大阪へ行こう

「あらッ!あんた芸能人やろ!?顔見たらわかるで」
「やっぱり!?シュッとしてはると思たんよ」
「僕は漫画家だ。TVには出ていないよ」
大阪駅に着いた途端、数人の年配の女性に話しかけられた。
馴れ馴れしい態度だが、まぁこの土地ならではではあるだろう。
正直、鬱陶しいがこれもネタになるかもしれないと立ち止まってしまった。
思えばここで、立ち去ってしまった方が良かった。僕は後で後悔することになる。
僕に構わず、話は止まらないのだから。

「漫画家さんなん?勿体ないわぁ~。あんさん格好良いんやから、もっとTV出なさいな」
「初めて出るんやったら、【えみちゃんねる】がよろしいわ」
「それがえぇわ。上沼恵美子やったら、素人でも面白くまわしてくれはるわ」
「僕は忙しいんだ。ちょっと通してくれないか」
「あらあらごめんやで。お詫びに飴ちゃん渡したるわ」
「私も~ッ!」
いらない、と言うより先に僕のポケットに容赦なく飴をねじ込んでくる。
しかも、あれよあれよといわゆる「関西のおばちゃん」は集まり、軽口を叩きながらカバンから何かしらの個包装されたお菓子をねじ込んでくる。
「もういい!いらないからー」
くそっ。こんなことなら、最初に【年配の女性】なんて配慮した表し方をしなきゃあ良かった。
ふと視線をあげると、少し遠くで女性がこちらの様子を伺っていた。

どこかでみた顔だ。
しかし、どこで出会ったか。
僕が考えている間にも、ポケットはあふれんばかりのお菓子が詰め込まれ、入りきらないと分かるやいなや、カバンの中にまで容赦なく突っ込まれそうな時だった。
「岸辺露伴先生……ですよね。お久しぶりです」
先ほどの女性が話しかけてくる。
「君は-」
「なーんや、あんた人待ってたんかいな」
「ほんなら先に言ってーや。ごめんな姉ちゃん気が付かんで」
「いえ、お気になさらないで」
「まぁッ!あんさんも美人やなぁーッ!!」
「なんやもしかしてこの漫画家の彼女さんなん?」
「イヤァーッ!!スクープやスクープ!!」
「ほんなら若いのでごゆっくり~ッ!!」
「おいッ!!違うッ!!」
騒ぐだけ騒いで、あっさり【関西のおばちゃん】達は立ち去ってしまった。

「……助かったよ。さっきの誤解は解けそうになかったが」
「いえ。こちらこそ、人だかりが出来ていたので、少し気になってしまって」
彼女はそう言うと、改めて自己紹介をしてきた。

琴平 文音ことひら もねです。【おいくらですか】の原作者です」
「あぁ、そういえば週刊少年ジャンボの。新年会でお会いしたね」
「えぇ。それで、露伴先生は何故大阪に?」
「取材だよ。今度の読み切りで関西を舞台にしようと思ってね」
「あぁそれで。これから京都か神戸に?」
「?いや、今回は大阪だけだ」
「まぁ、それは失礼。露伴先生は京都か神戸のイメージがありましたから」
「とんだ偏見だな。だが、編集担当者泉 京香にもそう言われたよ」
そう言うと、彼女はくすくす笑った。

彼女はと言うと、大阪に住んでいてたまたま出掛けようとしたところ、僕に気が付いたようだった。
せっかくだから、とカフェに連れ込まれてしまっていた。
このような強引さも、土地柄故なのか。
「驚いたよ。君、方言出ないから」
「よく言われます。昔から漫画やアニメばっかりで。標準語の方が耳馴染みが良かったから」
「へぇーそれで」

彼女は僕の読み切り時代からファンだと言う。それが、同じ時代に作品を連載しているとは、夢にも思わなかった。
彼女は興奮して言っていたが、少しトーンダウンして
「昔は、漫画家を夢見てました。でも、小学生の時から絵が上達しなくて。気付いたんです。私には観察力が足りないんだって」
「そうかな?君の作品は小説も読んだけど、キャラの心情や情景が文字だけで表現されている。並大抵のことではないと思うけど」
「私の作品読んだんですか!?嬉しいけど恥ずかしいですね」
てへへ、と彼女は照れ臭そうに頭をかいたが、それだけでは彼女の自信にはならなかったようだ。

