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終わりから始まった恋


イッキに嫌がらせについて全てを話してから数日後、リカさんを含めたFCの幹部と私とイッキで、話し合いの場がもたれた。
その前にイッキはリカさんと2人で話をして、FCの内情についてしっかりと調査したらしい。
リカさんはこれ以上隠しきれないと思ったのか、正直に明かしてくれたらしかった。
その内容についてもイッキは私に知らせてくれた。

「え、なんでこいつがいるの……」

入ってきた女の子が恨めしい目で私を見る。
私がいることを聞いていなかったのだろうか。

「……大丈夫」

イッキが私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
くすぐったかったけれど、それだけで身体中の緊張が和らいだ気がした。
やがて他の女の子たちも揃って、早速イッキが話を切り出した。

「君たちが彼女にしたこと、これまでの僕の恋人にしたこと、全部わかってるから。全部自白するなら、それなりの対応を考えるよ。選んで」

イッキは証拠写真や資料を裏返しにしてテーブルに置く。
これまでにないイッキの雰囲気にリカさんは青い顔をしていて、他の女の子たちも肩を震わせながらリカさんをチラチラと見ている。

「い、イッキぃ……」

1人の女の子が甘えるような声を出すが、その声は震えている。

「そ、そその子に何か言われたの……?」

「……」

イッキは冷ややかな目で女の子を見ている。
いつものように返事をしてもらえなかったのがショックだったのか、女の子は俯いて話さなくなってしまった。

「……君たちは、僕と付き合い始めた頃に彼女の家の郵便受けに、ゴミを入れたよね」

イッキはスマホに入れていたらしい、証拠動画を流してみせる。

「「「!!」」」

イッキに場の空気が冷えた。

「……申し訳ありません」

リカさんが先陣を切って謝った。
それを切り口に、リカさんが次々に行った嫌がらせについて告白していく。

「……以上が、わたくしたちが行った嫌がらせの全貌ですわ」

「……それから、イッキとのデート中に彼女の髪を切ろうとしました」

女の子が不意に口を開き、リカさんがバッとその子を振り返った。
たぶんそれは、イッキと映画を見に行ったこの間のことだろう。
あの時はすれ違い様に悪口を言われただけだったが、本当の目的はそっちだったのか。
逃げていて良かったと思うと同時に、あまりの悪意の大きさに手が震える。

「申し訳ありません……。わたくしの監督不行届きですわ」

リカさんの様子を見るに、それは完全に彼女たちの独断だったようだ。
何の対処もせずにいたら、リカさんが私に話をしにきてくれなかったら、今頃何が起こっていただろうか。
イッキが震える私の手を握る。
その大きな手に、とても安心感を覚えた。

「……そう。もうわかると思うけど、僕はこれからも彼女と付き合う。3ヶ月経っても別れない」

「……はい」

「これ以上、彼女に手を出したら誰であっても許さない」

「……はい。二度と手出しはいたしません。わたくしたちは解散いたしますわ」

組織として集っているから、団結が生まれやすく、そう言った嫌がらせも大掛かりに進めやすい。
この件を片付けるのにFCの解散というのは妥当かもしれない。

「え……イッキ、もう私たちと会ってくれないの……?」

女の子たちの表情に絶望の色が見える。
彼女たちにとってはイッキと会えることが生きがいだろうから、それを奪われたら死ぬほどきついだろう。
でもイッキも、復讐がしたいわけではないだろうし。

