ディズニーへ行こう

「ったく、羨ましいぜ。俺ァよォ~!!」 
「何も泣くこたぁねーだろ億泰」
「どうしたの?」
僕は2人に声をかけた。
「それがよォ、あのカップル見て憶泰が泣き出しちまったんだ」
仗助君はそう言って、2人の男女を指差した。
ぶどうヶ丘高校で一番有名なカップルと言っても過言ではない、
2年C組の佐柳 湊と善通寺 早百合だ。
美男美女とだけあって、その存在は大きく、
僕らでも知ってるレベルの2人組だ。

「あ、そういえば。康一にも彼女が」
「なんかゴメン」
「仕方ねぇーよ憶泰。お前にもぴったりな相手見つかるって」
仗助君はそう言って、憶泰君を励ました。

それから数ヶ月経ったある日。
ぶどうヶ丘公園のベンチで泣いている善通寺 早百合を見かけた。
(どうしたんだろ)
「康一君じゃあないか。偶然だね」
後ろから声をかけられ、振り返ると岸辺露伴が立っていた。
「露伴先生ー」
「お、彼女、人目も憚らずに泣いているなァ。スケッチさせてもらおう」
「静かにさせてあげようよ先生ェー!!」
僕の制止をものともせず、すたすたとベンチに向かって歩いていく。
「もぉ~……」
仕方なく、僕も露伴先生の後を追いかけた。

「……どなた?」
「僕は岸辺露伴。漫画家さ。君をスケッチさせて欲しい」
「どうして?泣いているのに?」
「泣いているからさッ!!君の表情にはリアリティーがあるッ!!まるで好きだった人にこっぴどくフラれたようなね」
露伴先生の言葉に、彼女はますます表情を歪ませた。
「良いねぇ。すごく描きごたえがある」
「先生ェ~ッ!!人の気も知らないでッ!!失礼すぎますよォ~」
僕は声を荒げた。そして、ハタと気がついた。
「善通寺さん……もしかして、彼とは別れたのですか?」
彼女は泣きながら大きく頷いた。
「どうして!?あんなに仲が良かったのに」

「有名なのかい?」
「学校一の仲良しカップルだったんですよ」
「へぇー」
そう言って、岸辺露伴はスタンド〈天国への扉〉ヘブンズドアーで彼女を本にしてしまった。
「なっ……!」
「こういうのは本人に聞くより、直接読んだ方が早
い」
僕は、この岸辺露伴という男に人の心はあるのかと疑ってしまった。

「ふむふむ。善通寺 早百合。17歳。趣味はカフェ巡り……」
「読み上げないであげて下さいよォ~」
「むぅ」
露伴先生は黙ってパラパラとめくりだした。
良かった。僕は少し安堵した。

「おっ別れた原因が分かったぞ!!」
「……気になるので、僕も聞いて良いですか」
「端的に言えば、休日の過ごし方で喧嘩しているな。彼女は基本的に外へ出掛けに行くのが好きみたいだが、彼氏の……佐柳 湊はそうじゃあないらしい。旅行の話で大喧嘩になり、一方的に別れを告げられた。……なんだ、特に珍しい話じゃあないな」
露伴先生は突き放したように言った。
「大方、元々相性が良くなかったんだろう。人前でいちゃつく人間程、関係は冷めやすいからな」
……今度、憶泰君に教えてあげよう。

「君、旅行に行くつもりだったのかい?」
いつの間にか露伴先生は〈天国への扉〉ヘブンズドアーを解いていた。
「どうしてそれを?」
「手に持っているチケットさ。それ、ディズニーのチケットだろ」
「……そうです」
「もしかして、ケンカの原因って」
僕が彼女に尋ねると、彼女はこくりと頷いて答えた。
「彼の誕生日に内緒で連れていこうと思っていて。でも……。彼は家から出ない方が良いみたい。高校に入ってからすぐ彼と付き合うことになったから、一緒に行ってくれるお友達もいないし」
そういって彼女はまた涙を浮かべる。

