第一章:新たな始まり
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
名前は日名・英名どちらで設定していただいても構いません。
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翌朝。
私は何度も目が覚め、もう寝付けないと思うほど寝直した。
見張りが変わる度に、その気配や音で目が覚める。
貧困街育ちは、ぐっすり眠っているようでは生きていけない。
気配に敏感でなければ物を盗られるし、何なら寝ているうちに吸血されることもあり得る。
そうした習慣が、異世界に飛んできて尚、私の中に残っていたのだ。
「!」
少し外の空気が吸いたくて、静かに、千鶴を起こさないように襖を開けると、ちょうど見張りを交代した原田が振り返る。
「おはよう」
「おはよう。早いんだな」
「ああ……誰かが動く気配があると、どうにも目が覚めるんだ」
「そうか……」
「原田、だったよな?」
「ああ」
「あんたはちゃんと寝たのか?」
「俺は交代する前に寝たよ」
「そうか。いいことだな」
原田の横に座り、静かに目を閉じる。
「眠れる時に眠っておいた方がいい。きちんと眠っていないと、いざという時に疲れで動けなくなるからな」
「エリィは寝直さなくていいのか?」
「寝ている場合じゃないしな。もしここで私を雇ってもらえなければ、私は今すぐにでも姿をくらませなければならない」
少しずつ、夜が明けていく。
「……」
原田は何も言わなかった。
それからしばらく2人で並んで座っていたが、外は冷えるからと私は中に戻された。
千鶴が起きてきてから共に朝食を食べ、私だけ部屋から出されて広間に連れて行かれた。
「結論から言おう」
「……」
息を呑む。
「ここで変若水の研究に携わってくれ」
「!」
「実を言うと、元々ここで研究をしていた先生が今行方不明になっててな。その娘が雪村なんだが……」
なるほど。
だからあの子は割とすんなり生かしてもらえてるのか。
「今研究が滞ってる。一般の隊士たちには公開していないし、今研究を進められるような人材が不足してるんだ」
「……よかった」
正座していた足が崩れ、思わず手をつく。
「大丈夫か?」
「問題ない。精一杯努めさせてもらうよ」
元の世界では字など読めはしても書けなかったが、この世界へ来てから記憶にないはずの字を書けるようになっていた。
これで報告書などの書物も問題なく書けるだろう。
それに加えて、元の世界ではゴミ箱に捨てられた図説を読み漁ったりしていたから、多少の知識もある。
「案内しよう、ついて来い」
それから私は、屯所から少し離れた人目につかない小屋に連れてこられた。
「ここは……?」
土方の手にはおにぎりがある。
私には何も答えず、無言のまま小屋の戸を開ける。
そこには、先日であった羅刹たちがいた。
「!」
表情から生気が感じられない。
吸血衝動は収まっているようなのに、髪は白いまま。
「ぅ………………」
おにぎりを檻の中に置くと、暗い奥からゆっくりと手前に向かってくる。
おにぎりをとって、すぐ下がった。
「もしかして、以前私が会ったのはここから逃げたやつ?」
「……ああ」
「あとで逃げた経緯を詳しくまとめて教えて」
「わかった」
檻に近づくが、彼らに反応はない。
「話せるか?」
「……ぁ……………」
「いや……」
「そうか」
こちらの言葉を理解しているかどうかも怪しいな。
「……」
試しに親指を噛んで少しだけ血を出してみると、彼らの目付きが変わった。
「おい……!」
「ぅぅうあああああ!!!」
檻に向かってきたところ、鳩尾を棒で突き、意識を失わさせる。
目が覚めた時に収まっているかどうかだな……。
「だいたいわかった。戻ろう」
「……ああ」
親指から流れそうになる血を舐め、傷を癒した。