ハッピーエンドにたどりつくまで
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長い夢を見ている。
私がリカ姉様に憑依して、ヒロインをハッピーエンドに導く夢。
少しでもFCからの被害を抑えて、イッキ様と親密になれるように促して、最後はFCを解体して。
彼女たち2人が幸せになる夢。
リカ姉様はそれを見て、少し安堵していて。
それは私の気持ちだったのか、リカ姉様の気持ちだったのか。
わからないけれど、笑顔のイッキ様を見て、ほっと息をついた。
────────────────────
「!!」
ハッと目が覚める。
目が、覚めたのだろうか。
視界には、白い天井が広がっている。
「ここは……」
ガタッと音がする。
音の方に首を動かそうとすると、激しい痛みが走った。
「っ!」
「リカ!」
ぼやけた視界には、ルカの顔がある。
「すぐ医者を呼ぶから、」
ルカは慌ててナースコールを押したようだった。
それからすぐ後に主治医らしい先生が来ていくつか質問をされた後、ルカと一緒に外へ出て行った。
「夢じゃ、なかったのね……」
私がリカ姉様に憑依したことは現実だったようだ。
崖から落ちたことも、この首の痛みも、とても鮮明に感じている。
「リカ、ああ愛しい我が妹。目を覚ましてくれてよかった……!」
「お兄様……」
「崖から落ちたと聞いた時は、本当に……」
「ご心配を、おかけしましたわ」
「いや、いいんだ。目を覚ましてくれただけで……」
「わたくしは、どれほど眠って……?」
「2週間……、2週間だよ。気が遠くなるほど長かった」
「……お兄様……」
その翌日、私が目を覚ましたとの知らせを受けて、イッキ様がお見舞いに来てくれた。
……あの子の一緒に。
「リカ、本当によかった……」
「リカさん……」
彼女の瞳には光が戻っており、記憶が元通りになっていることは明白だった。
もう8月終盤。それでも一緒にいるということは、上手くいったのだろうか。
崖から落ちる前に色々と話したのが良かったのかもしれない。
「お二人は、今も?」
2人は顔を見合わせる。
彼女は少し顔を赤らめて俯き、イッキ様は自信満々に頷く。
「そうですの……。FCはどうしています?」
「ああ……そのことなんだけど」
それからイッキ様は少し考えながら、言葉を選んでFCの話をしてくれた。
リカが眠ってから、ノアが思い出した記憶を元にFCの子たちを糾弾したこと。
リカが頼りにならない状況で糾弾されたことで、ノアに反発したFCからの嫌がらせは激化。
さらにイッキ様と会えなくなったことで、より容赦がなくなったらしい。
「そのようなことが……」
ただ、そうした嫌がらせからノアを守ることで、2人の絆は深まったようだ。
イッキ様はもうFCの機嫌を取らなくなり、今は疎遠になっているという。
「申し訳ありません。わたくしの監督不行き届きですわ……」
「リカのせいじゃないよ。初めはリカのことも疑っていた……彼女の話もあったし」
たぶん、彼女が思い出した記憶の中にいた私のことだろう。
「でもシンが、ちゃんと調べた方がいいって声をかけてくれて」
「シン様が……?」
「リカはFCの子たちのストッパーとして裏で手を回していることがあったって」
「そんなことを……」
あの日目撃されていたおかげで、こうしてリカとイッキ様たちとの話し合いの場が持たれているということか。
助けられてしまったな。
「今はむしろリカに感謝してるんだ」
「感謝、ですか?」
「リカさんが私を庇ってくださったこと、イッキさんにお話ししたんです」
どうやら、私が彼女を庇ったことで、あの日森で行われようとしていた脅しは、単なる事故と捉えられたらしい。
FCの企みとは別に。
「……嫌がらせに加担していた時点で、感謝をされるようなことではありませんわ」
それに、リカだけが良く思われているこの状況は、あまり良くない。
全員が等しく糾弾され、謝罪し、良好な関係を築けることが大事だ。
「一度、FCの子たちを呼んで皆でお話し合いをいたしましょう」
それまでは会いに来ないよう言い含め、私はFCの上位会員と連絡をとった。
翌日、すぐにFCは集まった。
病院ということもあり上位の数名だけだけれど。
「リカさん〜〜〜〜!!」
「お怪我はもう大丈夫なんですかぁ〜!?」
「私たち、もうどうしていいかわからなくてぇ……」
「あなたたちにも、ご心配をおかけしてしまいましたわね」
それから彼女たちから、どのような嫌がらせを行なったのか確認をした。
「……皆さん、FCとしての自覚が足りないのではなくて?」
「!」
「わたくしたちはイッキ様をお慕い申し上げているのです。直接的ではないとしても、イッキ様を傷つけてどうなさるのですか!」
「リカさん……」
「皆さんに指示を出す際、わたくしはいつも申し上げていたはずです。イッキ様に悟られることのないようにと」
「あ……」
「イッキ様が後日、わたくしたちとのお話し合いの場を設けてくださいます。わたくしの病室で行いますわ」
ルカの手配のおかげで個室だし、病院だから大声は出せない。
ここがたぶん、落ち着いて話せる最適の場所だ。
