ハッピーエンドにたどりつくまで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日報が届いたらまたメールするように言ったら、夜にメールが届くことはなくなった。
そして指示通り、というか解釈してほしい通りに、FCの子達は最近やたらとイッキ様に近寄っているようだ。
私は最近それを注意していない。
今彼女達の欲求を押さえつけすぎると、かえって本当に言うことを聞いてほしい時に聞いてもらえなくなるから。
「今日は花火大会……」
スケジュール帳の文字を指でなぞる。
一段と2人が邪魔される時だ。
今日の目標は、2人に無事花火を見せてあげること。
でもFCの不満も溜まってきているから、会場までは行かせられない。
原作通り、穴場のスポットから見られれば成功。
ただ、これにはノアの協力も不可欠。
彼女が信頼度が下がる選択をしてしまったら、アウトだ。
「ひとまず、夜までに今後のことを考えておかないと……」
私はその日、FC会議で使う資料を過去の資料を参考にしながら作成した。
「そろそろね」
少し暖かい格好をして、私はノアの家に向かった。
「「イッキぃ〜!」」
うるさい。夜なのに……。
思ったけれど、声には出さなかった。
おでこにチューのくだりまで、"リカ"は出ていけない。
「じゃあ〜、おでこにチュッてしてくれたら〜」
その一言で、FC会員達は揉め始める。
私も、私も、と。
マンションの入り口を見ると、彼女がもう出てきてしまっている。
よし、予定通り。
「まあ、それくらいなら……」
相変わらず、イッキ様は愛がわかりづらい。
そんなことを彼女の前でやってしまっては、最悪だ。
「皆さん、少しお待ちになって」
「!」
一気に全員の視線が集中する。
間違えないように、噛まないように。
「……リカ」
「あまりイッキ様を困らせてはいけませんわ」
イッキ様とFC会員の間に入る。
「すっかり時間も遅くなりましたし、今日はそろそろお別れした方がよろしいのではなくて?」
会員達は”リカ”の言葉に、気まずそうに目を逸らす。
「あの方も、出てきてしまわれたようですし」
待ちくたびれて、とは言わなかった。
少しでも悪い印象は取り除きたい。
「え、」
「……来てたの。部屋で待っててって言ったのに」
「困った方ですわねえ。イッキ様にもお付き合いがありますのに」
今はまだ。
そう付け足したい気持ちをグッとこらえた。
彼女は今、記憶を失くしているのだから仕方ない。
”リカ”は彼女の前に立つ。
「ねえ、あなた。あなたはイッキ様のお呼びがあるまで、大人しく待っているべきではなくって?そういうお約束だったんでしょう?」
待たせたのは悪かったけど、なんで言った通りにしてくれないの?
「……待たせたのは悪かったけど、なんで言った通りにしてくれないの?」
部屋で待っててって言ったよね
「部屋で待っててって言ったよね」
完璧。
ここまで完全に原作と一致している!
あとは、彼女が、ごめんなさいと───。
「……イッキさんなんか、嫌いです」
な、
「へえ、そう……」
「あなた、イッキ様に向かってなんてこと……!」
なんでその選択!?!?
こう言わなきゃいけなくなるじゃないの!!!
「いいよ、リカ。待たせた僕が悪いんだから」
良くない。全然良くない。
今のは確実にFCの子達にも聞かれてしまっているし、このままではバッドエンドまっしぐら。
「……はい。じゃあそういうことで彼女も来たからもう解散。また明日ね」
「え〜?」
「しょうがないなあ」
「また明日ねぇ〜」
「イッキ様、少し距離がありますが坂の上のビルが開いております。あそこの屋上でしたら今からでも花火を楽しめますわ」
FCの子達に気づかれないように、小声で伝える。
「ありがとう、リカ」
改めてイッキ様に一礼し、私はその場を去った。
FCの子達を駅まで送って、来た道を急いで引き返した。
花火を見て、帰ってきたところに遭遇しないといけないから。
そのためにも、花火を見に行ってもらわないと。
「──、──」
2人はまだマンション下で話しているようだった。
建物の陰から見守る。
イッキ様、嫌いと言われて嫌な気持ちになったかもしれないですが、ここが踏ん張り時。
花火イベントは絶対に逃してはいけません!!
「─、──!」
イッキ様がノアの手を取って走り出す。
よし!
私は心の中でガッツポーズをした。
あとは、2人がゆっくり花火を楽しんで帰ってくる頃に戻ってきたらいいだけ。
一気に肩の荷が下りたようで、少し気が緩んだ。
ひとまずここと、あと合宿のスチルを回収しておけばだいたい何とかなる。
私も建物の隙間から小さな花火を見て、ほっと息をつく。
「少し、冷えますわね……」
近くの自販機でホットコーヒーを買う。
1人で花火を見るのも、なかなかいいのかな。
本当は、”いい人”と見れたらよかったかもしれないけど。
「そろそろ……」
私は近くの缶入れに空き缶を入れて、ノアの家に引き返す。
「!……リカ。まだいたの……?」
「ええ。もう一度だけ、お顔を拝見したかったものですから」
当然ながら、イッキ様は訝しげな顔をする。
が、他のFCの子達でなくてよかったと安堵している。
「結局、花火は見に行かれたんですのね。その方と」
「まあね。リカが教えてくれたところだけど」
「間に合われたのですね」
よかった、とは言えない。FCの会長だし。
「リカ、家は同じ方向だったよね。一緒に帰る?」
「よろしいのかしら。その方が嫌だとおっしゃらないなら、ぜひお願いしますわ」
チラリ、とノアを見る。
今度こそ、正しい選択をしてほしい。
「……どうぞ」
少し不満げな顔だけど、今度は適切な選択だ。
「まあ、ご寛容なこと。それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ」
「じゃ、行こうかリカ」
彼女のこと、本気でまだ好きなのか確認しようか。
それとも、FCの動向を探るためにも、困り事がないか聞いてみようか。
「……」
どれを聞いても、”リカ”としてはダメな気がした。
「こちらで大丈夫ですわ。わざわざありがとうございます、イッキ様」
「いや、もう遅いしね。……ねえ、どうしてリカは、」
「?」
「ううん、何でもない」
「そうですか。イッキ様も、お気をつけてお帰りくださいませ」
「ありがとう」
私はイッキ様の背中が見えなくなるまで、外で見送った。