第二部(現代)
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「すみませんでした!!!!!!!」
翌日の剣道場に、男子高校生たちの謝罪が鳴り響いた。
あれから斎藤に事の顛末とこれまでの家庭での話をしたところ、土方先生たちにも相談して、お叱りが入ったのだ。
彼らに悪気がないことは確かだったので、私は笑って受け流すのが適切だろう。
「あー、うん。いいのよ、わかってくれたなら」
「男子校のノリのままで……」
「あんな突っ掛かられたら誰でも嫌っすよね……」
私の家庭事情などは当然公表されず、共学になったのだから少しは自重しろ、と言われたらしい。
「まあ、圧がね……」
「おい、早速取り囲もうとするな」
謝罪しながら次々寄ってくる部員たちを斎藤が間に入って牽制してくれる。
「はっ!失礼しました!!」
「練習に戻れ」
「悪かったよ」
斎藤に言われてみんなが散っていく。
ふう、と胸を撫で下ろしていると、斎藤が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か?」
「ええ。これくらいなんてことないわ」
「それならいいが……。今日は一緒に帰れるだろうか?」
「もちろんよ。教室で待っているわね」
「ああ。部活が終わったらすぐに向かう」
私は学習して、もう剣道場で部活が終わるのを待つのはやめた。
そもそも、教室にいた時に竹内とひと悶着あったせいで、斎藤が心配して剣道場で待つように勧めてくれたのだ。
竹内はもう手を出してこないはずだし、何かあれば頼るようにと永倉先生がこっそり連絡先を渡してくれた。
そういう頼もしいところ、前世から変わってないなと思う。
「さて、明日の予習でもしておこうかしら」
私がノートを広げていると、誰かが教室に入ってくる。
「!」
一瞬にして身構えてしまう。
竹内だった。
「あれ、今日はこっちに残ってるの?……そんなに怯えないでよ。俺、人の恋人に手を出すほど飢えてないから」
「……そう」
竹内は自分の荷物を取っても、まだ出ていこうとしない。
時折こちらを見ながら、やけにそわそわしている。
「あの、何か?」
「いや、その……。この間はごめん」
「……え?」
「ずっと斎藤が傍にいたから謝るの遅くなっちゃったけど。その、君のボタンに手をかけた時ちょっとだけ見えちゃって」
竹内は気まずそうに目を逸らす。
おそらく傷痕のことを言っているのだろう。
「君に対してあの迫り方は良くなかったよね」
「……はあ。何を言うかと思えば。私でなくても、あの迫り方はダメよ」
「……ごめん」
本当に反省しているようだ。
「悪意しか感じなかったから、あなたのことは許さないけれど。今後は二度とあんな迫り方をしてはダメよ」
「うん……」
「今までの女の子はそれで落とせたと思っているのかもしれないけれど、たぶんその子たちはあなたに迫られる前から好きだったのね」
「あー……」
思い当たる節があるようで、竹内は気まずいのか、顔が引きつっている。
「でしょう?これからは絶対に無理やりな迫り方はしないでね」
「わかったよ……。本当にごめん」
「わかればいいのよ。許さないけれどね」
だよね、と竹内は苦笑いをする。
たぶん竹内は周りの環境から、私にしたような口説き方を身につけてしまったのだろう。
こうしてきちんと謝って反省しているあたり、根は別に悪い奴ではないのかもしれない。
「それじゃあ、斎藤に見つかる前に退散するよ」
「ええ、そうした方がいいわね」
竹内はもう一度私に頭を下げて、少し逃げるように教室を出て行った。
それから少ししてから斎藤が入ってくる。
「すまない、待たせてしまった」
「ううん、そんなに待ってないわ」
「先ほど昇降口で竹内と会ったが、何もなかったか?」
「ああ、本当に入れ違いになったのね」
「!」
私の言葉に斎藤が眼光を鋭くさせる。
「ああ、違うの。何もないわよ。ただあの日のことを謝ってくれただけ」
「……そうか。あんたは何て答えたんだ?」
「許さないけれど、もうあんな迫り方はしちゃダメよって」
「あんたらしいな」
斎藤は表情を綻ばせる。
「二度と、あんたにあんな思いはさせない。俺に守らせてくれ」
前世の記憶を思い出した斎藤は、私が斎藤を庇って死んだことも思い出している。
そのせいか、今まで以上に過保護になった気がした。
「いいえ。お互いに守り合えるように、私も強くなるわ。……だから、今世でも最期まで一緒に生きてね」
今世こそ、最期の時まで、斎藤と一緒に。
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