「じゃあ、露伴先生と一緒に行けば?」
なんとなしに言葉が口をついて出た。
「どうして僕がディズニーなんかに行かなくちゃあならないんだ」
「そりゃあ、僕には由花子さんがいるし……。露伴先生、その子をスケッチしようとしたでしょ。スケッチしてもらう代わりに行けば良いんじゃあないでしょうか」
そこで僕はハッとした。
「……善通寺さんには……露伴先生にスケッチされちゃうことになりますケド……」
善通寺さんは少し考えて言った。
「…………良いわ。チケット余っちゃう方がもったいないもの」
露伴先生には「余計なこと言いやがって」という目で睨まれたが、
「露伴先生、この前カフェで担当編集者泉 京香に女の子が可愛くないって言われてたじゃあないですか」
「康一君ッ!あの話聞いてたのかッ!!」
はぁーとため息をついたあと、露伴先生は言った。

「分かったよッ!日時は決まっているのかい?」
「今度の日曜日よ。8時に杜王駅」
彼女はそういって、足早に去っていってしまった。

「僕が土日休みにする漫画家なことに感謝して欲しいね」
「良かったじゃあないですか。漫画のネタにもなりそうで」
「君、どこぞの担当編集者泉 京香みたいな言うんだな」
「じゃ、僕はこれから塾なんで」
これ以上何か言われる前に、僕はそそくさと露伴先生から離れた。

翌日、いつもの2人に昨日の事の顛末を伝えた。
「えぇ!?あの露伴が!?」
「そうなんだよ。意外とすんなりいっちゃって」
「おいおいおいおい。あの偏屈家な露伴だぞ?女の子とデートって、大丈夫なのかァ~?」
「そこは僕もちょっぴり心配なんだよね。言い出しっぺが言うのもなんだけど」
「おい億泰。面白そーだから、俺らもついていこうぜ~。億泰?」
僕らが静かに背を向けた億泰君を見ると、静かに泣いていた。
「あー……やっぱりやめだ。こいつ、露伴のデートなんか見た日にゃあ、何するかわかんねぇーよ」
仗助君と僕で必死に励ました。

くそっ。何でこんなことに。
日曜日の午前8時。約束通りに岸辺露伴は杜王駅にいた。
〈天国への扉〉ヘブンズドアーにも、「朝早く活動するのが好き。昼過ぎに起きてしまうとその日1日が終わってしまった気になる」と書かれてはいたが、そういうところだろうなぁ。と毒づいていると、駅に向かってくる彼女を見つけた。
先日出会った制服とは違い、白いワンピースだ。

「お待たせしました。待たせてしまってごめんなさい」
「いや。時間ぴったりだ。君、担当編集者泉 京香より、編集者に向いているよ」
善通寺 早百合はその言葉にきょとんとした。
「で、何時の電車なんだ」
「8時17分発の新幹線です」
「そう」
「湊君ったらいつも少し遅刻してくるから、露伴さんにも早めにお伝えしてしまっていて」
「成る程ね」
電車自体はホームに着いていたため、会話もそこそこに席に着く。
「あ、お菓子持ってきたんです。食べます?」
カバンの中からグミとじゃがりこを出してきた。
「いや、良いよ」
「そうですか」
新幹線で東京までおよそ2時間といったところか。
善通寺はカバンからディズニーの特集雑誌を取り出す。
「私絶叫系苦手で。船とか、ショーだけは見たいんです。露伴先生は何か希望はあります?」
「興味ないね。君をスケッチ出来れば、どこでも良いよ」
「そうですか」
新幹線が動き出す。彼女の持ってきた特集雑誌には、パレードが始まる時間と、ショーの時間をふせんに書いてページに挟んでいた。
(几帳面な性格だな)
露伴が考えている間にも、彼女は地図と目当てのショーの時間を眺めていた。

