終章:最期のときまであなたを想う
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
名前は日名・英名どちらで設定していただいても構いません。
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新撰組屯所を離れて数年が経った。
時間の許す限りできるだけ遠くへ、と全力を出した結果、もうどこだか全く検討もつかない、私は小さな村にたどり着いた。
初めこそ住人に警戒されていたものの、前の世界で築いた食べられる植物への知識や、天気の読み方などの知識が重宝され、村に受け入れてくれた。
変若水の効果が切れる頃には、住人達が私用の部屋を用意してくれて、村の医者まで呼んできてくれた。
どうもこの世界では、人との巡り合わせが良い。
それから数年、私はこの村の住人達と長閑な生活を送っている。
私の病の進行を抑えるための薬だと偽って、吸血衝動を抑えるための薬草を取ってきてもらい、何とかなっている。
「お姉ちゃん!今日も薬草取ってきたよ!」
「こら、きちんと挨拶なさい。うちの息子がいつもすみません」
「いいえ。こちらこそ、いつも薬草を取ってきていただいて……」
幸い、この村の周囲は森に囲まれており、薬草が取れる。
栽培方法も分かっているし、取りすぎなければずっと薬を作り続けられる。
恵まれすぎた環境だ。
「有難いお言葉です。エリィ様には我々も殿も大変お世話になりましたから」
この辺境の村を納める将軍は、とてもフレンドリーで、この世界では珍しく時折共に農作業をしていることもあるくらいだ。
ここ数年、戦で忙しくしているが、住人との関係も良好。
私のことも受け入れたあたり、懐が深いと思う。
「いつまでもその、将軍様のことを口にされる皆さんには慣れませんね……」
殿ならこう言うだろう、こう思うだろうという、代弁とも言える行為は、前の世界では厳禁だった。
恐れ多いだの何だのと言論統制され、誰もお上の話をしなくなった。
「ああ、エリィ様が住まわれていたところでは、あまりこういった話はされないのでしたね」
「ええ」
「他の村はわかりませんけれど、うちでは───」
私に薬を届けに来てくれる住人達は、何かと話をして帰る。
その話の中で、京の新撰組が北上しているとか、誰が死んだとか、噂を聞いた。
山南と藤堂はもう、灰になってしまっただろうか。
千鶴は、お父様と会えただろうか。
気にかかることは色々とある。
……原田が、今生きているのかどうかも。
「あら、私ったら話し込みすぎましたね」
「ねーえー、僕全然お喋りしてない!」
「また今度な、坊主」
「……絶対だよ!」
「ああ、約束だ」
上手く小指を曲げられないけれど、指切りをする。
子供はまたねー!と元気よく帰り、親は私にお辞儀をして帰った。
このところ、起き上がるのも人の手を借りるし、もう足は言うことを聞かなくなった。
腕を上げるだけでも精一杯で、指を使った細かい作業はできなくなった。
最近は薬を飲むにも噎せることが増えてきて、死に向かっている感覚が強い。
「こんな時に思い出すのが、あの人の顔だものなあ……」
原田は夢を叶えられたかな。
叶えられていたらいいなと、思う。
その時私が傍にいられたら良かったけれど、例え傍にいられなくても。
私のせいで散々振り回してしまったから、最後くらいは幸せに夢を叶えていてほしい。
「エリィ様」
「?何でしょう」
屋敷の世話役が襖の向こうから話しかけてくる。
「お客様です。お通ししてもよろしいでしょうか?」
ここの住人ならこんな断りはなく入ってくるはず。
誰だ?
幕府は今負け戦に追われているし、私の存在を知っていて自由に動けそうな奴となると風間達だが……。
彼らなら、こんな正面から来ないだろう。
「どうぞ、通してください」
私の言葉を聞いた世話役は、どうぞ、と言って誰かを中へ迎え入れた。
「……」
誰だろう。声はしない。
鈍った感覚では、人間なのか鬼なのかもよくわからない。
「どうぞ」
なかなか入ってこない相手に、私から声をかける。
すると、ゆっくりと襖が開いた。
「!」