梅雨の日の合唱
ここはデビルズパレス。
悪魔と契約した悪魔執事達が暮らす屋敷。
その悪魔の力を開放することが出来るのが、現代を生きる普通の社会人である私。
手に嵌められたこの金色に光る指輪こそ、元の世界とこちらの世界を繋ぐ。
この指輪を外せば元の世界に戻れて、嵌めればこちらの世界に来られるという、仕組みがよくわからない指輪。
こんな非現実なことが起きているのだから、仕組みなんて気にしたところで意味もないことだけど。
なんて考えていたら、扉をノックする音が聞こえ返事をする。
扉を開き現れたのは、私の担当執事であるラムリ。
「主様、やっぱり帰ってきてたんですね!」
「よくわかったね」
「ボクの感が主様が帰ってきたーって言ってたんで」
一体どんな感なんだとクスリ笑うと、ラムリもニコニコ笑って私を見ている。
彼の明るさを見ていると、元の世界での疲れもどこかに飛んでいってしまうから不思議。
「主様、庭に行きましょう」
唐突に言われた言葉に反応するより早く、ラムリが私の腕にギュッと抱き着いてグイグイ歩き出す。
自室から見えた外は雨だったけど、こんな中どこに行くんだろう。
「あ、傘を持ってくるのを忘れてました。少し待っていてくださいね」
ラムリがビューンと風の速さで行ってしまうと、玄関ホールにポツンと残された。
あの速さならすぐに戻ってきそうだなと待っていると、背後から声をかけられ振り返る。
そこには、ラムリと同じ階の執事であるナックがいた。
「主様、お戻りになられていたのですね。今日も変わらぬ美しさが、この屋敷に咲く一輪の花のよう──」
「主様ー!」
ナックの言葉を遮るようにラムリの声が聞こえ振り返れば、手には一本の傘。
私とナックの間に入り「さあさあ行きましょう」とナックを完全無視のラムリ。
この二人は仲がよくないから嫌な予感を感じていると、予想は的中。
雨の中私を連れてどこに行くのかと尋ねられたラムリは「ナックには関係ないでしょ」なんて返すものだからどんどん空気が不穏に。
確かに私もどこに行くのか聞いてないから気になるところだけど。
「関係ないわけ無いでしょう。大切な主様が風邪でも引いたらどうするのですか」
「庭にゲコちゃん見に行くだけなんだから。それに、ボクがこうしてギュっとしてるから風邪なんて引かないし」
目的地はわかったけど、このままだとカエルのところに連れて行かれるんじゃと思ったとき、腕をグイグイ引かれる。
助けを求めようとナックを見れば、察してくれたらしく制止の声をかけてくれた。
これでカエルのところに行かずにすむと思ったそのとき、私のスカートの裾あたりに何やら重みが。
視線を下へと落とすと、そこには頬を膨らましたり萎めたりするあの、緑の生き物。
屋敷中に響いた悲鳴で他の執事達が駆け、玄関ホールでは、ペタリと脚を付けて座りながら瞳をウルウルさせている私。
その膝の上には、雨だからは晴れた日より元気なカエルがぴょんぴょんと跳ねている。
早くスカートからおりてほしいのに、同じ位置で飛び跳ねるカエルに私は身動きがとれない。
「なぜ屋敷の中にカエルが……。まさか、ラムリ!」
「庭に一人でいたから、仲間のところに返してあげようとしただけだよ」
ラムリが言うには、昨日庭を歩いていたら一匹だけのカエルがいて、仲間と離れて可哀想だと思ったから屋敷に連れて帰ってきたらしい。
今日は偶然雨が降ったから、今なら仲間のところに連れて行ってあげられるかもと思いポケットに入れていたと話す。
私を誘ったのは、カエルの合唱を聞かせてあげたかったからと言うラムリ。
しゅんと落ち込むその姿を見れば、悪気がないことはすぐにわかる。
ただラムリは一匹のカエルを可哀想だと思っただけ。
「ラムリがカエルのためにしたことはわかったよ」
「主様……」
瞳をうるうるとさせるラムリ。
私とラムリの様子を見守っている執事達。
ただ一言いいたいことがあった私の言葉を代弁するかのように「そろそろ主様の膝の上に乗ったカエルを退けてあげたほうがいいんじゃないかな」というミヤジの言葉で、その場にいた執事全員が私のスカートに手を伸ばすものだから、カエルはぴょんぴょんと玄関ホールを飛び跳ねる。
やっと自由に動けるようになったわけだけど、執事のみんなはカエルを捕獲するためにドタバタ走る。
私に向かってくるカエルと、そのカエルを捕まえようとする執事達。
奇妙は追いかけっこが終わったあとは、ラムリと一緒に雨の庭へと出てカエルを仲間の元へと返す。
聞こえてくるカエルの合唱に瞼を閉じる。
これはこれで素敵な梅雨だなと思っていると、スカートの裾にまだ記憶に新しい重さがかかり、私の悲鳴が今度は別邸まで届いた。
