勇者よ我が嫁になるがよい!

「もう堕ちてるだろあれ…」
「だよなあ……」
広間で魔王と勇者のやり取りを見ながら魔族の従臣たちはひそひそと話していた。黒髪の小柄な勇者は白髪の大柄な魔王に迫っていて、それは愛の告白そのものだった。それに魔王はアワアワと慌てている。皆は煮え切らない二人に溜息を吐いた。はよくっつけ!とは言えない悲しい立場である。
「どうしたら信じてくれんの?ここで脱げばいい?」
「待て待て待て!我としてはあと100年ぐらいかけるつもりだったのだが!」
魔王はグイグイくる勇者を制止するように手を左右に振った。勇者は舌打ちして、キレる。
「なげーよ!!俺もう限界……お前優しすぎんだもん!バーカバーカ!」
「なっ、バカはないであろう、仮にも伴侶に向かって」
「仮ってなに?今すぐ伴侶にしろよ!」
よう言った!と皆は思った。もうくっついてもおかしくないのに、いつまでもくっつかない二人に色々と限界だった。それは勇者もまたそうだったのだが。
「分かった、三日待て!」
手を突き出して魔王は宣言する。勇者はそれに口を尖らせた。
「やだ!」
「だって、我、童貞なんだもん……心の整理が……」
まじかー知らんかった……と皆がザワザワとする中で勇者もまた爆弾を落とす。
「そんなの俺だってそうだし!」
ざわめきが激しくなるのも気にせず、勇者は魔王の手を取って胸に触れさせる。
「いいからはやくお前のものにして」
「ヒューヒュー!やったれー!」
「魔王様と勇者おめでとー!」
周りはとうとう拍手喝采である。魔王は頬を染めて顔を隠す。勇者はそんな魔王の手を引いて歩き出した。それを皆は手を振って見送った。
「行くぞ」
「勇者くん、待ってー!」



廊下を歩きながら、勇者は魔王に話しかける。
「俺とするのそんなに嫌?」
見上げてくる勇者にうぐっと魔王は息を詰まらせる。
「いやこういうのは順を追ってだな」
「順ってなに?」
「先ずは手を繋ぐことからでしょう?」
「うん、今してるよな、次は?」
ぐっと握る手に力を込めて勇者は首を傾げる。
「き、きすとか?」
挙動不審な魔王に勇者は笑って顔を近づける。
「うん、分かった」
そのまま、そっとキスをした。魔王はいきなりの展開にカチコチに固まる。
「やばい我死ぬ」
「死ぬな、バカ魔王」
「またバカっていった!我、バカじゃないもん!純情なだけだもん!最強魔王様だもん!」
「知ってる、で、次は?」
勇者は魔王の頬に触れて笑みを深める。それは愛しい者を見つめる顔だった。
「……指輪受け取ってくれる?」
「ふはっ!お前だって気早いじゃん!」
照れる魔王に勇者は吹き出す。嬉しくてたまらないといった様に勇者は魔王に抱きついた。
「いやいや、だって、絶対我のものにするって決めてたし」
身体を離して勇者は手を差し出す。
「つけろよ」
「はい……」
魔王は懐から指輪を取り出して勇者の薬指に嵌めた。勇者はそれに涙をこぼして笑う。
「やばい、超嬉しい……」
「泣くほど……」
「うん、すっげー嬉しい」
「まじかー……我も泣けそう」
勇者の涙を拭って魔王は自分の目も擦った。
「はい、で、次は?」
勇者はそれでも止まらない。積極的に先を求める。
「ちょい待ち!勇者くん展開早すぎ!」
魔王はついて行けずに勇者の頬を柔らかく手で挟む。勇者はそれに吹き出して、手を添えた。
「だってはやくお前のものになりたいんだもん、一ヵ月近く焦らされた仕返し」
「うー、勇者くん、そんなに我と、その、したいの?」
「したい、だって好きだし」
「ぐはっ……」
「どうした、お前」
勇者は少し心配したように胸を押さえる魔王の頭を撫でる。
「童貞には刺激が強すぎる……両思いとかまじか、召されそう」
「死ぬなよ」
「我も、我も、好きです、大好きです」
「知ってる、だってお前、色々ダダ漏れだし」
勇者は当たり前のように言う。魔王は目を見開いた。
「なんですと!」
「でもそこが一番好きなとこ。で、次は?」
魔王は照れて、少し考え込んだあと、重大なことを口にした。
「あとは契約ですかな、魂の契りを結ぶことですが」
「うん、どうすりゃいいの?」
「本当にいいの、勇者くん?これは魂に刻まれる破れない術のようなもので、互い以外とは何があっても最終的に離れられなくなるんですが……我もちょい怖いんですが本気なので契りたいのです」
「いいよ、お前とならきっとずっと楽しいし、楽しくなくてもいいよ、ずっと縛ってよ」
勇者は魔王の手を胸に持っていく。
「勇者くん……」
「あのさ、その呼び方やめない?名前で呼べよ、俺も名前で呼ぶから、なあ、アラン」
「……わかった、シリルくん、じゃあ我と額を合わせて」
「ふっ、擽ったい」
勇者、シリルは額を合わせて笑う。
「あーもう、シリルくんといると毎日刺激的すぎる」
「いいじゃん、飽きなくて」
「まあ、そうなんですが、はい、できました」
額を離して、魔王、アランは微笑む。
「今の一瞬で?」
「シリルくんの魂全然抵抗してないから、すぐかかっちゃった、不安になるレベルですな」
「お前相手だからだよ、他のやつにはちゃんと抵抗する、死ぬほど抵抗する」
「ふふっ、まあ信じますがね」
アランはシリルをそっと抱きしめる。シリルもアランを抱きしめ返した。
「じゃあ、もういいよな?」
「なにが?」
「アランって本当鈍感だよな。俺ずっとお前に抱かれたかった」
「シ、シリルくん、本当に今するつもりで?」
アランは頬を染めて、目を泳がせる。
「もちろん、したくない?」
「そりゃあしたいですが、その……」
「じゃあしようぜ、大丈夫、やり方なら調べた」
「我も調べてはありますが、傷つけないか心配……」
縮こまるアランにシリルは手を取って口付ける。
「互いに初めてだからいいんだろ、傷ついてもお前とならその傷すら愛しいよ」
「……シリルくん、分かった、我も腹を決めます!」
「よしっ、じゃあ、さっそく、お嫁さんにしてね、旦那様」
バターンと音を立ててアランは倒れる。
「我、やっぱり今日命日かも」
「ふはっ!」
シリルは腹を抱えて笑う。それから二人は寝室に向かって、じっくりと愛を確かめ合うことになった。