「ピンクダークの少年、あれから全巻読みました。面白いです」
「そうかい。それはどうも」
「私あんまり少年マンガって読んできてないんですけど、夢中になって読んでいたら朝を迎えたこともあって。久々です、あんなに何かに集中したこと」
〈天国への扉〉ヘブンズドアーには、確か読書好きと書かれていた。
休日はカフェでゆっくり本の世界に浸るのが好きだと。
そして、ここ数年は彼に夢中で、めっきり読めていないことも。

「マンガ自体あまり読まないんです。文章の方が頭に入りやすくて。だから露伴さんに初めて会った時も存じ上げなくて。有名な漫画家とディズニー行って、週刊誌が騒いじゃうんじゃないですか?」
「いや、僕はアイドルなんかじゃあないんだ。パパラッチなんか来るわけないだろ」
「そうですかねぇ」
その後もたわいない会話を続けていくうちに、
ディズニーにたどり着いた。

「そういえば、ランドとシーがあるだろ。どっちに行くんだい?」
「シーです。ランドはどちらかというと絶叫が多くて。湊君も苦手そうだったから、シーにしたんです」
「ふぅーん」
「あ!早速このショーのファストパス取りに行きましょう!!こちらです!!」
地図を頭に叩き込んでいるのか、足早にどこかへ向かっていく。
彼女が取ったファストパスは、マーメイド・ラグーンシアター。
「これだけは絶対に見ようって決めてたんです」
そう言って彼女は嬉しそうに笑う。
「ショーまで時間はありますし。ゴンドラに乗りましょう!!」
「ゴンドラァ?イタリアの?」
そういえば、と見渡してみると町並みがどことなくイタリアっぽい。
特に入口からは北南部のポルトフィーノに似ていた。
ゴンドラ乗り場に近付くにつれて、ヴェネチアっぽい、川沿いが特徴の町並みに移り変わっていく。
「……ショボすぎる」
「えぇー!?綺麗な町並じゃあないですか」
「君、本物見たことないだろう」
「写真でしか見たことはないですけれど。もしかして、行ったことあるんですかぁ!?」
「取材でね。ほら見ろ、あっちの建物なんかハリボテじゃあないか」
「何てこと言うんですかぁ!」
「まぁ、テーマパークにしてはよくやってるよ。ゴンドラも待ち時間があるんだろう。写真撮ってあげるよ」
「……スケッチじゃあなくて良いんですか?」
「時間かかるだろ」
彼女は僕のカメラに向かってポーズを取る。
そうこうしている間に、ゴンドラの順番がまわってきたようだ。

「ここは、[願いの橋]と言われています。橋を通り抜ける時には、ぜひ願い事を思い浮かべながら目を閉じて下さい」
キャストの言葉に、彼女は両手を組んで真剣な顔で何かを願っていた。
(イタリアではそんな橋はなかったな)と露伴が考えている間に橋の下を船は通り抜けていく。
「皆さんの願いが叶いますように」
キャストの言葉で各々目を開けていく。
律儀な人達だ、と露伴は思った。

「意外と短かったですね。待ち時間もそんなになかったですし」
彼女はファストパスに刻まれた時間と、時計を見比べる。
「次はこれに乗りましょう![海底二万マイル]ッ!」
「アトラクションみたいだけど」
「これ、そんなに激しい動きはしないらしいので。並びましょう」
待っている間、世界観についての説明があった。
ストーリー自体は至ってシンプルだ。
探検隊としてこれから小さな潜水艦に乗り込み、未知の生物を調査せよ、とのこと。
「……思ったより小さいですね」
「他の客もいないな。ここ、人気ないんじゃあないの?」
「待ち時間の短さにひかれて選んでしまいましたが、ちょっとヤバそう……」
「動きは少ないと思うが-」
そう言った直後、何かが船にぶつかったような衝撃があり、潜水艦内に突如アナウンスが鳴り響く。
「船が故障したッ!!このままでは沈んでしまう……!」
ストーリーが始まった。
「キャーッ!!どうしましょう露伴さんッ!!」
「アトラクションのストーリーだ。実際に沈むわけないよ」
彼女を落ち着かせようと背中をさするが、どんどん息が荒くなっていく。完全にパニック状態だ。
「……仕方ないな」
〈天国への扉〉ヘブンズドアーで彼女を本にする。
そこには軽度の閉所恐怖症と書かれていた。
確かに船は狭いが、ストーリーもあいまって彼女には向いていなかったらしい。
(このままアトラクションが終わるまで本にしておこう)
彼女の記憶には、海底二万マイルに乗ろうとしたが、狭いので断念したと書き換えておいた。
「せっかく並んだのに……残念です」
「……そうだね」
「うぅ……って、言ってる間にショーの時間ッ!!移動しましょう!!」
一番楽しみにしていたのもあって、先程とはうってかわってルンルンと歩き出した。