《完》
悪魔と契約した悪魔執事達が暮らす屋敷。
その悪魔の力を開放することが出来るのが、現代を生きる普通の社会人である私。
手に嵌められたこの金色に光る指輪こそ、元の世界とこちらの世界を繋ぐ。
この指輪を外せば元の世界に戻れて、嵌めればこちらの世界に来られるという、仕組みがよくわからない指輪。
こんな非現実なことが起きているのだから、仕組みなんて気にしたところで意味もないことだけど。
なんて考えていたら、扉をノックする音が聞こえ返事をする。
扉を開き現れたのは、私の担当執事であるラムリ。
「主様、やっぱり帰ってきてたんですね!」
「よくわかったね」
「ボクの感が主様が帰ってきたーって言ってたんで」
一体どんな感なんだとクスリ笑うと、ラムリもニコニコ笑って私を見ている。
彼の明るさを見ていると、元の世界での疲れもどこかに飛んでいってしまうから不思議。
「主様、庭に行きましょう」
唐突に言われた言葉に反応するより早く、ラムリが私の腕にギュッと抱き着いてグイグイ歩き出す。
自室から見えた外は雨だったけど、こんな中どこに行くんだろう。
「あ、傘を持ってくるのを忘れてました。少し待っていてくださいね」
ラムリがビューンと風の速さで行ってしまうと、玄関ホールにポツンと残された。
あの速さならすぐに戻ってきそうだなと待っていると、背後から声をかけられ振り返る。
そこには、ラムリと同じ階の執事であるナックがいた。
「主様、お戻りになられていたのですね。今日も変わらぬ美しさが、この屋敷に咲く一輪の花のよう──」
「主様ー!」
ナックの言葉を遮るようにラムリの声が聞こえ振り返れば、手には一本の傘。
私とナックの間に入り「さあさあ行きましょう」とナックを完全無視のラムリ。
この二人は仲がよくないから嫌な予感を感じていると、予想は的中。
雨の中私を連れてどこに行くのかと尋ねられたラムリは「ナックには関係ないでしょ」なんて返すものだからどんどん空気が不穏に。
確かに私もどこに行くのか聞いてないから気になるところだけど。
「関係ないわけ無いでしょう。大切な主様が風邪でも引いたらどうするのですか」
「庭にゲコちゃん見に行くだけなんだから。それに、ボクがこうしてギュっとしてるから風邪なんて引かないし」
目的地はわかったけど、このままだとカエルのところに連れて行かれるんじゃと思ったとき、腕をグイグイ引かれる。
助けを求めようとナックを見れば、察してくれたらしく制止の声をかけてくれた。
これでカエルのところに行かずにすむと思ったそのとき、私のスカートの裾あたりに何やら重みが。
視線を下へと落とすと、そこには頬を膨らましたり萎めたりするあの、緑の生き物。
屋敷中に響いた悲鳴で他の執事達が駆け、玄関ホールでは、ペタリと脚を付けて座りながら瞳をウルウルさせている私。
その膝の上には、雨だからは晴れた日より元気なカエルがぴょんぴょんと跳ねている。
早くスカートからおりてほしいのに、同じ位置で飛び跳ねるカエルに私は身動きがとれない。
「なぜ屋敷の中にカエルが……。まさか、ラムリ!」
「庭に一人でいたから、仲間のところに返してあげようとしただけだよ」
ラムリが言うには、昨日庭を歩いていたら一匹だけのカエルがいて、仲間と離れて可哀想だと思ったから屋敷に連れて帰ってきたらしい。
今日は偶然雨が降ったから、今なら仲間のところに連れて行ってあげられるかもと思いポケットに入れていたと話す。
私を誘ったのは、カエルの合唱を聞かせてあげたかったからと言うラムリ。
しゅんと落ち込むその姿を見れば、悪気がないことはすぐにわかる。
ただラムリは一匹のカエルを可哀想だと思っただけ。
「ラムリがカエルのためにしたことはわかったよ」
「主様……」
瞳をうるうるとさせるラムリ。
私とラムリの様子を見守っている執事達。
ただ一言いいたいことがあった私の言葉を代弁するかのように「そろそろ主様の膝の上に乗ったカエルを退けてあげたほうがいいんじゃないかな」というミヤジの言葉で、その場にいた執事全員が私のスカートに手を伸ばすものだから、カエルはぴょんぴょんと玄関ホールを飛び跳ねる。
やっと自由に動けるようになったわけだけど、執事のみんなはカエルを捕獲するためにドタバタ走る。
私に向かってくるカエルと、そのカエルを捕まえようとする執事達。
奇妙は追いかけっこが終わったあとは、ラムリと一緒に雨の庭へと出てカエルを仲間の元へと返す。
聞こえてくるカエルの合唱に瞼を閉じる。
これはこれで素敵な梅雨だなと思っていると、スカートの裾にまだ記憶に新しい重さがかかり、私の悲鳴が今度は別邸まで届いた。
《完》
1/1ページ
