序章:世界からの脱却
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
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音を立てないようにこっそり抜け出し、私は屋根伝いに気配を感じる通りを目指した。
「この辺りか……」
辺りを見回すと、裏道に月明かりに照らされた白髪を見つける。
「!」
でも、白髪。
もしかすると吸血中か、もしくは衝動に駆られているか。
少し離れたところに降り、物陰から覗く。
「……………嘘」
私はその光景に目を見張った。
3人の男が刀を血に染め、その前には見るに耐えないほど血に塗れた人間が倒れていた。
吸血鬼の人間殺しは大罪。即死刑。その常識は、もしかするとこの世界では通用しないのか。
人間と同様、1人の殺人ごときでは死刑にならないのか。
「……?」
もう息絶えている人間を執拗に刀で刺している男達は、私の方を振り返る。
死体から刀を離してその血を舐めとると、不気味な笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。
「これが最初の死の運命?」
姿は吸血鬼そのもの。もし吸血鬼であるなら、逃げるよりも立ち向かう方がいい。
それに、刀の血を舐めても衝動が治まっていないところを見るに、私の知る「吸血鬼」とは別物かもしれない。
「はぁ……」
高貴な人間様には散々前の世界で虐げられたけど、見殺しにできるほど良心は捨ててない。
「っ!」
出ていこうとした時、後ろから袖を引かれる。
「え」
「だ、だめです」
私の袖を掴んでいたのは可愛らしい女の子。人間の気配がしないし、何故か男の格好をしているけど。
「誰?」
「私は───」
その子が名乗る前に、さっきの奴らが私たちの近くまで迫っている。
「私は大丈夫」
その子の手を離し、私は角から出た。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」
「っふ!」
「ぅぐっ」
隙だらけで襲いかかってくる相手の鳩尾に拳を叩き込む。
うちはお金がなかったから、剣やら銃やら買う余裕はなかった。
だからひたすらに拳法を極めた。
「うぅあああああ!!!」
蹲ったのも一瞬で、また起き上がってくる。
どうやら痛覚が鈍くなっているらしい。
他の2人も不規則に襲いかかってくるが、連携が取れていないせいで仲間を斬ってしまったりしている。
私が避け続けていればこいつらは勝手に殺し合うんじゃないかと思うほど、何の考えもなしに突っ込んでくる。
「1人くらい潰しとくか、なっ!」
突っ込んできた1人を避けて後ろに回り、首をへし折る。
力がある吸血鬼だからこそできる荒技だ。
「っ!?」
首をへし折られた男はその場に倒れ、サラサラと灰になった。
「そこの女の子!」
「っはい!」
私が2人を相手にしていることに安心してか、彼女から先程までの震えはなくなっていた。
「こいつらのこと知ってる?」
「いえ!」
「そう」
女の子の方に向かいかけた男を後ろから倒し、頭を握り潰す。
気がつく頃には、戦闘で昂ってしまったからか、私は吸血鬼としての姿に変わってしまっていた。
「!」
それを見た女の子は、驚いた顔をしたものの、また震えだすようなことはなかった。
「後ろ!」
「!」
回し蹴りをしようと足を上げたところで、男の首が飛ぶ。
「え」
倒れた男の後ろから現れたのは、浅葱色の羽織を着た人間だった。
男の返り血をペロリと舐めると、人間と、同胞に似た味。
「誰?」
足を下げ、女の子を後ろに庇う。
「それはこちらのセリフだ。貴様は『羅刹』なのか?」
「!」
首に刀を突きつけて、男は睨みをきかせる。
『羅刹』?
この世界でも吸血鬼の別名があるのか?
しかし、同胞の気配はない。
先程の奴らは同胞に近いが、厳密に言うと異なる。
では、奴らのことを『羅刹』と言うのか?
「その『羅刹』ってのは、さっきの奴らみたいなのを言うわけ?それなら私は違うけど」
「そうか」
刀を納めたものの、警戒心は解かれない。
「さっきの見られたんだよ。殺さないの、一くん?」
「それは副長が決めることだ」
副長。
この世界の知識が頭をよぎる。
彼らはもしかすると、『新撰組』か。
角を収め、髪や目の色を元に戻す。
「!」
それを見た男たちは目を見開いて驚き、後からやってきた『副長』とやらに報告していた。
「あの……」
後ろで不安そうにしていた女の子が震えながら私を見上げる。
「大丈夫。何かあればあんたのことは逃がしてやるから」
ぽんぽんと肩を叩いてやると、少し顔色が良くなった。