。だが、お前は隠してるみてぇだったからな」
知っていて気づかない振りをしてくれていたのだと知り、小丸の視界は涙でぼやけてよく見えなくなっていく。
「なら、私の頭に手を置いてくれたのも、全部、全部私にしてくれたことなんですか……?」
「決ってんだろぉが」
その言葉で、小丸の涙は溢れて止まらなくなる。
先程とは違い、今度は嬉し涙で布団を濡らしていく。
「っ……ひっく…………土方さん、好きです……大好きです……っ!!」
涙を手で必死に拭いながら、小丸は震える声で口にする。
そんな小丸の体を土方は強く抱き締めると、それは俺の台詞だと耳元で囁き唇を重ねた。
今もこれからも、土方の瞳に映るのは小丸だけであり、体を包み込む温もりを、小丸は力一杯抱きしめる。
《完》