序章:世界からの脱却
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
名前は日名・英名どちらで設定していただいても構いません。
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どうやらさっきの男たちは見てはいけないものだったらしく、私たちは新撰組の屯所に連れて行かれた。
私は早速安定商家ルートから外れてしまったようだ。
彼らの雰囲気から察するに、私はこのまま殺されるか、ここで彼らの監視下に置かれるかのどちらかだ。
あの『羅刹』とやらに襲われることではなく、こちらの方が最初の死の運命のようだ。
あそこで羅刹に出会わなければと思う一方で、そうでなければこの女の子、雪村千鶴と名乗る女の子が襲われていたかもしれないと思うと、私が彼らと出会ってしまってよかったかもしれない。
「……」
縄で縛られたまま、広間で正座をさせられる。
慣れない体勢で徐々に足が痺れてくる。
「ねえ」
「……」
「あの女の子は?」
私と彼女は初めこそ同じ部屋に入れられたものの、先に彼女が連れて行かれ、それからしばらくして私はこの広間に連れてこられた。
「あの子より、自分の心配をしたら?」
「自分の心配はもうした。だから聞いてるんでしょ」
そうこう話しているうちに、他の男たちが中へ入ってくる。
ガタイのいい男ばかり。
私の前に座ったのは、ガッチリした体の男と、さっき会った髪の長い男。
「私は新撰組局長の近藤勇だ。名前を聞いても?」
「エレノア・古森・ウィルソン。エリィって呼んで」
「日本人ではなかったのか……」
「ハーフだ。親が日本人とイギリス人」
「はあふ……?親御さんがえげれすの人か……。まあいい。では、エリィくん」
「?」
「君は一体、何者なんだ?」
何者。
彼らの中に、あの混ざり物たちを『羅刹』と呼ぶほど、私たちのような存在が根付いていると思っていたが。
「何者、って?」
「トシから君のことは聞いている。羅刹のような見た目だったが、君は羅刹ではないんだろう?」
「そうだな。あの狂った奴らを羅刹と呼ぶなら、私は違う」
「では……」
君は?と目で訴えられる。
そう問われても、何と返したらいいのか。
「うーん……」
「その……差し支えなければ、トシが見たという姿を見せてもらえないか」
「え?ああ……」
目を閉じて、意識を集中させる。
角が出たのを感じて目を開けると、周りに座っている男たちもギョッとしていた。
「これが……」
「たぶんあんたらが『羅刹』って呼んでるあいつらは、私たちに似た奴と混ざった存在でしょ」
「そのあんたたちってのは?」
「まあ、仮に『吸血鬼』で」
「きゅうけつき……」
「そ、吸血鬼。私の場合はだいたい週に1回吸血衝動がくる。で、血を飲まないとそのうち衰弱死する」
「!」
「吸血鬼は死んだら灰になる。あの羅刹とかいう連中と似たようなもんだ」
「そこまで……」
「決定的に違うのは、吸血鬼は血を飲めば衝動は治るし、相手が死ぬほど飲んだりする必要はない。まあ、お腹満たそうと思ったら死ぬまで飲むけど」
「……」
前に座る2人は顔を見合わせ、1つの小瓶を出す。
「これに見覚えは?」
「何これ」
「変若水という。外国ではえりくさあと呼ばれているとか」
「おちみず?エリクサーも聞いたことないな。ちょっと舐めてみても?」
「は!?」
「?」
見た目は血のような赤。
蓋してあるから匂いはわからない。
「……羅刹ってのは、こいつを飲んだ人間の末路なんだ」
「ふーん……。まあ怖いならこの縄は縛ったままでいいけど」
「……」
飲んでみないと何もわからない。
たぶん、今の状況で私が生き残るには『羅刹』とやらのアドバイザー的地位を確立すること。
それなら一度飲んでみないと。
「ペロッと舐めるだけだ」
「……………わかった。ただし縄はそのままだ」
渋い顔のまま了承し、瓶の蓋を開ける。
一瞬血の香りがした。
「口を開けろ」
私の口の中に、少しだけ液体を垂らす。
「!」
少し味わっただけでも、喉がひりつく。
なるほど、これは。
「……っく……」
「おい!」
蹲る私に、周りが警戒心を強めたのがわかった。
「……っは、これはちょっと……」
まずいかも。
吸血衝動に似たような感覚が全身を襲う。
誘発剤か何かなのか?
「っちょっと、体勢変えたいんだけど」
「!?」
「理性は……飛んでないから、一旦縄取って」
人間の匂いが鼻につく。
いつもより少し重めかもしれない。
「……正直、こんな縄くらい自分で破れちゃうんだから。理性飛ぶ前に早く!」
強く訴えると、近藤がサッと刀で縄を切ってくれた。
「……っは、どうも」
首を自らの手で締め付け、床に蹲る。
血が足りない時、親の血すら飲めない時、いつもこうして衝動が過ぎ去るのを待った。
「っぁ……はぁ、じっとしてれば……そのうち治るから」
出てって、と睨むと、土方は苦い顔をする。
「そんな状態でここに置いていけるわけ───」
「馬鹿なこと言うな……、あんたら人間は、吸血鬼の食料になれる。意味……わかるか?美味しそうな匂いさせてさあ……」
私が舌打ちをすると、土方の合図で何人かが外に出る。
「外には出るが、襖の前にいるからな」
そう言って全員が外に出た。