「海の中って設定なんですけど、入口のトリトン王が私達に魔法をかけて酸素を吸えるようになってるんですって」
「へぇーそういうの、ちゃんとしてんだね」
石像のトリトン王の前を他の客は素通りしていく中、彼女はにこやかに言った。

ショー自体は中央のアリエル意外、映像を鏡のような形のものに映し出されてる。
(まぁ、そんなもんか)
ステージの規模や人件費が頭にちらつく。
彼女が隣でキラキラと目を輝かせてステージを見つめている。
無粋なことは言わないでおこう。

その後は潜水艦の代わりにと蒸気船に乗ったり、
シンドバットの船に乗ったりした。
同じ船でも、狭くなければ大丈夫らしい。
ディズニーシーと言うだけあって、水関連のアトラクションが多い。
中でも、ガリオン船内のチェインバー・オブ・プラネットが気に入ったらしく、1日の大半はここにいたんじゃあないかという程だった。
正直、ショーより楽しそうに彼女は船内を歩き回り、ハンドルや大砲を触っていた。

気がつけば、夕日が町を照らしている。
「今日は一日ありがとうございました」
「いや、こちらこそ写真も沢山撮れたよ」
今度、現像して渡そう。
僕が言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

最初はちゃちな造りだと思っていたが、
キャストの世界観を保つための徹底した言葉選び、
詳細な設定。僕のマンガへの考えに似ているものがあるな、と帰る頃には感じていた。
新幹線に揺られる中、彼女は疲れたのか隣でスヤスヤと眠っていた。

「露伴先生ーッ!!今週の原稿、女の子めっちゃ可愛いじゃないですか~ッ!!」
「そうかい、それは良かった。……何で勝手に家にあがってくるかナァ!?」
僕はに担当編集者泉 京香に怒鳴ったが、意に介さず彼女は続ける。
「特にこのコマの笑顔、めっちゃ良い表情してますよねェ~ッ!!あ、もしかしてこの子ですか!?」
「僕の机を勝手に見るな、触るな」
担当編集者泉 京香が手に取ったのは、善通寺 早百合の写真。
見返してみれば、どの写真の彼女も、笑顔でいる。
「きっと今週のアンケートも評判良くなりますよォ~!!」
嵐のようには担当編集者泉 京香去っていった。

「おーい康一ィ!!今週のピンクダークの少年、読んだ!?」
声がする方を振り向くと、間田先輩がジャンプ片手に歩いてくる。
「このさゆらって子、可愛いんだよ。露伴先生のことだし、誰かモデルにしてんのかなァ~」
「さぁ……誰でしょうね」
僕は悟られないように言葉を濁すのに必死だった。
絶対会ったらちょーっとだけからかおうと思っていたのに、後日週刊誌にディズニーに行く露伴先生が載ってしまい、世間がざわついてしまうのは、この時の僕は知らなかった。

今日は現像してもらったあの日の写真を貰いに行く日。
いつもより気合いを入れて、可愛いワンピースに袖を通す。
その道中、不思議な店を見つけた。
「愛と出会うメイク致します」
「……待ち合わせまで時間あるし、ちょっと行ってみようかな」
善通寺 早百合は物は試しと店に入っていった。
[願いの橋]で、露伴さんと付き合えますように、そう願ったのだった
「叶うと良いなぁ」
1/1ページ
    スキ