「………………彼女が最優先。邪魔したら二度と会わない。その条件でなら、これからも会ってもいいよ」

イッキは少しの沈黙の後、そう告げた。
彼女たちは歓喜し、リカさんだけが重苦しい空気が抜けない。

「それでも十分だよ……!」

「……お気遣いいただき、ありがとうございます。皆救われますわ」

「許したわけじゃないよ。……好意自体はありがたいと思ってるから」

「承知しておりますわ。……イッキ様のその優しさに、わたくしたちは甘えすぎたのですね」

FCはリカさんに引き連れられて、その場を去っていく。

「……ごめんね、絶対会わないって言った方がよかった?」

弱々しい声に、私は首を振った。

「ううん。突き放しすぎるのも良くないと思うし、良い対処だと思う」

「ありがとう……。彼女たちも、僕の『目』の被害者だから」

「うん。心配しなくてもイッキが突き放し切れないのはわかってたし、結果として丸く収まってるから大丈夫だよ」

私は泣きそうな顔をしているイッキの頭を撫でた。
私が不安だった時に慰めてくれたから、今度は私の番だ。

「よしよし。ありがとう。守ってくれて、ちゃんと話をしてくれて」

「……今までごめん」

頭を撫でていた私の手をイッキが握る。
するりと指を絡ませ、強い意志の宿った目が向けられた。

「これからは、僕が守る。守ってみせるから」

「……うん。大好きだよ」

「僕も大好き」

イッキが私の腰を引き寄せ、頬に手を添える。
目を閉じれば、唇に柔らかいものがチュッと触れる。

「帰ろうか」

「うん」

イッキと手を繋ぎ、歩く足取りは軽い。
今までずっと気を張っていたけど、これからはもう気にしなくていいんだ。
そう思うと、肩の荷が降りた気がした。

「……あれ?私の家、あっち……」

「そうだね」

心なしか、イッキの声が弾んでいる。

「え?あの、」

イッキはニコニコしたまま、手を離さない。
手を引かれるままついて行くと、マンションの前で止まった。

「ここって、」

「うん。僕の家」

「っ!」

思わず一歩後ずさる。
その姿を見て、イッキはクスッと笑った。

「別に無理やり迫ったりしないから安心して」

言われるままに手を引かれて、私はイッキの家に足を踏み入れた。
期限つきだから体の関係は拒否してたけど、もう拒否する理由はないし、私も、嫌なわけではない。

「適当に座ってて。コーヒーでいい?」

「あっ、うん。ありがとう」

適当に、と言われても落ち着かない。
バッグを持ったままローテーブルの周りをクルクル歩き回る。

「ど、どこに……」

キョロキョロして、結局座れずにいると、イッキがコーヒーを淹れて戻ってきてしまった。

「ふふ、座らないの?」

「座るっ、座ります、」

そうだ。私が座らないと、イッキがコーヒーを机に置けないんだ。
結果として、私は部屋の奥の方に正座した。
イッキは私の隣に座って、コーヒーを差し出してくれる。

「どうぞ」

「ありがとう」

もらったコーヒーを一口飲んで、そっと机の上に置いた。
コトッという音がやけに大きく感じた。

「……」

どうしていたらいいかわからなくて、服の裾を触ってみたり、手遊びをし始めてしまう。

「……あー、今までこんなことなかったのにな」

「……イッキ?」

「ねえ、」

イッキが不意に私の手を握る。
びくんと肩が跳ねてしまった。

「かわいい」

イッキが私の手にちゅっと軽くキスをする。
指先にまで熱が集まっていく感覚があって、身体中から湯気が出そうだ。

「#名前#、」

イッキが首筋にキスを落とす。

「ひっ」

バッと口を手で覆った。
心臓は破裂しそうなくらい脈打っているし、体は熱いし、何だかめまいもしてきたような気がする。
私今、変な声出たよね??

「隠さないで」

口を覆った手に、イッキがまたキスをする。
びくっとして力が抜けた手を、イッキはいとも簡単に解いてしまう。
力がこもりかけた私の手に、イッキが指を絡ませ、私の力は遮られてしまった。

「#名前#の声、聞きたい」

イッキの目が熱を帯びていることに、恥じらいを覚える。
このまま全部、暴かれてしまうのだろう。
イッキが私の腰を強く引き寄せ、キスがどんどん深くなる。
そのまま軽々と抱き上げて、体がベッドに沈む。
イッキに、両手を塞がれてしまう。

「ぃ、やっ」

心臓は破裂しそうなほど脈打っていてうるさいし、声も息も、何もかもが曝け出されていく。
私の声に、イッキはピタリと動きを止め、勢いよく体を起こした。

「ごめん、何か、嫌だった?」

「……」

イッキは初めてじゃないはずなのに、まるで初めてみたいな反応。
私の様子を伺って、壊れ物を扱うみたいに優しくて、私が嫌なことは絶対しない、いつものイッキ。

「……ふふ」

イッキの手の大きさとか、力の強さとか、改めて感じてしまって、少し別人のように思っていたけど……。
今、私に触れて、キスをして、優しい目で見つめてくるのは紛れもなくいつものイッキだ。

「何笑ってるの、もう」

「ふふ、ごめん」

今度は私がイッキを抱きしめる。

「ごめんね、ちょっとびっくりしただけだよ」

イッキの手が背に回る。

「よかった。……ごめん、僕もなんか、余裕なくて」

体が密着すると、イッキの鼓動も伝わってくる。

「……かっこ悪いよね」

「かっこいいイッキも、かっこ悪いイッキも、全部大好きだよ!」

互いの顔を見つめ合って、次第に唇が近づいていく。
触れるだけのキスから、どんどん深くなり、そのまま再びベッドに押し倒される。

「愛してるよ、#名前#」
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