「小説の売上も、表紙を変えた途端に人気が出て。重版が決まったのも、その表紙のやつだけで」
「太宰治とかも、表紙を変えたら売れたとは聞いたことあるな」
「それですッ!!ジャケット買い、って言われるくらい、表紙って大事なんですッ!!中身よりもッ!!!!」
彼女のそう言って、少し涙した。
「そうかい。じゃあー」
奥まった席なのを良いことに、僕は天国への扉ヘブンズドアーを開く。

ひときわ大きく書かれていた文字は
「絵なら誰にでも分かりやすく伝えられるのに」
「言語の壁だって飛び越える力がある」
おまけに、自身の作品に関しては
「ストーリーは大したことない。絵がうまいから読んでくれる作品だ」

「……自分自身が一番のアンチのようだな」
確かに僕だっていつでも自信満々なわけじゃあない。
毎週のアンケート結果だって気にはなるし、
本当に読んでくれるのか、面白いと感じてくれるのか、そんな不安を抱えたまま、ペンを走らせる日もある。
それでも、それにしてもこの琴平 文音は自己肯定感が低すぎる。
僕は彼女に書き込んだ。

「今より少しだけ、自分の作品に自信がつく」

「……すみません、突然泣いてしまって」
「いや。僕だって不安になることはあるよ」
「露伴先生がッ!?そんな、有名になっても!?」
「……そんなに驚く?」

彼女と別れ、大阪をぶらつき、いく先々で【関西のおばちゃん】達からはお菓子を貰いまくり、握手を求められ、サインを何枚も書かされるはめにはなったが、それなりに観光を楽しんで帰路についた。

その後、彼女が原作を担当している「おいくらですか」は、アニメ化が決定した。
通貨を擬人化したこの作品は、彼女によって分かりやすく世界経済や、貿易関係が分かりやすく描かれている。
勉強に役立つと読者の声が大きかった作品だ。
アニメ化によって広く知れ渡り、コミックも重版に次ぐ重版。
そんな時だった。

「露伴先生~ッ!!琴平先生が、新作の小説を出すんですけど」
編集担当者泉 京香がズカズカ家にあがりながら話しかけてくる。
「だからッ!何回言えば分かるんだ君はッ!作業中だぞッ!!」
「琴平先生の最新作、表紙を露伴先生に描いて欲しいって!!」
はい、これゲラです。
編集担当者泉 京香は、僕にぐいぐいと押し付けてくる。
【関西のおばちゃん】達の既視感に納得し、
笑いを堪えて言った。

「で?頼まれたのは表紙だけなのか?」
「そうです。彼女、露伴先生のファンなんですって!!露伴先生に勇気付けられて書いた作品だから、ぜひとも描いて欲しいって!!挿し絵とかの要望も聞いたのですが、それが「忙しいだろうから、表紙だけでも描いてくれたら嬉しいです」ですって~!!はぁ~どこかの漫画家さんにもこの謙虚さ、見習って欲しいなぁ~ッ!!」
チラッチラッとこれみよがしに言ってくるが、
何故、この僕が他人から自信家だと思われるのか不思議で仕方がない。

「分かったよ。表紙だけなんだな。原稿は確認させてもらうよ」
「はぁーい。また直接打ち合わせ出来るように、日にち調整しますね。琴平先生、大阪だからなぁ~」
彼女は言うだけ言って、帰っていった。

「僕も負けてられないな」
再びペンを走らせた。

数日後。打ち合わせにきた彼女は、大阪で出会った時とは雰囲気が違っていた。
どうやら自分に自信が持てたらしい。
「表紙が露伴先生だから売れるでしょう。それでも、私は買った人を後悔させたくないんですッ!!露伴先生の表紙に負けないくらいの、作品が書けたと思ってます」
「気に入ったッ!!」

正直、僕の表紙で売れると思っているだけなら断るつもりだった。
いくら僕のファンだと言っても、自分の作品に対してこだわりがないと、芯がない。
芯のない作品の顔になりたくないからな。

だが渡された原稿は面白く、描き応えがある。
彼女の期待に応えよう。

僕は彼女の設定資料や、要望を確認しながら、再び大阪に行くのも悪くないな、と考えていた。
1/1ページ
    スキ