日常の1コマ王子様

■失礼な奴ら

 部活が終わり、着替えた切原きりはら丸井まるいにガムを一枚くれないかと頼むと、丸井は「いいぜ」と言いながら、普段持ち歩いているグリンアップル味のガムを差し出す。



「俺もほしいぜよ」

「赤也は兎も角、お前までなんて珍しいな」

「たまには不良みたいにガムを膨らますだけじゃ」

「お前(仁王におう先輩)は、すでに不良(みたいなもんっスよ)だろ!!」



 二人の声が重なり、仁王は「失礼な奴らじゃのぅ」と一言いい、丸井が切原に差し出していたガムをヒョイっと取って「もらっていくナリ」と、ガムを持った手を後ろ手に振りながら部室を出ていく。

 その背後では「それ、俺のガムっスよ!」という切原の声が聞こえるも。
 仁王は気にせず扉を閉めた。






■モテるには

 切原が突然「仁王先輩と丸井先輩がモテる理由ってやっぱ髪なんスかね」なんて言い出すと「急になんだよ」と丸井が反応する。
 そこに仁王まで加わり「お前さんもキレると色が変わるじゃろ」なんて言いながら喉でクツクツと笑う。



「そういうんじゃないんっスよ」



 どうやら自分も髪を染めればモテるんじゃないかと思ったらしく、二人に自分は何色が似合うか尋ねると、二人の声がハモリ「黒」と言う。



「今のままじゃないっスか!」



 先輩二人にからかわれる切原だが、丸井も仁王も本心だ。
 そもそも髪を染めでもしたら、真田さなだのお説教と鉄拳が切原に落ちることは予想できる。
 丸井と仁王がこの髪を許されているのは、仁王のお得意ペテンによってだが、切原はそうはいかない。
 泣きついてきたところで仁王が手を貸すはずもなく、その光景を笑うに違いない。

 一部始終を見ていた立海テニス部マネージャは心でそう思いながら、立ち聞きしたあと皆のドリンクを片付けに行く。






■一番困るのは

 突然廊下で聞こえたのは「たるんどる」の言葉。
 大きな声と迫力に皆が振り返る。

 そこにいたのは腕を組み仁王立ちする真田と怯える赤也あかや。



「なんだよ。また赤也あかやのヤツなんかしたのか?」

「ふざけて廊下で騒いでたみたいだぜ」



 その声は一体どこまで響いていたのか、丁度階段を上がろうとしていた丸井とジャッカルが廊下を見ながら言う。
 何故こうも、赤也は真田を怒らせることばかりするのか。



「赤也にも困ったものだね」



 いつからいたのか、丸井とジャッカルの背後に立っていたのは幸村ゆきむらと仁王。

 仁王の「じゃが、一番困るのは」の言葉で四人が声を合わせ「真田の大声(じゃな/だろ)だね」と呆れ顔。
幸村一人は「フフッ」と笑っていたのが少し不気味ではあったが、敢えて三人はツッコまなかった。

 その日の部活は赤也の練習だけ倍になり、それを見て楽しそうにする幸村。
 それを見て、赤也の犠牲は必要だったんだと思うレギュラー陣。

 幸村の楽しみがなくなれば、次は我が身。
 これからも赤也には犠牲になってもらわなくてはと思った皆は、その日の部活終わり赤也に優しく接する。
 当の本人である赤也は意味がわからず、その優しさを怖がっていた。






■たるんどる

 立海テニス部部室では何時もと違う空気が流れており、レギュラー達の視線の先には、普段より静かというか元気のない真田副部長の姿。



「丸井先輩、なんか真田副部長静かじゃないっスか」

「だよな」

「気味が悪いぜよ」



 切原、丸井、仁王がコソコソ話していると、もう一人のレギュラーである柳生やぎゅうがやって来たので引きずり込み、真田の様子がおかしいことを話せば「ああ、それはお昼の件が……ごほんっ」と、何やら知ってそうな言葉を区切って誤魔化すように咳払いをする柳生。

 三人見逃すはずもなく詰め寄れば、観念した柳生が話した内容に三人は大爆笑する。



「あははは!! それマジっスか」

「女子に『たるんどる』なんて言ってブチ切れられたとはな。可笑しすぎだろい」



 ブチ切れ女子は、最近太り気味なのを気にしていたらしく、怒った女子の剣幕に叱っていた筈の真田と立場が逆となったことで女子にかなり叱られたようだ。
 静かな真田に再度視線を向けた三人は、これで当分は静かになるだろうと喜ぶも、翌日には真田が完全復活することをまだ知らない。






■痴話喧嘩

 立海のテニス部部室にいるのは、ジャッカルと丸井まるい。
 真剣な表情の丸井が何を言い出すのかと思えば「ジャッカル、お前……彼女できたんだって」という突然の言葉。
 ジャッカルも理解が出来ないらしく「は?」と声を漏らす。



「何で俺に言わねーんだよ」



 話されなかったことに怒っている丸井。
 ジャッカルが話をきくように落ち着かせようとするも「隠し事なんかをダブルスパートナーにする奴なんかの話をきくかよ」と聞く耳持たない。

 そんな様子を部室のドアの隙間から見てしまったマネージャーは「カップルかよ」と心の中でツッコミながら、入るタイミングを待つ。
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