「……皆さん、覚悟して臨みましょう」
「……はい……」
それからイッキ様との話し合いまでの数日間、ルカの手も借りながらFCの内情について調べ上げた。
そして話し合い当日。
「まず事実確認だけど」
「っ!」
女の子たちは肩をびくつかせる。
「彼女の家の郵便受けに生ゴミを仕込んだり、ネットに書き込みをしたり、そういった嫌がらせは君たちがしたの?」
「……」
皆俯いて、口を噤む。
「その通りですわ」
「リカさん……!」
「イッキ様が、わたくしたちのために時間をとってくださったのです。今さら黙ったところで、いずれわかることですわ」
「はい……」
「それと、FCには僕の独占禁止法があるらしいね」
原作と、同じセリフだ。
「えっ……」
「僕と付き合う子は、毎日日報を出して3ヶ月できちんと別れること。そういう決まりがあるんでしょ?」
「……そんな……」
「そんなことしてないよぉ……」
嫌がらせと違い、明確な証拠はノアの言葉だけだから、ここはFCの子たちも否定する。
「そうだよ……何言ってんのイッキ……」
「みんな、ただイッキが好きで……」
イッキ様は今まで見たこともないような冷たい表情をする。
「!」
「それが事実かどうかはもうどうでもいい。僕はこの子とこれからも付き合う。もうすぐ3ヶ月になるけど、関係ない」
隣で気まずそうな顔をしている彼女の肩を、イッキ様は優しく抱き寄せる。
「今後またこの子を傷つけるようなことがあったら、それが誰であっても許さない」
イッキ様の覚悟と決意に、全員が息を呑む。
「絶対に、だ」
自分たちに向けられた言葉だと悟ったFCの子たちは、目を潤ませ始める。
「言いたいことはそれだけだよ」
「そんなぁ……あたしたち、ほんとにただイッキが好きで……」
「別にあたしたち、彼女を傷つけたりなんて、もうそんなことしないよ……」
そう言った女の子は私の方を見る。
リカがいるから。もう下手なことはしない、ということが言いたいのだろう。
「っていうかイッキ……もうあたしたちとは会ってくれないの……?」
「イッキ……もう会えないの……?」
もう今にもみんなが泣き出しそうな雰囲気になる。
「……イッキ様。わたくしたちの身勝手な振る舞い、申し訳ありませんでした」
自分も罪の対象に含まれているのだと、FCの子たちにわかるように強調する。
「わたくしたちは解散致しますわ。もうお二人の邪魔をするようなことは致しません」
「っ……」
解散という言葉に、何人かは泣き出してしまう。
でも、FCが解散しないと、また同じことの繰り返しだ。
泣いている子たちのことは気になったけれど、私は、"リカ"はイッキ様に向かって深く頭を下げる。
「ただ、これだけはご理解ください。わたくしたちは、本当にただイッキ様をお慕い申し上げて……」
「リカ、もういい」
はあ、とため息をつくイッキ様。
「今後誰かと会う時は、彼女に許可を取る。彼女がダメって言ったらダメ。彼女との約束は最優先。邪魔したら許さない」
泣いていた子たちも顔をあげ、イッキ様の言葉に耳を傾けている。
「その条件でなら、会うよ。僕を好きになってくれたことはありがたいと思ってる」
「!ほんとぉ!?」
「イッキぃ……!」
目がキラキラと輝き始めた彼女たちに、イッキ様は釘を刺す。
「ただし、彼女が嫌がったら本当に会わないし、彼女に何かしたらその時点で縁を切るから」
そこまで言われて、また嫌がらせをしようとする子はいないだろう。
店長仕込みの、上手い飴と鞭の使い方だ。
「それでも十分だよ……!」
「……ありがとうございます」
私は深々と頭を下げる。
「許したわけじゃないよ」
「承知しておりますわ。でも、わたくしたちを気遣ってくださる、イッキ様のその優しさに、わたくしたちは甘えすぎたのですね」
これで収束。
完璧にシナリオ通りに終わりを迎えた。
イッキ様たちが帰ったあと、FCの皆はしばらく私の病室で泣いていた。
それでも譲歩してもらえたことが嬉しくて、複雑な表情になっていた。
「皆さん、そろそろ面会時間が終わりますわ」
「!はい、リカさん……」
「わたくしたち『イッキ様FC』は本日をもって解散致します。その旨、後ほどFCサイトにて公表致しますわ」
「……はい」
「上位会員の皆さん、最後まで手続きに抜かりないようお願い致しますね」
それまで泣きじゃくっていた彼女たちは一斉に顔を上げ、はい!と元気に返事をした。
「ふぅ……」
彼女たちが帰ったあと、ようやく一息つく。
全てが終わった。
「リカ?」
「お兄様……」
「大丈夫かい?やはり話し合いは別日の方が良かったな……」
「いえ。こういったことは、早い方がいいですから」
「リカがいいなら、いいけど……ほら、もう横になって」
「ふふ、もう子供ではありませんのよ」
ルカが布団をかけてくれる。
「……これからどうするんだい?」
「そうですわね……。これからは、何か趣味でも、試してみますわ」
「そう」
ルカは優しい声で頷いただけだった。
これからは、もうFCに縛られることなく、適度にイッキ様と関わりつつ、自分のことに目を向けていける。
ルカがテンポ良く背中をトントンと叩いてくれたおかげで、私は心地よい眠りに包まれた。