数日後、寝室でシリルを膝に乗せてアランは寛いでいた。
「アラン、大好き」
「シリルくん、我も大好き」
背後からシリルを抱きしめ、アランは頬に口付ける。もう皆にも二人が結ばれたことは広まっていて、お祝いムードが城を包んでいた。今は二人の時間で誰も邪魔をする者はいない。
「明日は何する?」
「君の好きな紅茶とビスケットを持って、植物園に入り浸るのはどうですかな」
「最高!なあ、緑もいいけど、今度、海も見に行こうぜ、魔王領には海があるんだろ?」
「ありますな、海好きなんですか?」
アランはシリルの腰に手を回して尋ねる。
「海で亡くなった父さんと母さんに繋がってるかなと思ってさ」
「!ごめん、辛いこと思い出させた」
「別に辛くないよ、お前がいるし、みんながいるから、もう大丈夫」
シリルはアランの頬にキスをして笑う。アランはぎゅっとシリルを抱きしめた。
「本当に君を置いて逃げた仲間は許せない」
「普通だよ、こんな弱い勇者、囮になるぐらいしかできなかった」
眉を下げてぽつりとシリルは呟く。
「いいや、君は膝を着くまで強かったです、まあ、最後は我の腕の中でしたが」
アランは真っ直ぐにシリルを見た。シリルは頬を染める。
「お前、なんで討伐されそうになってるか分からないぐらい平和な魔王だよな」
「前時代の遺恨ですかな、色々あるのです、シリルくんはそこのところは」
「聞かされてないな、選ばれて呼ばれて放り投げられてそれだけ」
「あー、まじで許せん!シリルくん超幸せにする!」
ぐりぐりとシリルの背中にアランは顔を押し付ける。
「ありがとう、アラン、もう充分幸せだけどな」
シリルは本当に満足しているように幸せそうに笑う。
「シリルくんはもっと自分を大切にして!」
「うん、分かった」
「世界で一番、我にとっては大切で愛しい人なんだから!」
「お前あったかいよな、大好きだよ」
シリルは腰に回った手に自分の手を重ねる。
「もっと好きになってもらう!」
「まじ?これ以上とか想像できないな」
「世界で一番の男になる!」
「ふはっ、もう頂点じゃん!でも期待してる」
シリルは欠伸をして、目を閉じる。
「シリルくん?」
アランはシリルの顔を覗き込む。
「なんか眠くなってきた、なあ、子守唄歌ってくれよ」
「ここで?!」
「うん、お前の腕の中で眠りたい」
アランはシリルの言葉に真っ赤になった。シリルはうとうとと船を漕ぎ始める。
「わかった!我のとっておき聞かせちゃいます!」
「よろしく」
子守唄を聴いて、シリルは幸せな眠りに落ちていく。アランもまたシリルを抱きしめて幸せに浸る。
それから二人は、未来永劫、魔王領の皆に祝福されながら、幸せに暮らすのだった。
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